第38話 ホワイトデーの準備をするんだけど

 そろそろホワイトデーが近づいてきた。俺は朝食を作りながら何をお返ししようか悩む。最近はバイト先の店長に習って洋菓子を作り始めたのだけれど、それプラス何かをしてあげたいなと思うのだ。



「はい、桔梗ー、ホットケーキができたよ」

「ありがとうございます!! 刹那の手料理が朝から食べられるなんて私は幸せです」

「いつもお弁当を作ってもらってるからね、バイトの時の練習にもなるからさ」



 俺は当たり前のように家にいる桔梗に言葉を返す。いつもは彼女の朝食を作ってもらっていたのだが、バイトをはじめてから料理に目覚めた俺は時々、練習がてら料理を作るようになったのだ。我が家の包丁はなぜか桔梗を傷つけてしまうので、触らせないようにしていたのだが、彼女的にはそれが不満なようでむくれていたのだが、俺が料理をしていると彼女はおとなしくなるので一石二鳥である。



「刹那は本当に料理が上手になりましたね、刹那と結婚した人はこんなおいしいものが食べれるんですね……私が立候補してもいいですか?」

「桔梗は甘いもの好きだもんね……俺たちまだ高校生じゃん、結婚とかまだ早いと思うし、甘いもの好きなら店長にスペシャルメニューお願いしようか?」

「そういう意味じゃないです……それに私は甘いものが好きなんじゃなくて、刹那が作る料理が好きなんですよ、刹那の馬鹿……」



 俺の言葉に彼女はなぜか頬を膨らませて拗ねてしまった。あれ? 毎朝おいしいものが食べたいわけじゃなかったのかな? よくわからないけど頬を膨らませた桔梗は可愛いからいっかー。



「そういえばホワイトデーのお返し何がいいかな? サプライズもいいかなって思ったんだけど直接聞いた方がいいと思ったてさ。あ、もちろんお菓子も気合を入れて作るから楽しみにしていてね」

「本当ですか!! じゃあ、ちょっと遠くへデートしたいです。品川の水族館に行ってみたいんです」

「いいよー、いつ行く?」

「本当ですか、おしゃれしていきますね。三月十四日はどうですか?」

「ああ、ごめんその日は予定があるんだ」

「予定って何ですか?」



 ガシャンという音がしてホットケーキごとお皿が桔梗の持ったナイフによって砕かれた、これだから百円均一のお皿は駄目だなぁ……やっぱり壊れやすいよね。大丈夫って桔梗に声をかけようとしたらなぜか彼女は虫のように何の感情もない目でこちらをみていた。この目って可愛いよね、これも萌えっていうのかな?



「ホワイトデーだからね、バイト入れられちゃったんだよね」

「ああ、バイトですか、よかったです。せっかくだから遊びに行きますね」

「うん、ありがとう。それよりもそのホットケーキのお皿が砕けて混じっちゃたから俺の食べなよ」

「すいません、つい手が滑ってしまいました。片づけますね」



 そういって恥ずかしそうにちょっと顔をうつむいて赤らめる桔梗は本当にかわいい。でもさ、皿の破片とか危ないよね。



「大丈夫、俺が片づけるよ」

「あ……刹那……」



 俺と桔梗が同時に皿を片付けようとしたせいか手が重なる。懐かしいなぁ、子供ころはよく手をつないでよね、彼女がツンデレになってからはそういう事はなかったけど。



「刹那の手はいつの間にか大きくなりましたね」



 そういって彼女は大事なものを扱うように俺の手をさすった。それはいいんだけど、ちょうど真正面にすわっているからか、彼女が俺の手をさするたびに大きな胸が揺れて違うところが、大きくなっちゃいそうなんだけど……



「急いでかたづけないと遅刻しちゃうよ」



 俺はちょっと変な気分になったのをごまかすように桔梗に登校を促した。






 教室に入ると文庫本を読んでいたアリスが俺の顔をみるなり、意地の悪い笑みを浮かべながら挨拶をしてくれる。



「おはよう、刹那。朝からいやらしい顔してどうしたのかしら? 警察に職質とかされなかった? もしも逮捕されたら楽しみにしててね。私ね、インタビューで「彼ならいつかやると思ってました」っていうのが夢なのよ」

「うわぁ、そこは内心はどう思ってても、「彼がやるなんて……」て言って悲しそうな顔するところじゃない? 今の時代そんなことしたらツイッターのネタ画像みたいになっちゃうけどいいの? でも……委員長なら可愛いって有名になりそうよね」

「……アリスよ」



 俺の言葉になぜか彼女は軽口で返すわけではなくちょっとすねたように唇をとがらせて言った。



「アリスって呼んでっていったでしょう? もう忘れちゃったのかしら」

「そうだったね、ごめんねアリス」



 俺は素直に謝る。いや、俺も迷ったんだけどさ、桔梗みたいな幼馴染ならともかく、いきなり名前呼びって誤解されない? だって後ろの席の人とか、俺たちのやりとりを聞いて、なんかひそひそ言ってるけど大丈夫かな? ああ、でもアリスが満足そうな顔をしているからいっかー。



