第32話 委員長たちと夕焼けを見に来たんだけど

 パンケーキを堪能した俺達が外に出ると空はもう暗くなりはじめてきた。俺達は夕焼けを見るために島の方へ行くことにした。心なしか桔梗と委員長の間の空気が柔らかくなった気がする。

 島の頂上に行くまでに色々なお店があるのでそれを楽しみにしながら歩く。



「桔梗に委員長!! シラスまんだってさ、食べようよ!! 絶対美味しいって」

「いいですね、食べましょう、あーんしてあげましょうか?」

「刹那……私達パンケーキを食べたばかりなのだけれど……そんなに食べてばかりだと太るわよ」

「大丈夫だって、ご当地名物は別腹だよ」

「あいにくだけれど人には別腹というの臓器は存在しないのよ……」

「え、でも桔梗がこの前甘いものは別腹だから大丈夫ですっていって、俺が作ったケーキを一人でホールで食べてたよ。大丈夫って聞いたら女子には別腹があるんだってさ。だから委員長もパンケーキは別腹に入ってるから大丈夫だよ」

「二宮さん……」

「違うんです、刹那が作ってくれたのが嬉しくて……というか刹那、内緒にしてくださいっていったじゃないですかぁぁぁぁ!!」



 カフェでケーキ作りを教わったから普段料理してくれるお礼にケーキをプレゼントしたらその場で全部食べちゃったんだよね。美味しそうに食べてもらえてうれしかったなぁ。

 俺と桔梗が騒ぎながら山を登り、委員長が呆れた様子でついていく。でもその表情はホテルで会った時より穏やかで、少し安心した。

 俺達は山を登りながら展望台を目指す。景色がいいからか人気な様で山道にはそこそこの人がいる。いくつかの神社があるのでその一つにお参りをすることにした。



『委員長の悩みが解決しますように』



 俺は5円玉をいれて一つだけ願いごとをする。やっぱり友達が悩んでいるのは悲しいからね。早く解決するといいなぁと思う。他の二人も何か祈っている。特に桔梗は一心不乱に願っているようだ。すごいね、熱心な仏教徒なのかな? 俺は都合のいい時だけ神様を信じるようにしてるよ。



「委員長と桔梗は何を願ったの?」

「えへへ、聞きたいですか? もちろん刹那と結婚……」

「言うはずないでしょう、願いごとは他の人に言ったらかなわないのよ」

「あ、刹那今の無しです!! 私も秘密です!!」

「ええ、残念……あ、じゃあ、俺が二人の願いをかなえるなら言っていいんじゃない?

「本当ですか? 刹那が18歳になったらハンコを押してほしい紙と行って欲しい場所があるんですけど付き合ってもらえますか?」 

「んー? よくわからないけどいいよ。ハンコくらいポンポン押しちゃうよ」

「本当ですか? ちなみにシャチハタじゃだめですからね!!」

「刹那……よく考えてから約束はした方がいいわよ……あなたの人生は今、大きく変わろうとしているのよ……でも、そうね、もし、あなたが私の願いをかなえてしまったら大変なことになるわね」



 俺の言葉に委員長はふふっと笑い、桔梗は興奮したように子供は何人とか、やはり一軒家が欲しいとか言っている。二人の願い事は結局教えてもらえなかった。でも二人とも願い事が叶うといいなぁと思う。

 そして俺達はようやく、頂上へとたどり着いた。お金を払えばエスカレーターで行けるんだけどやっぱり楽しみたいよね。

 季節のおかげか、展望台の上から綺麗な夕焼けが見えた。よほど有名な場所なのかどんどん人が増えてくる。そんな中でなぜか委員長だけが少し辛そうな顔をしている。



「懐かしいわね……」

「その割にはあんまり元気な表情じゃないけど大丈夫?」

「大丈夫ですか、何か飲み物でも飲みますか?」

「ええ、大丈夫よ……色々考えてしまって……せっかくついてきてくれたのにごめんなさいね」



 展望台で何かを思い出したのか、彼女はますますつらそうな顔をした。そして展望台をじっくりとしたから上までみて溜息をついた。俺には綺麗な夕日が見えるけしきとしか思えないが彼女には何か特別なものが見えているのだろう。

 俺と桔梗が委員長を見守っていると委員長の視線がある部分へと向かった。それは親子だった。



「パパー、夕日が綺麗だね」

「そうだね、ほら夕日を背景に写真を撮ろう」



 近くに家族で旅行に来たのか、おっさんと女の子が夕日を背景に写真を撮影している。二人はとても幸せだったけど、それを見つめる委員長の目は辛そうで、まるで失ったものを羨んでいるそんな顔をしていた。



「ごめんなさい。ちょっと気分が悪いから休むわね」

「委員長!?」



 そう言って駆け出して行った委員長の顔は今にも泣きそうで、俺と桔梗は顔を見合わせる。俺達は慌てて追いかけようとするが人ごみのせいで思うように動けずに途方に暮れる。ようやく展望台を抜けた時にはもう委員長の影も形も見えなかった。



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