第5話俺達でストーカーを探すことになったんだけど
「まあまあ、俺たち三人とも部員なんだから仲良くしようぜ、桔梗もこっちきて座りなよ」
「はーい、やはり刹那は優しいですね。でも連絡は返してほしかったです」
俺の言葉に扉の前で委員長と睨み合っていた桔梗は笑顔になったが少しむくれた様に言った。もしかして連絡とかくれてたのかな。
「あ、悪い、実は携帯を家に忘れたんだよ」
「そうだったんですか……よかった嫌われたわけじゃないかった……」
後半は何やらごにょにょと声が小さくなって聞こえなかったが、桔梗は当たり前のように俺の隣に座った。ちょっと近くない? 幼馴染だからかな? まあ、今喧嘩みたいになったんだから委員長の近くはきついよな。そうして彼女は当たり前のように二つの弁当箱を鞄から出して一つを俺に渡した。
「刹那どうぞ、本当は朝に渡すつもりだったんですが……」
「え、くれるの? なんか悪くない?」
「いいんです、刹那のために作ったんですから遠慮なく食べてください。はい、あーん」
「え、なんか恥ずかしいんだけど……あー、でもこのミートボールいい匂いだしまあいっかー」
「順調に餌付けされているわね……」
俺が遠慮なく桔梗にご飯をもらっていると、委員長が呆れたように言った。確かに昨日の晩飯といい、今朝といい餌付けされているなぁ。俺ってもしかしたら前世は桔梗のペットだったのかもしれない。
それにしてもお弁当あるって言ってくれたら購買部なんていかなかったのに……あー、でも俺が携帯家に忘れたから連絡つかなかったのか。特に弁当作るとか話してはないけどまあ、美味しいものたべれるんだからいいや。感謝しなければ罰があたるよね。
「まあ、一条君がいいならいいけれど……ちょうどいいわ。二宮さんこの手紙に見覚えとかないかしら」
「そうそう、なんか俺ストーカーにあってるみたいんなんだよ」
「へぇー、刹那にストーカーですか……刹那に危害を与えるなんて許せませんね」
俺にストーカーという言葉を聞いた桔梗の眼がすっと細められた。なんだろう、一切感情のない虫の様な目をみた、俺の中の本能があれはやばいと訴えたような気がした。しかし、それも彼女が手紙を見るまでだった。手紙をみた彼女はなぜかあたりをきょろきょろとしだした、え、どうしたの? すっげえ挙動不審なんだけど。あいつもてるからラブレターとか見慣れてると思うんだけど。
「あの……これがストーカーの手紙でしょうか? 私にはその……誠心誠意謝っている謝罪文にしかみえないのですが……刹那もそう思いますよね?」
「え、これ謝罪文なの? やたら熱烈なラブレターだと思ったんだけど」
「そんなはずないでしょう、普通の精神の人はこれを恐怖の手紙と呼ぶのよ、一条君のようなポジティブサイコパスでもないかぎりもっとびびると思うわ」
「委員長そんな褒めないでよ、なんか照れるじゃん」
俺の言葉になぜか委員長はため息をついた。え、なんでさ? ポジティブっていい言葉だよね。それより桔梗のやつ顔色が悪くなっているけど大丈夫かな。
「そ……そうですね、こんな手紙を送るやつはおかしいと思います。で、でもその人にも何か事情があったのかもしれませんよ。ちなみに刹那がストーカーにあっていると思ったきっかけは、他に何かあったのでしょうか? 例えば……盗聴器がみつかったとか……?」
「いや、そんなんすごすぎでしょ、俺を盗聴とかどんだけ愛してるんだよ。実は今朝気づいたんだけど、下着が一枚なくなったんだよね。誰かに盗まれたのかなって。メルカリにだされてたらどうしよ」
「あわわわ、気のせいじゃないですか? 洗濯をしていて風に飛ばされたんじゃないでしょうか? そういえば青色のトランクスが刹那の家から飛んだのを見た気がします」
「昨日は風はあまり吹いてなかったと思うけれど……それに一条君、メルカリはゴミ捨て場じゃないのよ。ゴミを出す人はいないと思うわ」
委員長の言葉で更に桔梗はなにやら焦った顔をした。どうしたんだろう。やっぱり昨日学校休んでたし、体調悪いのかな? 俺は彼女が作ってくれた弁当を食べながら思う。やっぱうめえな。でも風に飛んだのか……じゃないと桔梗が俺のお気に入りのパンツの色を知っているはずないもんな。