「そういえば、ホワイトデーのお返ししようと思うんだけど、なにがいい? あ、それとは別にお菓子はわたすからね」

「へぇー、いい心がけね、ホワイトデーのお返しは300倍返しってきまってるものね?」

「うわぁ……ちょっと暴利すぎない? 破産しちゃうよ。消費者センターに相談しなきゃ」

「残念ながらクーリングオフは受け付けません。なんてね、冗談よ、そうね……14日は空いているかしら、付き合ってほしいところがあるのだけれど」

「ああ、ごめんその日は予定があるんだ」

「ふーん、二宮さんとデートなのかしら? 仲良しね、嫉妬しちゃうわ」



 そういうと彼女はちょっとすねたように唇をとがらして言った。今まで見たことのない顔でちょっと可愛らしい。



「何よ、人の顔をみて……二宮さんの顔でもみてなさいよ!! ということでこれ以上は有料よ」



 そういうと彼女はさっきまで読んでいた本で顔を隠してしまう。江の島にいってから、なんかからかい方がやわらかくなった気がする。



「まって、バイト代が入ったから払う払う、いくら払えば満面の笑顔で『別に刹那の事なんて好きじゃないんだからね』って言ってくれる? あと、14日はバイトだよ、桔梗と会うわけじゃないんだけど」

「あら、そうなの……早合点してたわね……なら私と一日つきあってもらえるかしら。みたい映画があるのよね」

「いいよー、楽しみにしてるね」



 委員長は俺の返答に満面の笑みを返すと、なぜか彼女は俺のカバンに話しかける。



「というわけで私も刹那と遊ぶことになったわ、これで対等ね、二宮さん」

「え、桔梗は隣のクラスだよ。それにそれはスマホじゃなくてカバンだよ」

「うふふ、いいのよ」



 どうしたんだろう、アリスの頭おかしくなったのかな? うわ、なんか桔梗からむっちゃラインきたんだけど。おれがてんぱってると彼女が一言。



「たしかに映画に一緒に行くけれど、別に刹那の事なんて好きじゃないんだからね」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ、ツンデレサービスだ!! もう一回言って動画とるから!!」

「残念ね、これ以上は有料サービスになります」

「そんなぁぁぁぁぁぁ、いくら払えばいいの!?」

「一条、朝からうるさいぞ!!」



 俺の悲鳴と授業の始まるチャイムの音が重なった。俺は先生に怒鳴られてしまった。それをみてアリスは意地悪に笑った。うう、なんで俺だけ……でもアリスが楽しそうだからいっかー。





「ていう話があったんだよね、何で桔梗もアリスも14日に会いたがるのかなぁ……土日のほうが長い時間遊べていいと思うんだけど、ちょっと時間の使い方が悪いよね」

「悪いのは一条先輩の頭ですね……今後は二股クソ野郎って呼んでもいいでしょうか?」

「え、何で今の話で好感度が下がってるの!? でも、青春ブタ野郎みたいでかっこいいね」

「皮肉が通じないぃぃ!?」



 学校であったことをバイト先のカフェで双葉ちゃんに愚痴っているとなぜか彼女はあきれ半分怒り半分といった顔で俺を睨みつけてきた。



「そうですね……例えるならばラブコメ映画で鈍感主人公に無自覚なのろけを聞かされているサブヒロインの気持ちです……って誰がサブヒロインですか!!」

「情緒不安定だけど急にどうしたの? あ、もしかして……女の子は大変だよね」

「不愉快な勘違いをしないでください!! あなたの鈍感さに怒っているんですよ!! でもあのクールそうな人まで一条先輩の毒牙にかかってしまいましたか……」



 なんかひどい言われようである、一体どうしたんだろうね。よくわからないけどぷんぷん怒っている双葉ちゃんは可愛い。



「それで一条先輩私には何かないんですか?」

「え、何がって?」

「プレゼントですよ、ホワイトデー的な」

「ないよ。だってバレンタインデーもらってないじゃん」

「うう……だってその頃は仲良くなかったんですもん……私も一条先輩の手作りパンケーキとか食べたいんですが……」



 そういうと彼女は上目づかいでおねだりをするように言ってきた。どこでそんな男を篭絡する方法を覚えてくるんだろうね。でもまあ、確かに彼女にもお世話になってるしなぁ……ちょうどいいのがあった。俺は目の前にあるお皿を彼女に渡す。



「あ、じゃあ、これあげるよ。俺の手作りパンケーキ」

「わーい、ありがとうございますって、これ食べかけなんですけど……その関節キスになっちゃいますよ!!」



 なぜか、顔を真っ赤にする彼女に俺は安心させるように笑顔で言ってあげる。



「大丈夫だよ、試作として、双葉ちゃんのお父さんにたべてもらったやつのあまりだから、お父さんとなら関節キスもしたことあるでしょ」

「うがぁぁぁぁぁぁぁ!! 私の胸のドキドキを返してください!! というか、人にお父さんの残飯を処理させないでください!! 例えるならばRPGゲームで宝箱だと思ったらミミックだった気分です」



 店長に味見をしてもらって、アドバイスをもらった後、「あとは自分で食べてみなさいな」と言われたのでとっておいたのだ。手作りが食べたいって言っていたからあげたのにどうしたんだろうね? 女心は難しいなぁ。彼女はひとしきり騒ぐと、呼吸を整えてこう言った。



「バレンタインは何もできなかったので、代わりと言っては何ですが、私が一条先輩にパンケーキを作るコツを教えてあげますよ、感謝してくださいね。せっかくだし、材料を買うところから付き合ってあげます。お勧めのお店があるんですよ」

「いいよー、例え火の中、水の中、スカートの中だってついて行くよ」

「いや、スカートの中には行きませんが……じゃあ、明日の放課後にお願いしますね」



 そういうと双葉ちゃんは本当にうれしそうに笑った。その笑顔をみれてちょっと幸せな気分になったんだ。



---------------------------------------------------------------------------------------------



面白いなって思ったら、是非作品フォロー、レビュー、コメント、応援の方をいただけると大変モチベがあがるのでしていただけると嬉しいです。

特にレビューをいただけると無茶苦茶モチベが上がりますのでよかったらお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る