第17話 バレンタインデーなんだけど

「おはようございます、刹那。最近朝起きるのが早いですね」

「うん、おはよー」


 うん、本当に早いよね、まだ6時だよ。遅刻しないで学校に着くには8時に家を出ればいいんだけど、桔梗が毎朝布団に潜り込んでくるから、それより、早く起きるようにしたらこんな時間になってしまったのだ。まあ、早寝早起きは健康にいいらしいからいいんだけど。

 俺が桔梗が布団に入ってくるのを断っているのは最近の出来事がきっかけである。いつものようにいつの間にか部屋に入っていた桔梗が、俺の布団に入った時にその……彼女の手が俺の俺に当たったのだ、しかも朝起きたばっかりだったので元気な状態だったわけで……

 気まずくなるかなと思ったけど、何故か桔梗は嬉しそうだったんだけど、俺もまあ、幼馴染に元気なそれをみられるのはつらいものがあるので、普通に起こしてくれって頼んだんだけど、全然治らないので桔梗が来るより早く起きることにしたのだ。



「下ごしらえは終わりましたからねー、ちょっと待っていてくださいね」

「俺も手伝うよ、何すればいい? あ、包丁は俺が使うからね」

「むうぅぅー。悲しいですがこれはこれで共同作業って感じでいいですね」



 そう言って俺は不満そうな桔梗から包丁を取り上げる。桔梗ってば普段の料理は上手なのに、なぜか時々指を怪我しちゃうんだよね。委員長に相談したらなぜか呆れた顔で「理由は知らないほうが幸せね……じゃあ、あなたが包丁を使えばいいんじゃないかしら」って言われたから俺が切ったりするようになったのだ。早起きしてるから時間的な余裕もあるしね。



「あ、桔梗の今日のラッキーカラーは何?」

「ラッキーカラー? なんですかそれ」



 俺の言葉に彼女はキョトンとした顔で聞き返す。あれ、桔梗はラッキーカラーとか気にしないのか、だったら何で時々やたら赤ばかりの料理があったんだろうね。まあ、いつも美味しいからいいんだけど。

 カレンダーを見やれば今日は2月14日。バレンタインデーだ。今年こそ義理じゃなくて本命チョコが欲しいよね。



「そういえば刹那、今日は17時くらいにうちに来てくださいね」

「え、なんで……? ひょっとしたらデートに誘われるかもしれないじゃん」

「デート……誰か心当たりがいるんですか……?」



 俺の言葉に桔梗の目が虫の様に無機質になり、手に持っていたステンレスのボールがベキッっと音を立てて歪んだ。相変わらず器用だなぁと思う。あと結構握力あるよね、俺は非力だから羨ましい。筋トレしよっかな。しかし100均じゃだめだなぁ。すぐ壊れちゃう。今度無印にいこっと。

 それにしてもデートの心当たりか……ぶっちゃけ定期的に話す女の人って、桔梗と委員長くらいしかいないんだよね。桔梗はバレンタインデーだって言うのにいつも通り家に来いっていうし、委員長は恋愛とか興味なさそうだしね。あー、でも二人とも義理チョコくらいならくれないかなぁ……



「残念ながら心当たりはないね……」

「そうですか……ならよかったです。プレゼントがあるんで絶対きてくださいね」



 俺の言葉ににっこりと桔梗が笑った。まあ、よくわからないけど桔梗が笑ってるならいっかー。ごはんを食べた俺達は学校へ行く準備をするのだった。





「おはよう、刹那。今日も平和そうな顔してるわね」

「おはよー、委員長。俺の顔をみたら喧嘩している人も戦う気なくすわって言われるのに定評あるからね。そういえば今日って何の日か知ってる?」

「それはあなたがポジティブサイコパスすぎて相手をするのが馬鹿馬鹿しくなるからじゃないかしら? 今日……? ああ、確かふんどしの日よね。下着の話をするなんてセクハラよ」



何言ってんだろこの人? 軽くバレンタインデーの話を振ったら変質者扱いをされてしまった……ふんどしの日なんてあるはずが……本当にふんどしの日だった( 実在します )

 ネットで検索したら出てきたよ、でも委員長なんで知ってるんだろ? もしかして委員長の下着ってふんどしなのかな?



