第2話自宅に帰ったらメイドがいたんだけど

 朝のホームルーム前の喧噪の中、今朝あったことを隣の席の友人に話すと、彼女は呆れたといわんばかりに溜息をついた。


「それはあなたが悪いわね、一条君」

「でもよー、委員長。あいつはきついことを結構言ってくるんだよ。俺だってたまには反撃したかったんだよ。なのに俺が悪くなるの?」

「まあ、とにかく謝りなさい。二宮さんはツンデレなのよ。本当はあなたに優しくしたいのにできないの。幼馴染なんだからわかっているでしょう。そういえば貸した本は読んだかしら。感想を聞きたいのだけれど」



 委員長は俺の言葉にため息をついた。しかし、女性の事は女性に聞いた方がいいと思い相談したのだが、女性は女性の味方をするようだ。どうやら俺が悪いらしい。というか委員長いわく、そういうことはとにかく男が謝れという事だった。なんというか納得できるようなできないような微妙な答えだ。

 まあ、彼女もそこまで興味があったわけではないようで、すぐさま彼女から借りた小説の話になった。彼女とは昔からの付き合いなのだが、隣の席になった時に、たまたまブックカバーから表紙がみえ、それが俺の知っている小説だと話すと本の趣味が合うわね、という事でよく小説に関して話すようになったのだ。



「ツンデレもたまにならいいんだが、リアルのツンデレに毎日ツンツンされると結構精神力削られるんだよ。それにしても、新しく登場したヤンデレヒロイン可愛いな、ツンデレもいいんだが新しい扉が開かれそうだよ、あと黒髪ってのもいいよね」

「おもしろい冗談ね、あなたが傷つくところが想像できないわ。そう、あのヤンデレキャラもいいわよね、でもあなたは何だかんだ面倒見がよいし、何よりメンタルが強すぎるから、リアルなヤンデレがいたら依存されそうだから気を付けなさい」

「あ、委員長の今の言い方もツンデレっぽくない? きつい事言いつつも、心配している感じがすっごいいい。もっとなんかツンデレっぽいこといってよ」

「うふふ、羽虫が何か騒いでいるわね、殺虫剤はどこに置いたかしら? どう、こんなかんじかしら?」

「委員長……それはツンデレじゃなくて毒舌って言うんだよ……デレ要素無くない?」

「ええ、だってツンデレは好きな人にだけデレるものでしょう? なーんてね」



 そう言って委員長は楽しそうに笑いながら俺のリクエストにこたえてくれた。顔と言葉があってないよ。桔梗に日ごろから暴言で鍛えられているからか俺は守備力がカンストしており、むしろ快楽を感じるようになってきたのだが、そうでなかったら死んじゃうぜ。

  それにしても俺より先に走っていったはずなのに、桔梗はまだ学校についていないようだ。どこにいったんだ? 交通事故とかにあってないといいが……



 隣のクラスの知り合いに聞いたが、放課後になっても桔梗は教室に登校しなかったそうだ。心配になったのでラインを送ったが既読にもならない。でも何人かは校内で桔梗の姿をみたやつがいるんだよな。

 しかたねえ、帰りにあいつの家によって謝るか。そう思って下駄箱を開けると一枚の手紙が入っていた。なんだこれ、もしかしたらラブレターか? 俺は99%の確率でいたずらだろうなという疑惑と1%の期待を胸に中身を見ることにした。

 すると綺麗な字で「嫌われているのにこんなこというのは申し訳ないのですが、好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです」と書いてあった。


「うおおおおおお!!」



 1%の確率をひいたぁぁぁぁぁぁぁ!!!! FG○の星5ピックアップを当てるより確率高いじゃん、やったね。でもさ、ちょっとセンスないよな。文章に狂気を感じるし、しかもなんで赤文字何だろね? 書いたやつちょっと頭おかしいんじゃねえかと思う。俺の奇声に周囲の連中の視線が集まってくるのを感じだ。みつめるなよ、恥ずかしいじゃん。俺は手紙を鞄にしまい、急いで学校を後にした。

