第19話 バイトをすることになったんだけど

「今日からバイトに入ることになった一条刹那です、よろしくお願いします」

「ようやく見つかったバイトってあなたなんですか!? あの目に感情の無い女の子はいないですよね!?」



 俺が挨拶をすると、茶髪にショートカットが似合う少女がいきなり騒ぎ出してあたりを見回す。やっぱり何回か顔合わせているからかフレンドリーだね。嬉しいなぁ。



「こら、双葉ふたば、せっかく見つかったバイト君に何て事をいうのよ、謝りなさい」

「だって、この二又男がいるとあの女の子が来るんですよ!! 私あの人苦手なんですよ!!」

「ごめんなさいねぇ、この子思春期だからか異性がいると緊張しちゃうみたいで」

「いえいえ、大丈夫ですよ。ツンデレからメイドに進化した幼馴染と、クールでちょっとツンツンしたクラスメイトがいるんで個性ある女の子には慣れてますから」

「これは思春期じゃないです! 例えるならば恋愛映画でかませ犬のチャラ男に偶然あって困惑している気分なだけです!! というかあなたって、変な人しか知り合いいないですね!!」



 騒いでいるの少女の名前は五ノ神双葉ごのかみふたばちゃんである。彼女とは俺や桔梗たちがお客としてカフェに来た時に接客してもらったり、バレンタインデーにお菓子のことを聞いたりしたので面識がある。双葉ちゃんのほうも俺を覚えてくれているようでフレンドリーに話しかけてくれている。

 双葉ちゃんをみてやれやれと呆れた顔でみているのはその父にて、このお店の店長兼パティシエの五ノ神樹ごのかみいつきさんだ。すごいよね、2メートルもある巨体にスキンヘッドっていう容貌なのに繊細なお菓子をつくるんだもん。バイト特権で新作とか試食出来たら嬉しんだけどなぁ。



 ちなみにお店の名前は「ファイブツリー」という。店長の苗字と名前とかけてるんだって。求人募集を見つけていた俺はさっそく電話して面接を受けたのだ。どうやら店長が腰を痛めてしまい、重いものを運んでほしいのと、ホールが忙しい時に手伝ってほしいとの事だった。さいわいファミレスで働いた経験があったのでそのことを伝えたところ見事合格となり、こうして働くことになったのだ。



「それじゃあ、双葉ちゃん、簡単に説明してあげてね、私は作業に戻るから」

「わかりましたお父さん、がんばってくださいね」



 そう言って樹さんは奥の厨房へと戻っていった。その後ろ姿を見ていると隣からすごい視線を感じた。何やら不思議な表情でこちらを双葉ちゃんがこちらを見ていた。



「どうしたの? 俺の顔になんかついてる? もしかして惚れた?」

「いえそれはありえないですけど……二又男さんは、うちのお父さんがあんな格好に、あんな喋り方なのにびっくりしないんだなぁって思って」

「え、だってそんなん個性だし、格好とお菓子作りなんて関係なくない? よくわからないけどカフェなんだし、接客がちゃんとしていてお菓子が美味しければいいんじゃないかな」

「ふふふ、そうなんです……そうなんですよ。うちのお父さんのお菓子はとても美味しいんです!! それこそ、映画の最後に主人公の仲間が死ぬ前にうちのお菓子を食べたかったなぁっていうくらいに!!」

「そうだね、この前のバレンタインのチョコもおいしかったし、また食べたいなぁ」



 俺の言葉に双葉ちゃんは本当に嬉しそうに笑いながら言った。よくわからないけど、その顔はとても誇らしげでいいなぁと思ったものだ。



「一条さん、こっちですよ。仕方ないですね、今度お父さんにお願いしておいてあげましょう。」

「はーい、今行くねー。すっごい楽しみ」

「ふふ、私は先輩なんで敬ってくださいね。まるで宗教映画に登場する聖女に平伏する信者の気分になってください!!」



 そうして俺は上機嫌な彼女についていくのであった。あれ、二又男から名字呼びにレベルアップしたよ。

やったね。



「一条さんには基本的にバックヤードでの荷物運びとお皿洗いをやってもらいます」

「わかったー、ちなみにお皿に余っているお菓子は食べていいの?」

「絶対良くないですね、すぐに生ゴミのゴミ箱にいれてください。まったく、気分はハリウッド映画でスラム街の住人と会話している気分ですね……」



 まあ、やっぱりだめだよね。冗談だったのにマジレスされちゃった。でも双葉ちゃんとはなしてるの結構たのしいからいっかー。



「紅茶とかコーヒーはコツがあるので、私たちが淹れますからね。ちなみに刹那さんコーヒーと紅茶どちらがいいですか? 記念にいっぱいおごってあげましょう。お父さんには内緒ですよ」

「うーん、今は紅茶の気分かな」

「では少し待ってくださいね」



 そういうと彼女は鼻歌を歌いながら準備をし始めた。流れるような動作から経験の多さが図れる。そうしてポットから紅茶をカップにそそぐ。



「なんか美味しくなる魔法とか、かけたりとかしてくれないの?」

「残念ですが、うちはそういうお店じゃないんですよ。はい、できました。ふふ、たぶんあなたはドキュメント映画で雪山で遭難して、ようやく山小屋について温かいスープを飲んだ気分になるでしょう」



 そういうと双葉ちゃんは得意げにカップを差し出した。いい香りが俺を襲う。そうして俺たちは紅茶を楽しみながら少し雑談をした。



「では、そろそろ働いてもらいましょうか、外にある荷物をここに全部入れておいてくださいね」

「了解!! 紅茶美味しかったよ」

「いえいえ、私もお父さんをみて変な反応しない人を見たのが久々だったので嬉しかったので」



 そういうと彼女はホールへと戻っていった。よくわからないけど樹さんの何が変なんだろうね? 別にどんな格好でもしゃべり方でもいいと思うんだけど……俺は疑問に思いながら作業を始めるのであった。



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今回はいかがだったでしょうか?


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