第20話 バイトをすることになったんだけど その2

 俺の仕事は基本的に学校帰りの夕方から夜である。配達のお兄さんが持ってきた小麦粉などの材料を運び、店長や双葉ちゃんの指示で重いものや、お菓子を運んだり、お皿を洗って終わる。要は雑用だね。やっぱりお菓子作りはもちろんのこと、紅茶やコーヒーも入れる人によって味が大きく変化するからそこらへんはノータッチである。暇をみて教わったりしているのでいつか任せてもらえたら嬉しいなぁ。ホールは双葉ちゃんの他にも何人かいるけどみんな女性だからか、重いものは苦手みたいで結構頼られて嬉しいよね。



「だから敬語じゃなくていいよ、双葉ちゃんの方が先輩なんだから……」

「何を言ってるんですか、一条さんは高校二年生で私より年上じゃないですか、ため口何て恐れ多いですよ。でも進学校に通っていたのは意外です……」

「ならいいんだけど……でも、年下の先輩って響きなんかエロいよね」

「ひぇぇぇ、例えるならばハリウッド映画で変質者に性的な目で見られた気分です、お詫びに何かおごってください」

「いいよ、ここのモンブラン美味しいんだけど食べる?」

「ここは私の実家なんですけど!? モンブランも何回も食べたことあるんですけど!? あとお父さんの作るお菓子はモンブランだけじゃなくて全部が美味しいです、訂正してください!!」



 手が空いている時に双葉ちゃんと雑談をしていると、何かたかられてしまった。バイトでお金を貯めにきたので減っていくのおかしくない? まあ、話していて楽しいからいいんだけど。



「一条君、またご指名よー。いつもの子がきたわよ、やるわねぇ」

「はーい」



 パートさんの声に、俺はバックヤードを出て、客席にメニュー表とお水を持っていく。もちろん手洗いうがいは忘れてないよ。そして、俺はバイトを始めてからの恒例行事を行う。



「いらっしゃい桔梗、今日のお勧めはパンケーキだよ」

「やっぱり、刹那はその恰好も似合いますね!!」

「ありがとう、桔梗。でも、あんまり褒められるのは恥ずかしいなぁ」



 ホールに出た俺が声をかけたのは桔梗である。彼女は俺が接客をしに行くと、目をキラキラさせながら俺をスマホでパシャパシャと楽しそうに撮っている。あいつもここのお菓子にはまったのか俺がバイトにいるときいつもいるんだよね。お金大丈夫かなぁ。

 ちなみに最初こそ、ホールの人も困惑していたが、今では彼女の姿をみると何にも言われないでも俺を呼ぶようになった。なんか専属執事みたいでちょっと楽しい。



「じゃあ、注文決まったら声かけてねー」

「はい、あといつものサービスもお願いしますね」



 桔梗と別れ、ホールに出たついでにぐるっと様子を見る。お水が無い人やお菓子を注文したがっている人がいたら声をかけないとね。あ、見知った顔がいる。そういえば今日は新しいパンケーキを売るって店長が張り切ってたもんね。双葉ちゃんと宣伝文句を考えてSNSに投稿するの楽しかったなぁ。 



「お客様、ご注文はいかがですか? 本日から発売のパンダのパンケーキはいかがでしょうか? パンダだけにパンケーキですね」

「チェンジで」



 そう言って委員長は俺をみると同時に冷たい目で俺に告げた。いや、うちってそういうお店じゃないんだけど。俺と双葉ちゃんが必死に考えたキャッチフレーズもスルーされて悲しい。『パンダだけにパンケーキ』良くないかなぁ?



「あなた見てた……?」

「何にも見てないよ、強いて言えばパンダのパンケーキの写真みてニコニコ笑いながら鼻歌歌っている委員長くらいかなぁ」

「くうぅぅぅ……」



 俺の言葉に委員長がちょっと顔を赤くして呻いた。どうしたんだろ、体調悪いのかな? なんかこの顔だとくっ殺せとか言いそうだよね。



「油断したわ……とりあえずパンケーキと紅茶で。あとは一条刹那って人がセクハラしてきたってクレームを入れておいてくれるかしら」

「ひどくない? 俺は普通に接客しただけなんだけど!? 例えるならばドキュメンタリー映画で痴漢をやっていないのに冤罪をかけられた気分だよ!! それでもボクはやっていない!!」

「また、新しいリアクションで反応に困るわね……例えるならば動物園に行ったらツチノコを発見した気分だわ」



 委員長がノってきた!! 双葉ちゃんの口癖どんどん流行ってきたね。彼女に言ったら喜んでくれるかな。注文を取った俺はバックヤードに戻り、一息ついた。すると紅茶を入れている双葉ちゃんがジト目で俺をみつめている。



「どうしたの? 例えるならば恋愛映画で、浮気をしたクソ男をみるような目で俺をみて」

「私のセリフ取らないでくれますか? パクられるのはちょっと不快です……単にこの男は仕事中なのに呼吸をするように女の子に声をかけているなぁって思っただけですよ」

「なんか不機嫌になってない?」

「なってませんけど……例えるならばオフィスが舞台の映画で、この先輩普段は何にも考えてなさそうだけど、頼りがいがあるなって見直していたら、実は不倫していたクソ野郎だったのを目撃した気分です」

「あ、この洗った食器はそっちでいいのかな?」

「会話のみゃくらくーーー!!」



 俺が一生懸命仕事しているのになぜか双葉ちゃんに怒られてしまった。人間関係って難しいよね、でもこの子と話していると楽しいからまあいっかー。



「一条君ご指名ですよー」

「はーい」



 ひえ、忙しくなってきた。多分桔梗があーんしてくれとかそういうのなんだろうけど。このお店そういうサービスやってないよね。そのことを話したら店長もパートの人も暇な時ならいいよって言われたんだよね。桔梗にもそう伝えたらなぜかお店の一番暇なタイミングでくるようになったんだ、すごいなぁ、よくわかるよね、ずっと店の前で混雑状況を確認してないとできないと思うんだけど…

 ちなみにバイト先では桔梗はなんかカップルだと思われているみたい。単なる幼馴染なんだけどね。そうして俺はアルバイトをこなすのであった。


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