第54話 ホワイトデー


「刹那せんぱーい、桔梗先輩が来ましたよ。外でにこにこ笑いながらキッチンを盗撮しようとしていたんで、声をかけてしまったんですが、大丈夫でしたか? 準備もですが、刹那先輩のプライバシーとか……」

「ありがとー、ちょうど仕込みと、片付けも終わったから大丈夫だよ。あと、いつものことだから気にしないでいいよ。あ、でもせっかくだし、桔梗に紅茶を淹れてもらってもいいかな? 代金は俺の給料から減らしていいからさ」

「任せてください、とても良い茶葉を使わせてもらいますね。例えるならば、ゲーム後半で手に入るレアアイテムみたいな茶葉です」

「待って、そんなの使われたら、俺の給料がなくなるんだけど!! アバ茶でいいよ」

「良くないですぅぅぅ!! そんなものだしたら私があの人に殺されるじゃないですか!! 私のおごりですから安心してください」



 キッチンで作業をしていると双葉に声をかけられた。指定した時間より30分ほど早いけど、まあ、いっかー。ちょうど店長に言われていた仕事が終わったのでタイミングがいい。実は、桔梗のほかにアリスも招待しているんだよね。二人にホワイトデーの予定を聞いたら暇とのことだったので、お店に手作りパンケーキを食べに来ない? って招待したのだ。桔梗はすごい食い気味で、アリスは「可愛いパンケーキにしてね」と言ってきてくれることになった。あ、でも、一緒に招待したこと言ってないや。まあ、江の島で仲良くなったみたいだし、大丈夫だよね。

 俺は聞いていた桔梗の好みに合わせてパンケーキを作り始める。店長はこういう時は食べる人の笑顔を浮かべてなさいって言っていたな。最近の笑顔だとどんなのだろう。ああ、あれだ。俺のなくなったパンツと同じ柄のハンカチをみてにやにやしていたなぁ……なんでハンカチでにやにやできるんだろうね、まあ、よくわからないけど桔梗が幸せならいっかー。



「刹那先輩!! 何を考えてるんですか!! あのクールそうな女性も刹那先輩に招待されたって言っていたので席に案内をしたら桔梗先輩が虫みたいな目になっちゃたんですけど!! 例えるならば、改心した敵仲間キャラがまた闇堕ちをしたのを観た気分です!!」

「ああ、FF4にいたよね。『俺は正気に戻った』とか言ったくせにまた裏切るんだよね……あいつのせいでクリスタルが……」

「なんの話ぃぃぃ!!! 私はFFは10からしか知りません、最近7がリメイクされたなぁくらいの印象ですねってそんなことはどうでもいいんですよ!! おかげで桔梗先輩の近くのお客さんが帰っちゃたんですけど!?」

「ラッキー、これで少し暇になるなぁ」

「このクズバイトォォォォォ、我が家の家計がピンチになるんですが!? 例えるならば喫茶店でさぼっている部下にあった上司の気分です!!」

「あ、パンケーキできたからもっていかなきゃ」

「私の話ぃぃぃぃぃ!! まあ、いいですよ、生きて帰ってきてくださいね」



 俺は手を振ってこちらに笑顔を浮かべている双葉に声をかける。




「え、双葉も来てよ、俺パンケーキを二つ持ってるから両手がふさがるし、紅茶の説明は双葉の方が得意だよね」

「嫌ですぅぅぅぅ!! 例えるならば、全裸でゾンビの群れに突っ込めって言われた気分です!! まあ……でも、その……今度デートをしてくれるって言うならいいですよ」

「いいよー、バイトない日なら基本暇だしね」

「仕方ないですね、私の紅茶テクをお見せしましょう!! あ、刹那先輩ってどんな系統の服装が好きですか?」

「ああ、最近はアークナイツのヴィグナちゃんの水着かな」

「二次元!! 私は三次元の話をしているんですけど!?」

「パンケーキ冷めちゃうしそろそろ行こうか、この前の格好がすっごい似合ってたよ」

「くっ、嬉しいと思ってしまう自分が憎い」



 そうして俺たちは桔梗とアリスの待つテーブルへと向かうのであった。パンケーキ喜んでもらえるといいなぁ



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