「なんか不快な事を考えていないかしら?」

「いやー、委員長はふんどし好きなのかなって思って……もしかしてふんどしフェチとか? 今度履いてこよっか?」

「そんなわけないでしょう、冗談よ、これがほしかったんでしょう?」



 そう言って、委員長は机の上に置いてあったポッキーを一つ袋から取り出して俺の口にくわえさせた。わーい、チョコレートだぁ。やったね。これでチョコがゼロ個は免れたよ。甘い味が俺の口中で広がる。



「ポッキー一本でこんな喜ぶなんてどれだけ飢えていたのかしらね?」

「え、だって美人な委員長が食べさせてくれたんだよ、嬉しいに決まってるじゃん」

「馬鹿じゃないの……二宮さんに殺されるわよ」



 そう言って委員長は本を読み始めてしまった。暖房聞きすぎているのかな? 顔が少し赤いけど大丈夫だろうか。

 こうなるともう、会話してくれないんだよね。俺も本を読もうと机に手を入れると何やら固い箱が入っていた。その箱には「義理だから勘違いしないことね」と書かれたメモがある。



「ねえ、委員長これって!?」



 俺が顔を上げて委員長の方をみると彼女は本を読みながら唇に人差し指をつけて、静かにと涼しい顔をしていた。

 サプライズかな、嬉しいね。これでチョコゼロ個はなくなった。いや、委員長から二つもらったから実質二個だね。しかもこの包装いつも行ってるカフェのじゃん。あそこのお菓子美味しいんだよね。楽しみだなぁ。



 お昼休みに俺と桔梗は屋上でお昼を取っていた。バレンタインデーという事もあってか、いつもより人が多い気がするなぁ。あと、なんか青春って感じがするよね。太陽が出ているから暖かいしさ。



「そういえば、桔梗は誰かにチョコとかあげたの?」

「ええ、女友達にあげましたよ。女性同士こういう時に大変なんですよ、変なのをあげると色々言われますし……あ、もちろん男子にはあげてませんからね。安心してください」

「そういうもんなんだー、大変だね」



 俺の言葉に桔梗は少し焦ったようにいった。あれかなぁ。男子にあげないってことは遠回しに俺にはチョコはあげないよって言われたのかなぁ。毎年もらっていたからちょっと寂しいね。彼女が作ったお弁当に実はチョコがないかなぁってみたけどないみたいだ。



「もちろん、刹那にはちゃんとあげますからね。ふふ……楽しみにしててくださいね。リラックスしてよく眠れる効果もありますよ」

「え、もらえるの!! よかった。これで三つ目だ」

「三つ目……? 誰からもらったんですか……?」

「ひぃぃぃぃぃ!!」



 俺の言葉に桔梗が虫の様な目をしながら聞き返してきた。本当に器用だなぁ、どうやるんだろうね。なぜかさっきまで暖かかったのに俺の身体が寒気を感じブルっと震えた。冬だからかな。それに背後から悲鳴も聞こえたし、何なんだろうね。



「委員長だよ、ポッキー一本と、この前行ったカフェのチョコをもらったんだよね。義理だから勘違いしないことねっていわれたけど……」

「ふーん、ちなみに刹那は本命チョコってどういうのだと思います?」

「うーん、やっぱり本命は手作りチョコじゃないかな?」

「そうですよね、やっぱり手作りがいいですよね。既製品なんて愛が籠ってないですからね」



 俺の言葉に桔梗は納得したのか、何やら安心したように微笑んだ。まあ、そうはいっても俺も手作りチョコなんて母さんと桔梗くらいにしかもらったことないんだよなぁ……しかも桔梗には毎年「義理なんだから勘違いしないでよね」って言われているしね。なんか俺みんなに勘違いしないでよねって言われてない? まあ、もらえるからいいんだけど。ちなみにお母さんにも「お父さんが本命なんだから勘違いしないでよね」って言われたよ。勘違いするはずないよね。

 他のカップルもやっぱり本命は手作りなのかなって思って周囲を見回すとなぜか誰もいなかった。あれ、 今日避難訓練か何かあったかな? まだお昼休みは半分以上残っているんだけど……俺達は不気味なくらい静かになった屋上でお昼の続きを楽しんだ。





 放課後になり暇になった俺はいつものカフェに行くことにした。桔梗は色々準備があるんです。と言って先に帰ってしまったので約束の時間まで中途半端に暇なのだ。久々に桔梗の家にお邪魔するわけだし、なんかお菓子でも持っていこうと思って寄ったわけである。



