第34話 アリスの決意とポジティブサイコパス
思い出に浸りながら天文台を見ていた私は一つの決意を固める。思わず親子のやりとりをみていたたまれなくなって駆け出してしまった……後で二人には謝らないといけないと思う。
今思えば父は自分の死んだ後の事を伝えたかったのだろう、自分の想いを託したかったのだろう。
--これからお母さんは大変になると思うだからお母さんの事を支えてやって欲しい
父の言葉を思い出す。母は父が死んだ後は涙もみせずに頑張ってくれていた。そして母は私に弱いところをみせずにずっと頑張ってくれていたのだ。私はあの時の二人の涙を覚えている。あの二人が泣いた理由を思い出している。母は愛する人との別れを乗り越えて新しい道を進もうとしているのだ。ならば今度は私がお母さんを支えるべきなのだろう。例え私がつらくても、母はこれまで一人で私を支えて頑張ってくれていたのだから……これからは私が恩返しをする番なのだ。
「みーつけた」
「きゃ!! 一体何なの?」
私は唐突に顔に暖かいものを押し付けられて悲鳴を上げる。後ろを見ると息をきらしている刹那がホットコーヒーをもって立っていた。
「どうやってここが……」
「それは俺と委員長の愛の力かな」
「私とあなたにはそんな絆はないのだけれど……むしろただのクラスメイトなのだけれど」
「ひどっ!! せめてクラスメイトから友達にはクラスアップしたと思ってたのに!! 俺はさ、友達が……委員長が……辛そうな時には絶対助けようって決めてるんだよね。だから助けに来たんだ」
そう言って彼は私にほほ笑んだ。全速力で走ってきたのか、彼の顔には冬だというのに汗が流れている。どうやら、私は相当心配されたようだ。そして私はよっぽど、ひどい顔をしていたのだろう。恥ずかしい……でも。彼がきてくれて嬉しかったのも事実だ。
だから刹那に声をかける。誰かに言わないと心が折れてしまいそうだから……私は私の決意を話す。
「刹那、私ね、お母さんに新しいお父さんの事を認めるって言うわ。お母さんはこれまで頑張ってたんだから幸せになってもいいと思うの」
「それはだめだよ、委員長」
「はっ?」
ようやく、口に出していったことは即座に刹那に否定された。なんでよ? 私がどれだけ悩んで出した答えかも知らないで、何であなたが否定するのよ。お母さんは今まで頑張ってきたのだ、もう。幸せになっていいはずなのだ。だから私が支えると決めたのだ。私が文句を言う前に刹那が言葉を紡ぐ。
「だって、委員長が辛そうなんだもん。家族が増えるってさ、結構大事な事でしょ。だったらそんなに辛そうな顔して言う事じゃないと思うんだよね」
「何でよ、何であなたがそんな風に私を否定するのよ。私のお母さんは頑張ってくれたのよ、だからお母さんだって幸せにしてあげたいの、それのどこがだめなのよ!!」
思わず怒鳴り返す私に周囲の視線が集中する。だが、怒鳴られた本人はまるで気にしていないかのように学校の教室で軽口を叩いている時のように私を見つめていた。その視線の強さに思わず、私は目をそらす。彼は変わらない、ポジティブサイコパスな彼は私の言葉の刃を、全く気にせず踏み込んでくる。
「委員長がさ、笑顔でそういうならいいと思うんだ。よくわからないけどさ、そんな顔で認めるって言ってもそれで委員長が幸せになれるはずないだろ!!」
「でも、お母さんが……」
「今は委員長の話をしてるんだよ!! 俺が力になりたいのは委員長なんだよ、いつも俺のくだらない話に付き合ってくれて、俺が困っている時に助言をくれる委員長の話をしているんだ!!」
「じゃあ、どうすればいいって言うのよ……お母さんを支えてくれってお父さんに頼まれてるのよ!!」
刹那の言葉に私は泣きじゃくってしまう。悔しい事に私は刹那に反論できなかった。彼のいう事が私の本心だからだ。ああ、そうだ。本当は新しいお父さん何て欲しくない……だけどお母さんの幸せそうな顔が浮かぶのだ。
