第三章 6話 死闘!!
高々と上がられていた左手が振り下ろされると、空を覆っていた厚い雲から幾筋もの雷が、鷹綱達目掛けて振り注いで来る。
「うああ!」
全員が雷の直撃を受けたが、誰一人として怯む者は居なかった。
「これは、楽しませてくれそうだ……」
「そうじゃの」
不適な笑みを浮かべ、天波とエルヴィスがそれぞれの武器を構え直すと、鬼神へ向かい走り出す。その背後で真夜が再び神楽舞を舞いだした。
「
真夜が荒振る神を
「おのれ!小娘!」
真夜の唱える祀詞に顔を苦痛に歪めつつ、鬼神は真夜へと向かって行く。その右手に持った棍棒を真夜へと振り下ろした。
「ガギィイイン」金属の触れ合う音が響き渡る。素早く真夜の前へと踊り出た鷹綱は、二刀で鬼神の棍棒を受け止める。
「ぐうぅうう!」
鬼神と鷹綱の力比べが始まっていた。鷹綱の顔はみるみる真っ赤になり、額には血管が浮かび上がる。全身の筋肉が膨れ上がる。だが、鬼神との力比べは互角であった。
一進一退を繰り返していた鬼神と鷹綱の元へ天波が走り寄る。その動きを横目で捉えていた鬼神が、突然凄まじい速さで棍棒を天波へ薙ぎ払った。鬼神の放った棍棒は天波の頭部へと直撃した。
「バキィイ」と辺りに大きな音が響く。
「寛大!」
鷹綱は慌てて友の姿を確認するべく走り出す。彼の視界に入って来たのは、兜を飛ばされた友の姿であった。天波は鬼神の攻撃を紙一重で避けていた。常人であれば確実に首を飛ばされているであろう攻撃であったが、彼の首の代わりに飛んだのは、彼の兜であった。
しかし、天波の額からは一筋の赤い線が流れる。天波は自らの額に手をあてると、その手先を確認する。そして、指先に付いた液体を軽く舐める。それは鉄の味がした。自身の鮮血であった。「ブッ」と、口の中の液体を吐き出すと、天波は不適な笑みを浮かべ、鬼神を見据える。
「やる…………」
一言発すると、槍を構え直すし再び鬼神へと走り出す。
「高天原に神留座す。天津神国津神。八百萬の神等と共に聞食せと恐み恐み申す~。其は姿在りし者や、其は姿見えにし者や、幻影に在りし者よ。我が声を聞き賜れば、その力をもて我の敵を幻の虜へと誘わん……」
再び真夜が神楽を舞い、新たに神の力を使う。その声に導かれる様に鬼神の周辺に霧が立ち込めたかと思うと、空いている手で鬼神は目を押さえ立ち止まる。
「幻影の術がかかりました。鬼神には幻が見えると思います!」
「助かる!」
真夜の声に短く返事を返した天波は、一気に鬼神との距離を縮める。
鬼神は自分の身に何事が起こったのか理解していなかったが、近づく人間の姿を見ると棍棒を振り上げる。
だが、その棍棒が振り下ろされた先は、天波のいる方向とは別の方向であった。そして、またも轟音と共に棍棒は地面に埋まる。天波はその棍棒に向かい思い切り跳躍すると、棍棒の上に着地する。そのまま棍棒を駆け上がって行き、鬼神の腕から鬼神の顔に目掛けて勢いよく
「がぁああああ!」
苦痛の声をあげる鬼神の背後に黒い影が現れる。いつの間にか鬼神の背後に回っていたエルヴィスは、無防備な鬼神の背中に向けて、渾身の一撃を加えた。顔と背中に同時攻撃を受けてたまらず鬼神は片膝を着く。
だが、次の瞬間には恐ろしい力と速さで棍棒を横に薙ぎ払った。鬼神は目の前に着地した天波と背後にいるエルヴィスを同時に攻撃するべく、上半身を思い切り背後まで回転させた。天波は自らに迫った棍棒を地に伏せる様に避けた。彼の頭上を風が切る轟音と共に棍棒が通り去る。棍棒はその勢いのまま鬼神の背後にいるエルヴィスに迫る。
「ほっ!」
短く声をあげて背後のエルヴィスは地面を思い切り蹴って跳躍する。彼は身軽で素早い忍者らしく、棍棒をかわした後に、鬼神の背中に着地すると再び素早く跳躍する。そして、鬼神の頭上で回転しながら鬼の正面へ回り込むと静かに着地した。
鬼が正面を向くのと彼が着地するのが同時であったが、エルヴィスは両手に持った小刀を構え直すと自らの間合いに入る為に鬼神の懐へ飛び込む。素早く両手を広げると、体勢を低くする。
「秘剣。桜花乱舞」
そう呟くと両手に構えていた小刀を、凄まじい速さで交互に鬼神へと叩き込む。その一撃一撃は大きな傷にはならないが、攻撃を受ける鬼神には無数の傷が刻まれて行く。傷口から溢れ出る血はエルヴィスの連続攻撃によって巻き起こった風の流れに乗り、その
それは、美しくも恐ろしい光景であったが、強靭な生命力を誇る鬼神の動きを止める事は出来なかった。鬼神は棍棒で自らとエルヴィスの間に壁を作ると、何も持っていない左手の拳を振り上げる。棍棒に邪魔されて攻撃の手を緩めたエルヴィスに向かって左手が振り下ろされる。だが、その左手はエルヴィスの身体をすり抜けた。エルヴィスの姿は
「
鬼神は一言吼えると、再び、雷を呼び出そうと左手を上げる。空を厚く覆った雲からは、再び雷が降り注がれそうになる。その瞬間、天波は左手に槍を持つと、右手で素早く脇差を鬼神の顔へと投げつけた。その刀身に向かい、雷の殆どが吸収される様に落雷する。
「むぅうう!」
雷の攻撃を塞がれた鬼神は、怒りの形相を天波に向ける。その視線を受けた天波は、涼しそうな笑顔で視線を受け流した。
「寛大め。なかなか、やりおる。鬼神に一泡吹かせた」
その一連の動作を見ていた鷹綱も笑顔を浮かべる。
「桔梗、こっちへ!」
彼の背後に居た桔梗を呼び寄せる。桔梗は鷹綱の側に走り寄る。鷹綱は左手に持った太刀を逆手に持ち替えると、鞘に収める。だが、太刀が完全に鞘に納まる直前に鷹綱は左手の親指を刃にあてた。彼の親指には一筋の赤い線が引かれる。
「鷹綱殿?」
鷹綱の行動が理解出来ない桔梗が疑問の声をあげる。鷹綱はすぐにはその質問には答えず。右手に持つ太刀の刃に、左手の親指を当てると、自身の血を刀身に塗りつける。
「桔梗も太刀を出してくれ」
尚も彼の行動が理解出来ない桔梗であったが、言われた通りに鷹綱の眼前に自らの太刀を差し出す。鷹綱は桔梗の太刀にも血を塗り付けた。
「大事な形見の太刀を、拙者の様な者の血で汚してすまぬな……」
「いや、そんな事はまったく気にしないで良い。だが、これは何を?」
「あの鬼神は、まだ自らの力を上手く制御出来ておらぬ。鬼から昇華したばかりであるからな、その力を持て余しておる」
「そ、それで?」
「倒すなら今しかない……と言う事だ。これは、その為の力を得る為であってな……」
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