「すいませーん」

「いらっしゃ……、あ、いつもの二又男!!」

「あ、持ち帰り用のお菓子って、この焼き菓子の他にはどんなのがあります?」

「いや、なんで普通に会話を続けているんですか? メンタルおかしいってよく言われません?」



 顔馴染みの店員さんに声をかけたらなぜかびっくりされてしまった。え、もしかして二又男って俺の事だったのかな? おかしいよね、俺まだ彼女すらできたことないんだけど。



「今日は時々感情の無い目になる女の子はいないんですね」

「桔梗の事ですかね? 今日は一人なんです。あの時の目って虫みたいで可愛いですよね」

「可愛い……? いや、確かに顔は可愛いと思いますが、どちらかというと恐怖の方が勝りますよね。ホラー映画で、幽霊と対峙したモブキャラになった気分ですよ。ちなみに焼き菓子はスコーンがおススメです。あとはシュークリームも評判がいいですよ」

「へぇー、どれもおいしそうですねぇ」



 俺はショーケースをみながら何を買おうか迷う。俺の好きなモンブランなどのケーキの他、スコーンやシュークリームが並べられている。生チョコは売り切れかぁ。俺の視線に気づいたのか店員さんが説明をしてくれる。



「ああ、チョコですが、今日はバレンタインデーなんでそっちに材料を使ってしまったんで、売り切れなんですよね。うちのチョコは何と完全オーダーメイドで、しかも数量限定何で買うのすごい大変なんですよ。また来年チャレンジしてくださいね」

「え、そうなんですか? じゃあ、ずいぶん感謝の籠った義理チョコだったんだですね……」

「へぇー、うちのチョコを義理で送るってことは二股男さんはよっぽど感謝されることしたんですね」



 俺の言葉に店員さんは笑顔で言った。義理だけど大切に思われているっていうのは嬉しいよね。俺は心の中で委員長に礼を言う。



「スコーンとクッキーをいくつかと……あとホワイトデーのお返しってもう、予約できますか?」

「はい、予約票を持ってくるので記入してくださいね。たくさん購入してくれたお礼にスコーンを一個プレゼントするので食べて待っていてください。」



 そうして俺はお金を払って店をあとにした。スコーンむっちゃうまかったな。新作のケーキもあるみたいだし、また三人でこようと思った。







『いらっしゃーい、待ってましたよ、刹那。鍵は開いてますから入ってきてください』



 桔梗の前についた俺がチャイムを鳴らそうとした瞬間にラインがきた。まるで俺の場所がわかっているかのようなタイミングだね。あ、GPSで場所わかるんだった。科学の力ってすごいよね。便利だなぁ。



「お邪魔しまーす」

「いらっしゃーい、待ってましたよ。本当は玄関に迎えに行きたかったのですが、この格好だと恥ずかしくて……」



俺は桔梗の家に入った俺を迎えてくれたのはメイド姿の桔梗だ。しかもいつもとは違うフリフリがたくさんついており、胸の所が空いているやつだ。すごい、この前買ったはいいけど、なぜか新品なのにDVDが傷ついていて、見れなかったエッチなビデオの衣装と一緒じゃん。すっごい偶然だなぁ。思わず谷間をじっくりとみてしまった。



「ふふ、効果はあったようですね……委員長には負けませんから。刹那早く私の部屋にきてください」



 桔梗の部屋に久しぶりに入るのは久しぶりに入る。ベットや勉強用の机に何やら大きい箱が置いてあるテーブル、本棚が置いてある。どんな本があるんだろうと覗いてみると『意中の人を落とす方法』『相手を依存させる方法』『副作用の少ない睡眠薬集』や少女漫画があった。やっぱり桔梗も恋とか興味あるんだなぁと思う。変な本もあるけど書いている漫画の資料だろうか?



「あんまりみないでください、恥ずかしいじゃないですか」

「ああ、ごめんごめん」



 俺の視線に気づいた桔梗が顔を赤くして頬を膨らませる。まあ、確かに本棚ってその人の性格でるからね。あんまり見られたくないよね。



「それよりこっちを見てください、今回も頑張ったんですよ」



 そう言ってテーブルの上の箱を開けると巨大なハートのチョコレートケーキの上にタキシードを着た男性とウェディングドレスを着た少女らしき二人のチョコの人形、チョコで作られた木が数本に家もある。すごいなぁ。それにしても桔梗ってハート好きだよね。毎年義理もらってるけどハートだったり、桔梗の顔だったりするんだもん。



「よかったら一緒に食べましょう、後、この女の子は刹那が食べてくださいね、この女の子のチョコは特に気合を入れて作ってますから」



そう言われて俺は女の子のチョコレートを観察してみた。確かになんかこれだけチョコの色も違うし香りもこちらの方がいい。高級な材料でも使用しているのかもしれない。てかこの人形桔梗に似てない? 心なしか男の子の方は俺の顔に似ているような……



