第21話 バイトをすることになったんだけど その3

「重くないですか、大丈夫です? いきなり呼んじゃいましたけど大丈夫でした?」

「平気平気、新商品の試食できるなら安いもんだよ」

「ふふ、ありがとうございます。例えるならばヒューマンドラマで兄に甘える妹になった気分です」



 学校の放課後、俺は制服姿の双葉ちゃんと荷物を持ってショッピングモールを歩いている。今日はカフェ自体は定休日のため本来バイトは無いのだが、店長が新商品を開発するっていうので材料の買い出しに呼ばれたのだ。なんかインスピレーションが湧いたらしい。



「そういえば制服姿は初めて見るね」

「どうです、私の制服姿可愛いでしょう? でも、惚れちゃだめですよ、私の命があの無表情な目の人に奪われるので」

「桔梗はそんなに怖い子じゃないんだけどなぁ、ちょっと行動力があるだけだよ」

「一条先輩の生存本能バグってません? 例えるならば恐竜が襲ってくる映画で、アトラクションかなって不用意に恐竜に近づいて食べられる人を見ている気分です」



 そう言って双葉ちゃんは楽しそうに笑った。確かに制服姿は似合ってるよね。おっぱいの大きい桔梗やスラっとしたスレンダーなモデル体型の委員長とも違う、髪を茶色に染め今風のファッションで元気いっぱいなこの子は二人とは違う魅力がある。

 楽しく雑談している俺達だったが双葉ちゃんの表情が一瞬凍る。何だろうと思ってみていると、双葉ちゃんと同じ制服の女の子二人組がこちらに向かって歩いてきた。俺はよくわからないけど咄嗟に二人組から双葉ちゃんを隠す。



「大丈夫、行ったよ」

「ありがとうございます……」

「さっきの子達は双葉ちゃんと同じ学校の子だよね、何かあったの?」」

「はい、前は仲良かったんですけど、最近喧嘩しちゃいまして……気まずいんですよね」

「そうなんだ……双葉ちゃんはまた仲良くしたいの?」

「そりゃまあ、したいですけど……でも人間関係ってこじれると難しいですよね」

「困ってるならさ、力を貸すよ。双葉ちゃんには笑っていて欲しいし」

「ありがとうございます……なんかヒーローに助けられたモブキャラになった気分ですね。すいません、ちょっとトイレ行ってきますね」



 そう言って双葉ちゃんはえへへとごまかすように笑う。でもその表情は曇っていて、俺はよくわからないけど彼女の力になりたいなって思ったんだ。俺は彼女の後姿を見送りながらそう思う。



「でも、どうしたらいいのかなぁ」

「刹那何か困っていることがあるんですか?」

「あれ、桔梗じゃん。奇遇だね」



 俺はいつの間にか背後にいた桔梗に挨拶を返す。そういえば今日遊ぼうっていわれたんだけどバイトが入ったって言って断ったんだよね。だから彼女も暇つぶしにショッピングしてたのかな。



「たまたま、ショッピングしていたら、たまたま、刹那が制服姿の女の子と二人で歩いているのをみたんですよ……バイトじゃなかったんですか?」

「ひぇぇぇ」

「バイトだよ、二人で買い出しにきたんだ。店長が新製品を作っているらしくて完成したら、試食できるらしいけど、桔梗もよかったらくる?」



 笑顔を浮かべながら虫の様な目になった桔梗に、何故か背後のお客さんが悲鳴を上げた。まるでエイリアンにあったモブキャラをみた気分だね。あ、双葉ちゃんの口癖がうつっちゃった。



「ええ、行きます!! 行きます!! あと、刹那がいつもの服で接客してくれると最高です!! それで何を悩んでいるんですか……?」

「うん、双葉ちゃんがね……」

「双葉ちゃん……? 女の子を下の名前で呼ぶなんて、ずいぶん親しくなったんですね、刹那」

「え、だって店長と同じ苗字なんだもん、紛らわしいからみんなそう呼んでるんだよ」



 なんでだろう、お店は暖房がかかっているはずなのに冷や汗がでてきたんだけど。風邪かなぁ……流行っているよね。帰ったら薬飲んでおこう。



「多分友達と仲直りしたいんだろうけど、踏み出せないっぽいんだよね。なんとかできないかなぁと思って」

「うーん、なるほど先ほどの女の子二人組ですか……」



 そう言って彼女は少し考え込んでから口を開いた。スマホをいじって何かを確認したようだ。なんだろね。というか先ほどの二人ってなんで桔梗が分かるんだろう、ずっと俺達をみてないとわからないと思うんだけど……少し、疑問に思ったが、スマホをいじっている桔梗の胸が揺れるのをみているとどうでも良くなった。絶景だなぁ、例えるならば冒険映画で宝物を目の前にした主人公の気分だね!!



「あの二人組次第ですが、何とかなるかもしれません」

「え、本当!? さすがだね。もしかしたら力を借りるかもしれない」

「はい、ただその前に二つだけ刹那に確認したいことがあるのですが……」

「え、いいよ、何でも聞いてよ!!」

「刹那は双葉って子の事をどう思っているんですか? その……好きとか……付き合いたいとか思っているんですか?」

「うーん、可愛いとは思うけど、なんて言うか妹ができた気分なんだよね、俺一人っ子だからさ。つい世話を焼きたくなるんだよね」



 桔梗は何も言わずに俺をじっとみつめる。俺も見つめ返す。なんだろうね、こうしてみるとやっぱり桔梗は可愛らしい顔立ちだなぁっておもう。あとおっぱい大きいよね。



「嘘はついていないようですね、それにしても妹キャラ……今度はそっちで攻めてみますか……」

「あの桔梗?」

「ああ、すいません、もう一つは確認というかお願いなのですが、もしうまく行ったら執事服を着て一日わたしの部屋で給仕してくれませんか?」

「え、そんなのでいいの。全然やるけど」

「ふふふ、ありがとうございます。それでは私はやることができたので帰りますね」

「え、でもあの女の子二人組の事双葉ちゃんに聞かなくていいの? すれ違っただけだし、顔も名前もあいまいでしょ?」

「大丈夫ですよ、私は刹那が会話したり、見ていた女性の顔は全部覚えてますから。ではもしも、私の力を借りたくなったら遠慮なく言ってくださいね」



 そう言って彼女は俺に向かってほほ笑んで去っていた。さすが桔梗記憶力いいなぁ。俺も見習わなきゃね。



「あの……二人で何をはなしていたんですか?」



 桔梗の後ろ姿をみているとおそるおそるといった感じで双葉ちゃんに声がかけられた。なぜかその表情は恐怖に彩られている。なんか怖い人にでもあったのかな?



「ずいぶん長かったね……あ、便秘って大変だよね」

「デリカシー!! 変な気を使わないでください、逆に不快ですよ。戦争映画で言うならばいわれなき冤罪で処刑されそうになった気分です。あの女の人が怖かったから遠くでみていたんですよ」



 おかしいなぁ、前に委員長に女性と二人の時は気を使いなさいっていわれたから頑張ったんだけど……それはさておきだ。



「うーん、桔梗は怖くないよ、むしろ頼りになる幼馴染かな」

「はぁ……私には恐怖しか感じられないのですが……」



 俺の言葉に双葉ちゃんは何をいっているんだろうといったかんじでこちらをみるのであった。これからの状況次第では彼女も俺が言った意味が分かるはずだと思う。そして俺達は買い出しを終え店長の待つカフェへと向かうことにした。



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