006 『普通と巨乳の狭間』

 胸の大きさというと、AとかBとかCのようなアルファベットに頼るか、シンプルにバストサイズで表記しようとすることが多いかもしれないが、正確にはそれは正しくない。

 肝心なのはアンダーバストなのだ。

 例えば、バストサイズが90センチだとしよう。

 普通に考えれば間違いなく巨乳の部類に入るだろうが、アンダーバストが75センチだとしたらどうなるだろうか?

 答えは『90-75=15』だ。

 カップ数はトップバストとアンダーバストの差で表し、(メーカーにもよるが)Aカップを10センチとして、そこから2.5センチ大きくなるにつれ、カップ数は上昇する。

 つまり先程の15センチの場合、Cカップとなる。

 この場合、はっきり言って胸自体の大きさは、そこまで大きくないと言える。

 バストサイズ90という数字は確かに大きく感じるかもしれないが、実際はそうではないということだ。

 なので重ねてもう一度言うが、大事なのはアンダーバストなのだ。

 カップ数だけでも、バストサイズだけでもそれは分からないのだ。

 じゃあ、どうやって胸の大きさを測るかと言うと、ここで出てくるのがブラサイズである。

 ブラサイズでは、カップ数と共にアンダーバストのサイズが分かるため、より正確な胸の大きさを測ることが可能だ。

 先程のバストサイズ90、アンダーバスト75の場合、カップ数はCなので、アンダーバストを記載しブラサイズは『C75』と表記する。

 つまり大きな胸というのは、カップ数が大きく、アンダーバストが小さいことを言うのだ。


 と、苫小牧とまこまいに解説をしてやると、苫小牧とまこまいは興味があるんだかないんだかしらないが、「それで」と話を進めてきた。


「どうして『Fカップがそれほど大きくない』になるのよ」

「実はアンダーバストが小さすぎると、そこまで大きくないな––––って思うことがあるんだよ。特にFカップは割と巨乳の部類に入る分、あれ……思ったよりも––––感は強くなる」

「意味分からないわ」

「要するにカップ数だけで大きさが測れるわけじゃないし、アンダーバストが小さすぎると思ったよりボリュームが無いって話だ。これは、Fを超えないとほぼ改善されない」

「つまり、F以上ならアンダーが細くても大きく見えるってこと?」

「そうだ、Fというサイズは大きそうに見えて、実はそこまででもない。いわば、普通と巨乳の狭間にあるカップ数なんだ」


 苫小牧とまこまいは僕の話を数回頷いて納得したように、「で?」と会話をまとめにかかる。


「草壁さんのバストサイズとアンダーバストはいくつなの?」

「じゃあ、ブラサイズを教えてやるからそこから計算してみろ」


 苫小牧とまこまいはムッと顔をしかめた。


「……なんでそれを知っているか聞いても?」

「本人から直接聞いた」

「それは、どういう話の流れで?」

「確か……前に草壁がネットでブラを買う時に買い方が分からなくて、代わりに買ってやったことがある。その時だ」


 苫小牧とまこまいは「まあ、納得出来る理由ね」と頷いた。


「それでサイズはいくつなの?」

「I65」


 苫小牧とまこまいはそれを聞いて、眉を潜めてから計算を始めた。


「……アンダーがピッタリ65だとした場合……バストサイズはIだから……ちょっと待ってI⁉︎ Iカップってこと⁉  ABCDEFGHIってこと⁉︎ 数えるのに指が九本も必要じゃない!」


