第7話 買い物にきたんだけど

「そういえば刹那のお母さんは今日も夜遅いんですか?」

「そうなんだよね、今締め切りがやばいらしくてさ。下手したら帰ってこないかも」

「それって二人っきりって事ですか。えへへ、刹那と二人っきり……」



 俺の言葉に桔梗は女子がしてはいけないような顔でにやにやとしている。なんでこんな風な顔をするんだろうね。昔俺のこと好きなの? って聞いたら「ばっ、ばかじゃないの、勘違いしないでよね!!」って言われたから勘違いしないけど普通の人はこいつ俺にほれてんじゃねって勘違いするくらいやばい顔しているんだけど……



「よかったら今日もご飯を作ってあげますよ、何が食べたいですか?」

「そうだなぁ。今日はパスタが食べたいかも。でもいつも作ってもらって悪いから俺が作るよ」

「刹那の手料理も捨てがたいですね……では私がおかずを作りますよ」



 そういって俺たちはスーパーに行くことにした。家に調味料があるのでパスタソースと桔梗が作るおかず分だけでよさそうだ。



「あの子大丈夫でしょうか?」



 桔梗の視線の先を見ると女の子が転んで泣いている。近くをみてもお母さんらしき人はいないようだ。ひょっとしたら迷子になってのだろうか。声をかけるか……俺達が少女に近づいて声をかける。



「大丈夫? 迷子かな」

「え、あのね……迷子に……ひぃ!!」

「刹那が他の女の子に優しくしてる……」


 少女は俺の方をみて何かを言いかけたが、桔梗を見るとなぜか悲鳴を上げてうずくまってしまった。え、どうしたの? 何でそんな化け物にでもあった反応をしているの?



「ああ、すいません。つい……嫉妬してしまって……刹那はロリコンじゃないですもんね。あなたは迷子になったのでしょうか? チョコがありますけど食べますか?」

「……食べる」



 桔梗にビビっていた少女だったがチョコにつられて顔を上げた。甘いものの力って偉大だね。マリーアントワネットが「パンが無ければケーキを食べればいいんじゃない」って言った気持ちもわかるよ。だってうまいもん。革命してる場合じゃないよね。



「おい、岬なにやってるんだよー、早くしないとごはん作る時間なくなっちゃうだろ……あの……あなたたちは……?」



 俺達が少女に詳しい事情を聞こうとすると同い年くらいの少年がやってきた。どうやら彼が保護者の様だ。俺たちを怪訝な顔で見ていたが事情を説明すると納得してくれようでむっちゃお礼を言われてしまった。少年のほうはしっかりしてるなぁ。



「岬が世話になりました。ほらいくぞ」

「うん……ありがとう。あほズラなお兄ちゃんと、目がこわいお姉ちゃん」



 俺達は少女たちに手をふる。なんか懐かしいね。昔の自分たちを思い出すよ。あの少女も将来高校生になったらメイド服着て少年の家で料理したりすんのかな。




「あの子たち見てたら小学生のころを思い出すね、桔梗の家も共働きだったからかよく一緒に買い物に行ったよな。それにしても変わったよな、桔梗は」



 今でこそクラスの中心にいる桔梗だが昔は本当に引っ込み思案で買い物も俺の後をついてくるだけだった。家が隣ということもあり、うちの家族と桔梗の家族も仲が良く一人でいるより二人のほうが安心だろうとよく一緒にいたものだ。その時彼女と俺は料理や家事を覚えたのだ。桔梗がやたらつんつんし始めてからはあまりそうなることがなかったので思わず感傷にひたってしまった。



「ええ、隣に並びたいって人がいたので色々がんばったんですよ。その……最近はつんつんしていてすいませんでした。今のこんな私は嫌いですか?」

「いや今も前もその昔の桔梗だって嫌いじゃないよ、そもそも嫌いだったら幼馴染だからってずっと一緒にいないでしょ」

「やはり刹那は私に優しいですね」



 桔梗は嬉しそうに微笑んだ。俺達はそのまま買い物をすませて自宅へと帰宅した。

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