「今年も中々すごいね、なんかこのチョコは結婚式みたいだね」

「えへへ、やっぱり将来は好きな人と結婚できたらなぁって思って作ってみました。はい、あーん」



 そう言うと彼女は俺の隣に座ってチョコレートケーキの一部をフォークで刺して俺に差し出した。俺も子供じゃないんだから普通に食べれるんだけどね、あと……その、近いからか谷間とか谷間とか谷間がみえてやばいんだよね。でもまあ。桔梗が食べてほしそうだからいっかー。

 俺の口の中に甘みが広がる。俺って実はすごい甘党だから気が狂うほど甘いのが好きなんだけど、俺好みになっていてすごい美味しい。



「すっごい、美味しいよ。ありがと」

「えへへ、嬉しいです。あの……じゃあ、頑張ったご褒美貰えますか?」



 そう言って彼女は口を開ける。あれかな。これは俺も上げたほうがいいのかな。俺はチョコケーキをフォークで刺して桔梗の口に入れる。すると彼女は幸せそうに食べた。なんかペットに餌付けしてるみたいで楽しいね!! 桔梗もそんな気持ちなんだろうね。俺達はしばらくお互いにチョコケーキを食べさせあった。途中桔梗がフォークを使わないでケーキの上にある木のチョコレートをくれたので俺も指でつかんで渡したら指ごと舐められてしまった。俺の指を舐められている桔梗の姿はちょっと蠱惑的でびっくりしてしまった。でもなんかきもちよかったからいっかー。



「チョコも美味しいけどさ、ちょっと気分転換にゲームでもしない?」

「私はこのままでもいいんですか……マリオカートでもやりますか」



 そう言って彼女はゲームをセットするためにテレビの方に向かった。危なかった……桔梗ってば、距離が近くいから無茶苦茶いいにおいするし、服装の問題で谷間がさっきからちらちらするし、指を舐められてすっごい気持ちよかったりで色々やばかったんだよね……具体的に言うと俺の息子が元気になってしまった。

 あいつ、無自覚かもしれないけど気を付けたほうがいいとおもうんだよなぁ。今度それとなく注意しよう。と、桔梗を見るとスイッチを起動するためにかがんでスカートの中がみえそうでみえない。うおおおお、落ち着け俺!! 理性をとりもどさなきゃ……ふんどしが一枚、ふんどしが二枚……なんでふんどしなんだろね。委員長との会話が印象的だったからかな。



「じゃあ、勝負しましょう。負けたほうは罰ゲームですね」

「え、罰ゲーム? 聞いてないんだけど」

「スタートです!!」



 意気揚々と桔梗がゲームを始めた。ああ、でもこういうノリ昔を思い出すなぁ。桔梗は気弱な癖に結構負けず嫌いなんだよね。ポケモン対戦した時もボロ勝ちしたら、次の対戦の時は全部伝説のポケモン使ってきたもん。もちろん負けたよ。あの時は本気でへこんだなぁ。

などと昔を思い出しているとあっさり勝ってしまった。ゲームを持っている割に弱いなぁ。まあ、いいや、罰ゲームって何だろ? 「ご主人様」とでも読んででももらおうかなぁ……なんてね。



「負けちゃいましたね、じゃあ、一枚脱ぎますね」

「え?」



 何そのルール聞いてないんだけど……困惑している俺を余所に桔梗は靴下を脱いだ。脱衣マリオカートだったの? でもまあ、ゲームだもんね。勝負だから仕方ないよね。まあ、下着になったらやめようって言えばいいよね。




 10分後チョコケーキを食べながらプレイしていた俺達だったが、ついにパンツ一丁になった所ですこし休憩をした。もちろん、パンツ一丁になったのは俺だよ!! 二連敗して両足の靴下を取った桔梗だったが、そのあと怒涛の連勝をしたのだ。おかしくない? なんかよくわからない力に目覚めたのかな?