 計算ではなく、アルファベットを数えるのに指を折りながら苫小牧とまこまいは急に叫び声を上げた。


「お前……僕の話を忘れたのか? カップ数で大きさは決まらないぞ」


 まあ正直、G以上はそんなに関係ないと思うが苫小牧とまこまいが再び眉を潜めながら、


「……IはAから八個離れるので、2.5を八回足して……30センチ」


 なんて感じに指を折って計算を始めたので、僕は黙って見守る。

 これもある意味勉強だからな。数学と保健体育の。いや、ファッションのかな(せめて他の人に教わって欲しかったけど)。


「アンダーバストが65だったから、それに30を足して……95! 答えは95ね! って、95⁉︎」

「大正解だ、苫小牧とまこまい


 正解したのを褒めてやっても、苫小牧とまこまいは止まらない。


「ちょっと待って! バストサイズが95って何よ! 大き過ぎでしょ!」

「だからグラビアアイドル並みに大きいって言ったろ」


 苫小牧とまこまいは自身の胸を見下ろす。

 スマートで引き締まった胸を。


「…………はぁ」


 なんか、ため息をついた。


「何、ため息なんかついてるんだよ」

上終かみはてくんは、胸の大きな人が好きなのね……」

「何言ってんだ、胸の大きさなんて僕は気にしないぞ」


 苫小牧とまこまいは信じれないという目でこちらを見ていた。


「……アレを言った後でよくそのセリフが言えるわね––––この、おっぱい星人」

「はっ? いやいや、お前何言って……」

「あのね、どうやったって誤魔化せないわよ。男性であるあなたがあそこまでの知識を保有していて、好きじゃないなんて、ありえないでしょ」

「…………」


 おやおやおやおや?

 なんで苫小牧とまこまいは僕にそんな疑惑を向けているのだろうか?

 ありえないな、それは。うん、ありえない。


「と、苫小牧とまこまいさんともあろうお方が、何を勘違いしたのかは知らないけど、僕は別に知識として、そう、知的好奇心として知っていただけであり、別に深い意味とかは別にないぞ、いやまじで」


 苫小牧とまこまいはジト目でこちらを見ていた。


「……もういいわ」


 なんか、ちょっとだけ苫小牧とまこまいの高感度が下がった気がした。

 いや、別に好きであげたわけじゃないから、少しくらい下がったところで、特に困ったりはしないのだけれど……。

 如宮きさみやに告げ口されるのだけはマズイ。

 母さんは、草壁ほどではないが––––結構な巨乳なのだ。

 その情報が如宮きさみやに知られたら、「上終かみはてくんは、ママのおっぱいが大好きな、マザコンさんなんですわね」って言われるのは目に見えている!

 いや、もちろん違うぞ! 僕はおっぱいなんてどうでもいいし、マザコンでもないし、その二つを足し算して、母親のおっぱいに興味があるなんて事実はこの世に存在しない。

 事実無根だ。


「……ねえ、次は私も一緒に行ってもいいかしら?」

「それは草壁のところって意味か?」

「そう」


 突然、苫小牧とまこまいから驚きの提案を提示された。


「一緒に行くのは別にいいけど、一応理由を訊いても?」

「そうね、ちょっと気になるわ」


 気になる。苫小牧とまこまい的に思う所でもあるのだろうか。

 ただ、草壁は苫小牧とまこまいのファンだと言っていたので、きっと喜んでくれることだろう。

 問題は、


「言っとくけど、尋常じゃない臭さだからな」

「どのくらいなの?」

「あまりの臭さに気絶して、あまりの臭さに目が覚めるくらい臭い」


 実際に僕がやったからな。

 気絶して、草壁の臭いを気付け薬に覚醒した。

 気絶した元で覚醒した。自作自演だ。

 とんだ自作自演だけど。


「とにかく、尋常じゃない臭さだ。苫小牧とまこまいも口呼吸した方がいいぞ」

「そんなので防げるわけないでしょ」

「いや、案外行ける。僕が保証する」


 苫小牧とまこまいはため息をつき、


如宮きさみやさんは、その草壁って子とあったことあるのかしら?」

「あるな」

「どうやって臭いの対策をしていたのかしら?」

如宮きさみやは––––」


 僕は思いだす。確か、


「––––ガスマスクしてたな」

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