第35話 江の島から帰ることになったんだけど

 桔梗と合流した俺達はそろそろ夜になったので山を下りることにした。夕焼けは落ちて、すっかり暗くなってきた。お腹が空いたということで、下りる途中の海鮮丼屋さんでご飯を食べることにした。俺達は席について注文をする。水族館にいた時からずっと魚食べたかったんだよね。海が近いからか魚が新鮮で美味しいし、一石二鳥だね。



「二人とも今日はありがとう、少し気持ちに整理がついたわ」

「いえいえ、気にしないでください、私も刹那と観光できましたし」

「アリスが素直にお礼を言った!? 今日は雨かなぁ」

「降るとしたら、あなたの血の雨じゃないかしら」

「ちょっと暴力的すぎない? 俺何をされるの?」

「まってください、刹那はいつの間に委員長の事を名前で呼ぶようになったんですか?」



 俺の言葉にアリスがすっと冷たい目でこちらを睨みつけてきて、桔梗は慌てて俺に問いかけるような目で見つめてきた。やだなぁ、そんなに見られたら照れちゃうよ。



「刹那のような人間には罵倒の方がよかったかしら、お礼を言うのは今回だけだから勘違いしないで欲しいわね」

「あ、今のツンデレっぽい。アンコールアンコール!! 委員長の罵倒って何だかんだ愛があるから、癖になるんだよね」

「刹那は罵倒が好きなんですか? 私も罵倒してあげましょうか?」

「うん、ちょっとやってみてよ」

「そうですね……」



 隣の桔梗が可愛らしく唸っている。そういや、桔梗には罵倒とか最近されてないよね、ツンデレだったときは結構罵られていたんだけど……懐かしいなぁ。



「双葉ちゃんといい、委員長といい、そこらかしらで女の子に優しくして……ハーレムでも作るつもりですか? クソ野郎」

「二宮さん……やっぱりストレスたまってたのね……」

「いやぁ、俺はハーレム作る気ないんだけど……てか、困っている友人を助けるのは当たり前のことだと思うんだけどなぁ」



 虫の様な目をしながら、頬を膨らませて可愛らしく冗談を言う桔梗も可愛いなぁと思う。本当にね、ハーレムどころか彼女もいないんだけどね。



「でも、刹那は何で私の居場所がわかったのかしら?」

「あー、海鮮丼きたよー」



 俺はあわててごまかす。言えないよね、桔梗が念のために委員長にまでGPSを仕込んでいるなんて……ちなみに鞄の裏に小型のGPSが仕込んであるそうだ。良い子は真似しちゃだめだよ。

 引かないことと、誰にも言わないことを条件に教えてもらったのだ。なんで仕込んでいるの? って聞いたら桔梗は笑顔を浮かべるだけだった。



「まあ、いいわ。二人のおかげでお母さんと話し合う覚悟ができたし……刹那も二宮さんも今日は付き合ってくれて本当にありがとう」

「いえいえ、気にしないでください。この前のお礼ですから……それと委員長と少し仲良くなれました気がしますし」

「あれ? 桔梗もアリスの話を知ってるの?」

「ええ、女の子と同士の会話ってやつですよ」



 俺の言葉に桔梗はあいまいな笑みを浮かべるだけだ。あれか、俺が水族館に忘れ物を取りに行っている時に聞いたのかな。



「でも、私も委員長の言葉でお母さんと話したほうがいいと思いますよ。それで、ぶつかったっていいんだと思います。だって家族ってそういうものですし、何よりも自分の気持ちに嘘をついた人生だと絶対後悔すると思いますから」

「二宮さん……本当に刹那が絡まなければまともなのね……でも、ありがとう。これから話し合ってみるわ」


 桔梗はなぜか俺の方を向いた桔梗が、何かを噛み締めるように言った。

 俺達はそれから色々と話した。それは小学校の頃の思い出だったり、お互いの家族のはなしだったりで本当に楽しかった。

 海鮮丼を堪能した俺達は帰宅するために駅へと向かう。夕日を見て食事をして結構遅くなっちゃたからね。あたりはすっかり真っ暗である。明日が日曜日ってのが救いだよね。



「夜も遅いし、今夜は泊っていきませんか、刹那?」

「いや、まずいでしょ、お母さんに心配されちゃうよ……」

「あそことかおしゃれじゃないですか?」



 そう言って桔梗が指をさしたのはちょっとお城っぽい建物だ。てかラブホだー。いやいや、まずいでしょ。ここが何をするところかわかっていないのかな? 恋人ならともかくねぇ……でも桔梗とアリスと……なんてね、ちょっと二人に失礼だよね。



「刹那……厭らしい顔してるわよ……あと二宮さん、私たちはまだ未成年なのだから気を付けるべきだわ」

「私は覚悟してるから大丈夫なんですよ。委員長は……」

「もちろん、帰るに決まっているでしょう」



 そういうと顔を真っ赤にしてアリスは桔梗から目をそらした。何を想像したんだろうね。俺がみているとじろりと睨まれた。ふっ、もてる男はつらいぜ。



「こちらを厭らしい目でみないでくれるかしら、不愉快よ」

「そう、俺は今愉快な気分なんだけどなぁ」



 俺達は軽口を叩きあいながら帰路を進む。



「アリス!! よかった……心配したのよ」

「お母さん!?」



 俺達が駅の近くに着くと車から綺麗な女性の人が出てきた。見覚えがある……アリスのお母さんだ。そしてアリスのお母さんはアリスを見つけるとこちらに走り出してきて彼女を抱きしめた。

 アリスのお母さんが出てきた車の運転席からにはホテルであったおっさんが出て二人を見守っている。こちらに気づくとお辞儀をしてくれたので俺も返す。オレンジジュースおごってくれてありがとうございました。



「桔梗、行こう。あとはアリスの問題だからさ」

「そうですね……委員長ならもう大丈夫ですよね」

「うん、アリスならもう大丈夫だと思う」



 俺達はアリスとお母さんに会釈をしてその場を離れた。そしてアリスとお母さんが海岸を歩いているのを見届けた。これで話し合えるといいなぁ。


「ごめん、ちょっとスマホ借りるね」

「刹那、何をやっているんですか?」

「ん? おまじないかな。勇気の出るね」



 桔梗から借りたスマホのライトを海岸に向けて、カチカチとやっている俺に桔梗が声をかけた。さて、帰ろう。余計なお世話かもしれないけど、少しくらい後押しをしてもいいよねっておもったんだ。

 そうして俺達は地元駅への駅行きの電車に乗った。アリスがちゃんと話し合って納得お互いできるといいね。

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