第33話 三千院アリスの独白
俺と桔梗は委員長を探して走っていた。江の島は結構広いので一人の人を探すのはかなり難易度が高くなかなか見つからない。
「刹那……委員長は大丈夫ですよね……」
震えて俺の手をつかむ桔梗の目には『自殺者注意!!』と書かれた看板がある。いやいや、さすがにないでしょ。でも一人にしてはいけないという事は俺にだってわかる。しかし、連絡を取ろうにも俺のスマホは電池が切れているし、そもそもつながっても出てくれるかわからないんだよなぁ。
俺が悩んで呻いていると桔梗が意を決したように口を開いた。
「刹那……委員長の居場所がわかる方法が一つだけあります」
「え、本当!? さすが桔梗!!」
俺は桔梗を褒めるがなぜか目をそらされた。なんでだろうね。なんかすっごい迷っているんだけど……
「あの……教えてもいいですが絶対ひかないでくださいね」
「当たり前だろ、俺が桔梗に引くわけないじゃん」
そうやって俺は何かを取り出した桔梗から委員長の場所を聞くのであった。
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気分が悪くなった私は刹那と二宮さんに申し訳ないと思いながらも、駆けだしてしまった。理由はわかっているあの日の事を思い出してしまったからだ、最高の思い出から悲しい思い出に変わってしまったあの日の事を、家族で江の島で言った最後の日を……
私が父と最後の旅行に行ったのは小学生の時だった。入退院を繰り返していた父が、久々に遠出をしようと言って連れて行ってくれたのだ。あの頃は気づかなかったけれど、父はかなり無理をしていたのだと思う。今思えば母もどこか悲しい顔をしていたような気がする。
「アリスこっちに来なさい。夕日をみよう」
「はーい」
展望台で走りまわっていた私を父が呼んだ。私は父に名前を呼ばれるのが好きだった。父と一緒の蒼い目は私にとっての誇りであり、アリスという名前はそれにぴったりだと思っていたからだ。
蒼い目という事で学校の同級生にも変な目で見られたものだ。でも大きくてかっこいいお父さんと同じ目だと思うと不思議とイヤではなく、むしろ誇らしかった。ああ、でも最近は変わった男の子のおかけでみんなに話しかけられるようになったなぁと思う。「ブルーアイズ」とか呼ばれてからかわれるのはちょっとイラっとするけれど、異物として避けられていた時よりは全然いい。それに私を見つめる彼の目には本当にかっこいいなぁという感情がわかるからか、嫌ではない。
「夕焼け綺麗だねー、でも何でみえなくなっちゃうんだろ。ずーと見えてればいいのに」
私は父から買ってもらったホットコーヒーを飲みながらつぶやく。夕焼けがはもう落ち始めており暗くなりそうである。
「綺麗なものはね、限られた時間だから綺麗なんだよ。人との関係もそうだ。限られている時間だからこそ、大切にするし尊いと思うんだよ」
「えー、変なのー、綺麗なものはずっと見てたいし、私はお父さんやお母さんとはずっと一緒にいたいよ」
私の言葉にお父さんは目線を下に向けた。そして後ろで私とお父さんのやり取りを見ていた母はなぜか、すすり泣きを始めて走り去ってしまった。もう、お母さんは泣き虫だなぁ。私だってもう人前では泣かないのに……私がお母さんの方をふりむこうとするといきなり抱きしめられた。
「そうだな、アリス。俺もお前とずっといたかったよ。最近さ、想像するんだ。お前が成長して中学生に
なって、受験勉強がんばって、高校合格してさ、発表の時に俺だけ泣いちゃうんだ。それでさ、高校生になったお前の制服姿をいっぱい写真撮って、気持ち悪がられたりとかするんだろうなぁ。高校に入学したらさ、お前はお母さんに似て美人だから、たくさんの男の子に言い寄られるんだけど、きっとクールに振るんだろうな。でもその中でいいなって思う人が現れて、そいつをうちにつれてくるんだ。それでお父さんはさ不機嫌になっちゃってさ、お母さんとお前に怒られるんだよ。それでそいつとお前は結婚して幸せになるんだ。ああ、見たかったなぁ……お前の花嫁姿。絶対世界一綺麗に決まってるんだ……」
お父さんの抱きしめる力が強くなる。私を抱きしめたまま私の胸の中で泣き始めたお父さんの頭をなでてあげる。昔私が泣きじゃくっていた時にお父さんがやってくれたように。優しく優しくなでてあげる。全くもう、お父さんもお母さんもこんなところで泣いちゃって恥ずかしんだから。私だけでもしっかりしないとね。
「アリス俺がいなくなったらお母さんのいう事をちゃんと聞くんだぞ。俺がいなくてもいつまでも泣いてないで、元気に過ごすんだぞ。あとな、これからお母さんは大変になると思うだからお母さんの事を支えてやって欲しい」
私は泣きじゃくり続けるお父さんの頭をなで続けた。お父さんは何を言っているのだろう、お父さんがいなくなるなんて、何でそんな悲しい事ばかり言うのだろう。もしもその時の事を想像すると私まで泣きそうになってしまうじゃないか。
「あとな、お前の人生はお前のものなのだからお前がやりたいように生きろ。お前の事をどんな時でも味方してくれるやつがいたらその人の事は絶対大切にするんだよ。そしてもしも好きな人ができたら俺に教えてくれよ」
「変なの、お父さんとお母さん以外にそんな人現れるはずないよ」
「今はわからなくてもいいんだ、でも、お前の事を真剣に想ったり助けてくれる人が現れたら絶対離すなよ」
涙声のお父さんの言葉が私の言葉に不思議と染み渡った。夕焼けは完全に落ちてあたりは真っ暗になり、手の中のホットコーヒーはいつの間にか冷めきっていた。
これが最後の旅行となり、この旅行の後一か月後お父さんは病死した。
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