「あとはあれだなぁ、お昼なんだけど、購買部に行くときになんか視線を感じだんだよね。特に購買部のおばちゃんと話している時やばかった。変な冷汗出てきたもん。でも、夏場だったらクーラーなくても涼しいから便利だよね」
「あなただったら幽霊もクーラー代わりにしそうよね……時々だけれどそのポジティブさが羨ましくなるわ……」
「そんな褒めないでよ、照れるじゃん。俺の推理だと、手紙と視線の人物は同一人物だと思う。つまりストーカーはこの学校の人物だ。どう俺の名推理は? 令和のホームズって呼んでくれよな」
「一歩進んでいるようで、その場で足踏みをしている迷推理をありがとう。あなたには『眠りの刹那』ってあだ名を進呈するわ。学校の生徒や関係者って言っても400人前後はいるのよ、全然特定できてないじゃない。その程度でホームズを名乗らないでほしいわね」
委員長がちょっと不機嫌そうに言った。やっべぇ、彼女はシャーロキアン(ホームズの熱狂的ファン)なのだった。せめて「令和のポワロ」とでもなのっておけばよかったかな。
具体的に言うと夏休みに一人でロンドンに行くし、FG〇ではホームズを「私の愛が試されているわね」とか言いながら、普段は冷静な委員長がホームズを宝具5にするためにどんどん課金をしていくのをみて、人生楽しそうだなぁと思ったものだ。ちなみに「呼札で引いたよ」って言ったら半日は話かけても返事をしてくれなかった。
「あれは……刹那が私の連絡を無視してパンを買おうとしてたからついみてしまっただけなんです……ストーカーじゃないんです……」
「おーい、なんかぶつぶつつぶやいているけど大丈夫?」
「え、あ、はい……何でもないです。大丈夫ですよ。それにしても購買部のおばちゃんが作ったパンを、刹那が食べるのが許せないから、じっと睨むなんてストーカーは許せませんね!!」
「いや、なんでそんなやたら具体的な動機になるの? てかそのストーカー俺を愛しすぎじゃない?」
俺は思いつめた顔で何やらぶつぶつと言っていた桔梗に声をかける。時々変な風になるけど桔梗大丈夫かな。やはり体調が万全ではないのだろう。
「そうね、せっかくだし私達でストーカーを探そうと思うのだけど良かったら二宮さんも手伝ってくれないかしら? 三人のほうが見つけやすそうだし、ストーカーって身内が多いらしいのよね。幼馴染のあなたなら一条君の知り合いにも詳しいでしょう。そう……身内に多いらしいのよ」
委員長はやたらと身内を強調して桔梗をみつめながら言った。なんなんだろう。でも俺に身内っていえるほど仲良い人ってマジで桔梗と委員長くらいしかいないんだけど……なんか自分で言ってて悲しくなってきた。でもまあ、本当に守れる人なんてせいぜい自分ともう一人らしいからいいんだけど。
「そ、そうですね……それなら私が刹那と一緒に犯人を探しますよ。一応護身術で合気道も習ってますし、万が一襲われたときもなんとかなると思います」
「ええ、そうね、それでは二宮さんおねがいできるかしら、ところで合気道って自分に技をかけたりできるのかしら、特に深い意味はないのよ、ただ気になっただけなのよ」
「委員長はおかしなことを聞くなぁ、そんな技あるわけないじゃん」
袴の女の子が可愛いなって思って近所の道場に入ったんだけど、なぜか桔梗も入ったんだよね、まああいつおっぱい大きいし可愛いから不審者に会う可能性も高いだろうし、ちょうどよかったのかもしれない。それにしても後から入った桔梗にぼこぼこにされるのはたまらなかったぜ。精神的も肉体的にも痛めつけられてちょっと癖になったもん。
そういうわけで、俺と桔梗は放課後にストーカー探しをすることになった。委員長はなぜか俺に「あなた鈍感すぎない?」と言ってあきれた顔をされてしまった。なんでだろうね。
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