第13話 桔梗が飛び出して行っちゃったんだけど
突然狼狽して、店を出て行った桔梗を俺が呆然としながらみていると委員長が声をかけてきた。
「こうなると思ったから二宮さんには内緒で話をしたかったのだけれど……一条君と二宮さんに心の準備をさせたかったのに上手くは行かないものね……」
彼女はコーヒーに口をつけながら彼女は悲しそうな表情で続ける。そして桔梗の出て行った先を見ながらさらに言葉を紡いだ。
「二宮さんがストーカーだったことに驚いたかしら、私としてはあなたが気づいてなかったことに驚きなのだけれど……でも彼女を気持ち悪がる前に、彼女の気持ちも考えてほしいのよ。彼女はね、それだけあなたの事を想っていたの。彼女はあなたが全てなんでしょうね……彼女がいきなりツンデレになった日をおぼえているかしら」
「ああ、確か中学一年の時だよね。すっごいびっくりしたから覚えているよ。いきなりだもん……」
委員長の言葉に俺は当時を思い出す。朝会ったらいきなり茶色く髪を染めた桔梗が「しかたないから一緒に登校してあげるんだからね」とか言い出したのだ。それまでどちらかというとおとなしい性格だったからいきなりの変化に驚いたものだ。思春期特有の病気だと思ったのだが何か理由があったのだろうか。
「あなたは多分覚えていないんでしょうけど、あなたが前日に雑談で『この漫画の茶髪のツンデレキャラが好きなんだ。いつか結婚するんだ』って、あの子に言ってたのよ。あの子はそれでそのキャラの真似をしたんでしょうね……あなたに気に入ってもらうために……彼女はあなたが自分で考えているより、ずっとあなたを大事に想っているのだと思うわ。とはいえ彼女も異常ですもの。あなたがストーカーをするような女はちょっと……っていうならこのままモンブランを食べていればいいわ。でも、彼女を大事に想っているならどうするかはわかるわよね、一条君」
「ああ、ありがとう、委員長は優しいんだな……」
「ええ、言ったでしょう。ツンデレは好きな人にはデレるし優しいのよ」
「委員長は最高のツンデレだよ」
俺にとって桔梗が大事か大事じゃないか、そんなのは決まっているのだ。考えるまでもない。ちょっと変わった所がある幼馴染だ。そりゃあ人間だもん、欠点だってあるでしょ。
でもさ、本当に嫌だったらずっと一緒にいるはずないんだよ。昔のおとなしかった桔梗も、ツンデレな桔梗もメイドな桔梗も俺は大事だし、好きなんだよね。だったらやることはきまっている。
「委員長、ちょっと桔梗を探しに行って来るよ。あいつ、色々勘違いしているみたいだし」
そもそも俺は桔梗を嫌ってなどいないし、気持ち悪いなんて思っていないのだから。当たり前である。ちゃんとそれを説明してあげないといけないと思う。
「本当に追いかけるのね? あの子は来ないでって言ったのよ、なのにあの子を追いかけるの? 昔のあなたならともかく、今のあなたなら彼女の言葉に従う可能性もあると思っていたのだけれど……それにあの子を追いかけるという事はこれからも、あの子に付き合う覚悟があるんでしょうね」
委員長は俺を試すように意地の悪い笑みを浮かべる。散々発破をかけておいて性質が悪い。ああ、そうだ。確かにこれまでの俺なら彼女の言う事にしたがっていただろう。でも、あのときの彼女の全てに絶望した顔が、俺の中の直感が、このままではまずいと訴えている。俺は今の状況をよくわかっている。ここが俺と彼女の関係の分岐点であることをわかっているのだ。よくわからねえなどとは口が裂けても言えない。
「うん、俺は行くよ」
「ええ、頑張ってね刹那。今のあなたは少しだけかっこいいわよ」
委員長に久しぶりに名前を呼ばれ、俺は一瞬目を見開いた。懐かしいね。じゃあ、俺も名前で呼ぶべきだよね。
「俺はいつもかっこいいの間違いでしょアリス。かっこよすぎてハーレム作っちゃうかも。後で払うからお会計は頼むね」
「久々に名前を呼ばれたわね、なんだか昔に戻ったみたい……安心して、あなたの周りに集まるのは虫と二宮さんと私くらいよ。それではハーレムとは呼べないわ……いってらっしゃい刹那」
俺は委員長アリスに礼を言って、桔梗を追いかけるために店を出る。どこにいるだろうか? ぜんぜんわからねーや。これまで思考を放棄してきた代償だろう。まあいいさ、行動しても行動しなくても結局後悔をするのだ。俺は頭をフル回転させる。あのアプリだ。委員長は言った。「このアプリがあればお互いの位置がわかるのよ」と、なら俺が使えば彼女の位置だってわかるはずだ。俺はアプリが指し示すところへと向かい走り出した。
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