「さて、始めますか!!」

「ちょっと待って!? 俺もうパンツしかないんだけど」

「大丈夫ですよ、暖房はつけときましたから」



 そういう問題じゃなくない? 何で幼馴染の家で全裸にならなきゃいけないのさ!! でも勝負するって言った手前逃げたくないしなぁ。俺は気分転換のために女の子人形のチョコを食べる。え、なにこれすっごい美味しいんだけど。



「うふふ、ついに食べましたね」

「桔梗これ、すっごい美味しいよ。桔梗も食べてごらんよ!!」

「いえ……私は大丈夫ですよ。いや、本当に!! あ、コーヒーなくなってますね。すぐ入れてきますから」



 そう言うと彼女はコーヒーをいれに行ってしまった。多分遠慮してるのかな? 何だかんだ桔梗って自分より俺を優先することがあるんだよね。だから俺は人形の半分を砕いて、桔梗の他のチョコが乗っている皿の上に混ぜておいたあげた。桔梗みたいなチョコを砕くのはちょっと罪悪感があったけど、まあ食べ物だしね。それにしてもまじでうまいなこれ。

 俺がチョコを堪能していると桔梗がコーヒーを持って帰ってきた。



「はい、コーヒーですよ、全部食べてくれましたね。一息ついたらまたゲームをしましょうね」

「甘いもの食べたし負けないからな!!」



 今度こそ負けられない!! さすがの俺も全裸はきついんだよね。桔梗と俺はチョコを食べながら談笑する。お互いの皿が空になったのでゲーム開始……あれ、なんだろ、すっごい眠いんだけど……昨日も早くに寝たのになぁ。



「刹那? 大丈夫ですか? こんなとこで寝てはいけませんよ」



 桔梗の声が聞こえて、何か柔らかいものが俺を包む。ああ、桔梗かな? ベットに運んでくれているようだ。お礼を言いたいのにもう意識が限界だ。



「うふふ、寝顔もかっこいいですね。さてどうしましょう、このまま既成事実を………」



 俺の最後に聞いたのは桔梗のそんな言葉だった。そして俺の意識は闇へと消えた。






 やっぱりかっこいいなぁと私は刹那の顔を寝顔を見ながら思う。今私のベットで彼がパンツ一枚だけを身に纏い寝ているという事実に興奮を隠せない。まあ、私が仕組んだんですけど。

 女の子のチョコにだけ、睡眠薬を仕込んでおいたのだ。全部食べた刹那は当分目が覚めないだろう。さすがにすべてに睡眠薬をいれていると怪しまれますからね。今日は親が帰るのも遅いと言っていたのでゆっくりと彼を堪能できるはずだ。それにしても……



「男性の裸をこんなじっくりみるのは初めてで緊張しますね……」



 意外と筋肉のついた刹那の身体を触ってみる。胸板が厚い……彼に抱き着かれたら私はどうなってしまうだろう。そう想像するだけでなんかもうやばかった。いや、今ならできるのだ。私は彼に抱き着こうとしてみる。いつもやっている事だが、相手が半裸なせいか緊張を隠せない。だっていつもはパジャマ越しなのに今は素肌なのだ。自分の胸がドクンドクンとうるさいくらい鳴っているのを自覚しながら抱き着く。彼の体温が私にを包んでくれて幸せな気持ちになる。いつか刹那の方からこうしてくれたらいいのになぁと思うのだ。



「ううん……」



 寝言を呻く刹那に一瞬びっくりしたがまだ目は覚めていないようだ。よかった……彼の顔をまじまじとみながら思い出にふける。私にとって彼は救世主だった。私が困っているといつも助けてくれる刹那。普段はぼーっとしているけれどいざとなったら誰よりも頼り甲斐のある刹那。ああ、彼が私だけをみてくれればいいのになぁと思う。



「きゃっ」



 再度彼に抱き着くと、彼の口元からの吐息が私の耳を襲った。くすぐったいが心地よい。そして私は彼の口元をから目を放せなくなる。ああ、もうだめです。少しだけならいいですよね……?

 私は意を決して彼を見つめる。そして、吸い込まれるように唇を……重ねようとしたが急激に襲ってきた眠気に意識を奪われた。







「ううーん」



 意識を取りも出すと俺を抱き枕のようにして桔梗が寝ていた。桔梗も寝ちゃったのか。スマホを見るともう19時である。そろそろ帰らなきゃな。俺は脱ぎ散らかした服を着て、桔梗に布団をかけてやり声をかける。


「じゃあな、また明日ね。チョコ美味しかったよ」


 俺は桔梗の枕元に感謝の気持ちを込めた手紙を書いて置いておく。以前手紙もらったし、こういう時はアナログの方が気持ち伝わると思ったんだよね。ホワイトデーは奮発しないとなぁ。

 そうして桔梗の家を後にするのであった。今年もチョコもらえてよかったぁ。それにしても桔梗のメイド服可愛かったなぁ……委員長からもらったチョコも楽しみだし今年もいいバレンタインデーだったなと思う。

こんな日がずっと続くといいのになって思った。



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バイト編に行く前に季節外れですが、バレンタインデーです。

よろしくお願いします。


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