第30話 委員長の話を聞いたんだけど

 ベンチでホットコーヒーを飲みながら委員長と一緒に海を眺めている。景色がいいからか心なしかいつもより美味しい気がするよね。二口ほど口をつけたところで彼女は口を開いた。



「ホテルで私が会っていた相手って誰だかわかるかしら……」

「パパ活……」

「不愉快ね、帰りましょう」



 うわお、ちょっとだけ開きかけていた委員長の心の扉が一瞬で閉じてしまった。踵を返す委員長に俺は土下座をして謝った。やばい、服に砂がむっちゃついちゃったよ。



「あらあら、這いつくばってどうしたのかしら、踏んでほしいの? 土の味ってどんな味なのかしらね」」

「ごめんなさい!! 質の悪い冗談でした!! あ、でも踏んでもらうのはご褒美かも……」

「私も質の悪い冗談よ。だって靴が汚れるでしょう」

「そっちー!? ホテルで会ってたのは親戚のおじさんかな。悪い人ではなさそうだったけど……」



 慌てる俺の姿に委員長は苦笑した。よかった。許してくれたみたい。うん、悪い人ではないと思うんだよね、だってジュースおごってくれたし……あとさ、ホテルを出ていく委員長をみるときの目は悪い事を考えている人の目ではなかったよ。彼女は再び海を見つめコーヒーに口をつける。



「親戚……近いわね……。あの人は私のお父さんになるかもしれない人よ」

「え……そっか……委員長のお父さんは……」



 確か彼女が小学生の時、病死したのだ。当時珍しく委員長が荒れていたと桔梗が言っていたから覚えている。両親が健在な自分にはわからないが色々な事があったのだと思う。まあ、俺は気にせず声をかけちゃったんだけど。



「私の本当のお父さん……死んだお父さんのことは覚えているかしら」

「知ってるよー、確かイギリス人だっけ? 委員長と同じ蒼い目をした人だよね。授業参観ですっごい目立ってたもん」

「そう、優しくて大きくて自慢のお父さんだったわ」



 俺の言葉に彼女は思い出を噛み締めるように微笑んだ。その表情を見て俺は思った。きっといいお父さんだったんだろう。そして大切なお父さんだったんだろうなって思う。そう思わずにはいられないくらい委員長の笑顔は幸せに満ちていた。

 思い出に浸っていた委員長だったが何か不快なことを思い出したかのように俺を睨みつけた。



「本当に懐かしいわね……蒼い目と言えば、あなたに『ブルーアイズホワイトドラゴン』ってあだ名をつけられた時はぶっ殺そうかと思ったわ」

「ええ? だって。主人公のライバルの持ちキャラだよ、普通はテンションあがるでしょ。最初は喜んでたのに……」

「だからって普通は小学三年生の女の子につけるあだ名じゃないでしょう……初めてあだ名をつけられて喜んでたし、てっきり可愛いマスコットかと思って調べたら、ごつくて怖いドラゴンだったんだもの……」

「そういえば翌日ひっぱたかれたなぁ……」



 懐かしいなぁ。クラス替えで蒼い目をした人形みたいに綺麗な子がいたからびっくりしたんだよね。でもみんな話しかけないから、もったいないなって思って話しかけたんだっけなぁ。最初話しかけた時はすっごいびっくりされて、あだ名をつけたら喜ばれて、次の日に朝一ひっぱたかれて怒られたものだ。女心は変わりやすいっていうけど本当だよね。あんまり喋らない印象だったけど、そこから印象が変わったんだよね。そこから何となくよく話したり、遊んだりするようになったのだ。



「でも……あなたの馬鹿な行動のおかげで、みんな話しかけてくれるようになったからそれだけは感謝しているわ。あなたのその何も考えないポジティブサイコパスっぷり昔から嫌いじゃないわ」



 そして彼女は微笑みながら言う。その顔は少し柔らかく昔のアリスのお父さんがいなくなる前を思い出させる。そして再び彼女は海を見る。その横顔はとても美しくて思わず見惚れてしまった。



「江の島はね、お父さんとお母さんで最後に一緒に行った旅行先なのよ。だから色々思い出の場所を歩いて、自分の心を整理したいの……悪いけどもうちょっと付き合ってくれるかしら?」

「もちろん、今日は委員長にデートに誘われた時から一日中エスコートするって決めてるからね」

「ありがとう、刹那……でも、これはデートじゃないわ。江の島観光よ。勘違いしないでね」

「あ、今のすっごいツンデレっぽかった。もう一回言って」

「さあ、行きましょうか」



 俺の言葉を無視して委員長は立ち上がってしまった。つれないなぁ。でも元気がでてたみたいだからいっかー。ついでに俺はプレゼントを渡す。



「はい、委員長開けてみて」

「何かしら……これはペンペン……」


 俺の渡した袋から出てきたペンギンのストラップをみて委員長は頬を緩ませた。すっかり名前はぺんぺんで定着したらしい。彼女は嬉しそうにスマホのつけてくれた。



「べっ、別に嬉しくなんかないんだからね、あんたの事なんて好きなんかじゃないんだから!! こんな感じで満足かしら」

「え、今の可愛い。不意打ちすぎる!! アンコール、アンコール!!」

「感謝しなさい、私なりのツンデレサービスよ。ちなみにアンコールはないわ。それよりお腹空いたわね」

「そうだね、委員長。そろそろなんか食べよっかー、パンケーキ食べてみたいんだよね」




 委員長の会話に一区切りついたタイミングで俺達はパンケーキの店へと歩き始める。海岸のすぐ近くにあり、パンケーキのお店への前につくと結構な行列だった。やっぱり人気店だなぁ。前に雑誌でみたときに桔梗とも行きたいなって話をしてたんだけどね。話題になるだけあって入れなさそう。可能ならバイト先の料理の参考にしたかったんだけどなぁ……

 俺達が他の店にしようかと思い踵を返そうとしたら声がかけられた。



「刹那待ってましたよ!! 三人で席をとっておいたのですぐに入れますよ」

「あれ、桔梗じゃん、何でいるの?」

「私は幼馴染ですからね、刹那がいるところにはどこにでもいるんですよ」

「桔梗ありがとう、お礼にパンケーキをおごるね」

「いえいえ、私は刹那の役に立てるだけで嬉しいんですよ」



 幼馴染ってすごいね、ずっといるとか、スタンドみたいでかっこいいな。あと外寒いから席をとっておいてくれたのすごいありがたいよね。俺の言葉に桔梗は笑顔で答えた。




「え、なんで二宮さんがいるの……気軽に来れる距離じゃないでしょう……刹那ももっと疑問に思いなさいよ……」



 なぜか委員長がドンびいた顔でつぶやいた。よくわからないけど、幼馴染ってそういうものらしいよ。そうして俺達は桔梗と合流することにした。



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