私の身体をぬくもりが覆う。視線を上げると刹那の胸元がみえた。男性に触れられているというのになぜか不快ではなかった。私はなぜかお父さんに抱きしめられた時のことを思い出してしまった。
「無理にさ……一気に仲良くならなくていいんじゃない? 」
「え……でもそれじゃあお母さんが……」
「別にさ、認めるとか、認めないとかを今決めなくてもいいんじゃない? 俺達もちょっとずつ仲良くなったんだし、委員長には委員長のペースがあるんだからさ、それでいいんだよ。今度さ、お母さんとゆっくり話してみなよ。それで新しいお父さんとどう接するかとか話しなよ」
「でも……いいのかしら……そんなことでいいのかしら」
「いいんだよ、だって委員長の人生は委員長の人生だろ? だから委員長はさ、委員長の気持ちを話すべきなんだよ。それにさ、委員長の本当のお父さんはお母さんを支えろとはいったかもしれないけど、委員長に無理をしろっていったわけじゃないでしょ?」
私は涙を拭きながら顔をあげると刹那と目があう。その目はとても暖かくて、優しかった。それと同時にもう一つの父の言葉も思い出す。
--あとな、お前の人生はお前のものなのだからお前がやりたいように生きろ。お前の事をどんな時でも味方してくれるやつがいたらその人の事は絶対大切にするんだよ
ああ、そうだ、父はこうも言っていた。私に無理をしろ何て一言も言ってはいなかったのだ。
刹那の胸元で泣きじゃくっていたがようやく落ち着いた私はハンカチで目を拭く。刹那をみるのが少し恥ずかしい。
「まったく、こんなところで女の子を泣かせるなんてとんだプレイボーイね。あなたのせいで何人の女の子が泣いたのかしら」
「残念ながらいつも俺が泣かされているんだよね、今も服がびちゃにちゃになって泣きたいんだけど」
「美少女の涙なんだからご褒美でしょう? むしろ感謝しなさい」
「そうだね、委員長の顔写真付きでメルカリで売ったら儲かるかなぁ」
「クリーニング代をはらうからやめなさい」
私の照れ隠しのやり取りに彼は乗ってくれた。いつもは何にも考えていないくせにこういうときだけやたらと察しがいいのがむかつく……けど嫌いではない。私は恥ずかしさを誤魔化しながら先へと進む。彼もそれについてきてくれている。
「アリスって呼んで」
「え?」
「だから委員長じゃなくってアリスって呼びなさいって言ってるの。私達はその……友達なんだから」
「うん、行こうかアリス」
彼にアリスと呼ばれた瞬間に少し胸が暖かくなった。多分今の私は真っ赤な顔をしているのだろう、それをみられたくないので、あえて刹那より一歩先へ進む。それにしても他の人に呼ばれるのはまだ嫌なのになぜ、彼に名前を呼ばれると嬉しいのだろうか?
私が時間をみようとスマホに目をやると母からラインがきていた。おそらくあの人から話があり、心配されたのだろう。
『今どこにいるの? 心配してるのよ』
『今江の島よ、遅くなるけど帰るから安心して』
さっと返信して顔をあげる。すると遠くから二宮さんが走ってくるのが見えた。彼女にも心配をさせてしまったなと反省する。でももう、大丈夫だ。私はお母さんと話し合ってみようと思う。夕焼けはすでに落ち夜空になってたけれど、私の心はなぜか明るかった。
「刹那、委員長、そろそろ暗くなってきたし、山を下りませんか?」
「そうだねー、お腹もすいてきたし、どっかでご飯食べよう」
「そうね、登ってくるときにお店があったからどこか入りましょう」
私たちは二宮さんと合流をして山を下りることにする。そしてすれちがいざまに耳元で一言。
「今回は見逃しますが、次に抱き着いたら許しませんからね」
感情の無い目で微笑む二宮さんに背筋がぞくっとした。彼女のこれも愛の力なのだろうか? やはり愛は難しいなと思う。
一息つくために、口につけた刹那からもらったコーヒーはとても暖かく、今までで一番美味しかった。
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