 桔梗の家に行ったがあいつはどうやら留守にしているらしい。桔梗のお母さんに「むしろ刹那君と一緒に帰宅してないの?」と聞かれてしまった。確かにいつも一緒にいるからね。俺の一言で不良の道に進んでないといいんだけど。


 とりあえず、桔梗の行きそうなところや、一緒に言った事のある場所を、探してみたがいなかったので、家に帰ってから手紙をじっくりみながら考えようと思い帰宅することにした。

 家のドアの鍵をあけようとするとすでに鍵が開いていることに気づく。両親は共働きなので誰もいないはずだし、今朝もちゃんと鍵はしめたとおもったのだが……

 俺は少し不審に思いながら、自分の部屋に入るとそこには信じられない光景が広がっていた。昨日まで散らかり放題で、そこらへんに広がっていた漫画や雑誌は綺麗に並べられ、机の奥底に隠してあったエロ本『巨乳メイド天国』はやたら丁寧に机の上に並べられおり、部屋の真ん中には俺がいつか彼女ができたら着てもらおうと洋服棚に隠していたちょっとエッチなメイド服を着た黒髪の少女が立っていたのだ。

 てか桔梗じゃん。え、お前茶色の髪の毛はどうしたんだよとか、学校さぼるなとか、なんで俺の性癖知ってんのとか、鍵かかってたのにどうやってあけたんだよとか色々聞きたいことがあったが、とっさのことに俺は固まってしまった。そんな俺をみて彼女は何を考えているのか、いきなり抱き着いてきて一言。


「今朝はごめんなさい、私いつもひどいことをいってましたよね……反省するから私を嫌いにならないでください……」

「あ、ああ……俺も……」

「刹那のいうことならなんでもしますから!」



 いや、別に嫌ってなかったけど!! なんならツンデレも時々くるデレとかたまらねえなって思ってたけれど!! 色々ききたいことはあるけど!! 俺の思考の9割は桔梗ってなんか甘いにおいがするなぁとか、胸あたって柔らかいなぁとか、メイド服似合っているなぁとか、胸当たっているなぁとかそんなことばかりで言葉にならない。何でもって本当に何でもなんですかね、エッチな同人誌みたいに!! エッチな同人誌みたいに!!


「え、とりあえず状況確認したいんだけど……なんでうちにいるの? てか鍵かかってなかった? 髪の毛の色も変わってるしどうしたんだ。くっそ可愛いけど……」

「えへへ、可愛いっていわれた!! こっちのが刹那の好みかと思ってイメージチェンジしたんです。そんなことより、晩御飯にしませんか? 刹那の好きなハンバーグを作ったんですよ」


 そう言って彼女は俺にもう一度抱き着いてからキッチンへと向かった。あれ、ここうちの家だよな。なんで普通に料理してるんだ? でもまあ、ハンバーグ食べれるからいっかー。俺は先ほどまでの胸の感触を思い出しながら桔梗についていくのだった。

 キッチンに待っているのはケチャップのかかったハンバーグにミネストローネだった。やたら赤いのばかりだな。今日の桔梗のラッキーカラーは赤なのかな? そういえば桔梗はこれまでも時々俺のために料理を作ってくれることがありそれがまた絶品なのだった。こいつ昔から料理はうまいんだよな。



「いただきます、うまい!!」

「でしょう、刹那の好みは知ってますから。それに隠し味だって入っているんですよ」

「へえー、そうなんだ。それより、指大丈夫?」

「えへへ、刹那が心配してくれた……」



 そういうと桔梗は絆創膏が貼られている右指を大事そうに左手でなでる。まあ、大丈夫っていうなら大丈夫なんだろうけど……それにしても料理上手な桔梗が怪我をするとは珍しいな。まあ、調理用品が変わると勝手が違うのかもしれない。ちょっと疑問に思ったが、メイド服から見える谷間と、料理の味にどうでもよくなった。料理を平らげ桔梗が家に帰ったあとに俺は一つの疑問を思いだした。あれ、結局あいつはどうやって俺の部屋に入ったんだ? まあ、いいか。俺の事だし、どっか閉め忘れてたのかもしれない。

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