第50話 アリスの家にきたんだけど

「ここかぁ……」


 俺は、スマホの案内でついたマンションの前で、部屋番号を押して、反応を待つ。



『ごめんなさい、宗教の勧誘はお断りしているの。たしかポジティブ教の方ですよね? お引き取り願えるかしら?』

「イッツァ、ポジティブ!! 我が宗教に入れば何が起きても幸せになりますよ!! 例えるならば、いきなり妹が鬼にされて、よくわからない鬼滅隊に襲われても、まあ、よくわからないけどなんとかなるかーって気分になります」

『……無視の呼吸一の型『ガチャ切り』」



 ひどい!! 本当に切られたんだけど!! このままじゃあ、無残な不審者だよ。俺はあわててもう一回インターホンを押す。



「待って、今日は俺ってアリスに招待されたんだけど!?」

『仕方ないわね、じゃあ、合言葉を言いなさい。私の良いところなんてどうかしら?』

「えーと、そうだなぁ。結構しっかりしているとことか、クールなくせに結構ノリが良いところ、本の趣味があうところ、あと、間違っているときはちゃんと間違っているって言ってくれるところと……」

『なんで公共の場で堂々と言えるのよ……今回は私の負けね』



 照れたアリスの声と共に扉が開いた。やったぁ。合格だぁ!! それにしてもお土産はいらないっていってたんだけど何でだろうね。カフェのお菓子を買ってこようと思ったんだけど断られてしまったんだよね。



「いらっしゃい、わざわざ来てくれてありがとう。そこに座ってて」

「お邪魔しまーす。いやいや、こちらこそお招きしてくれてありがとう」



 俺がチャイムを押すと、ドアが開いてエプロン姿のアリスが迎えてくれた。なんだろう、料理をしていたのかな? 部屋から甘い匂いがしてきた。俺はそのままキッチンがみえるリビングルームに案内された。そして、ふかふかのソファに座る。



「これからパンケーキを作るところなのよ、お店のみたいにとはいかないけど、私のお母さん直伝だから楽しみにしていてね」

「へぇーそうなんだぁ、ちょっと楽しみだなぁ。そういえばお母さんは?」

「今はいないわよ、たぶんあの人とデートじゃないかしら?」



 当然といった顔をしながらアリスは俺にお茶を出してきたので、ありがたくいただこうとして、一瞬固まる。え、じゃあ、アリスと二人っきりってこと? いいのかなぁ、男と女だよ。ちょっと緊張してきたけどアリスはどうなんだろう? 一応確認しておこう。勘違いだったら恥ずかしいしね。



「じゃあ、二人っきりってこと?」

「ええ、そうよ、安心して。マンションには警備員さんがいて私が悲鳴をあげたらすぐ来てくれるわよ。ふふ、つまりあなたは袋のネズミね」

「俺は何も安心できないよね!? それにしても今のアリスの顔悪役令嬢みたいだよ、俺は罠にかけられて気分だチュー」

「男子高校生のチューチューはきついわね……悪役令嬢と言えばちょうどアニメやってるやつでも観る? 録画してあるわよ」

「わーい、みるみる!! 俺も乙女ゲームの世界に転生したいなぁ……」

「あなたの場合は、転生したらジャンルが乙女ゲームからコメディに変わるからやめた方がいいわよ……」



 そういうと彼女は再びキッチンの前に立った。それにしても、ちょっと意識しちゃったけどアリスが大丈夫っていうし、いつもと様子も変わらないから、まあ、いっかー。

 俺はパンケーキを楽しみにアリスの料理の手際をみることにした。それにしても、アリスって料理できたんだね、意外だなぁ……以前の調理実習は悲惨だった記憶があるけど、成長したんだろうね。なんていうか色々豪快だった記憶がある。

 彼女は、まな板の上にバナナを置いて思いっきり包丁を振り上げて……



「せい!!」



 思いっきり振り下ろした。包丁がまな板にたたきつけられる音がして、真っ二つに切られたバナナが転がる。なんだろう、俺の下半身にある刹那がむっちゃきゅっとしたんだけど……それよりさ……



「ちょっとまってぇぇぇぇ!! アリスは料理したことあるの?」

「ないわ、でも、安心して。理論とレシピなら完璧よ。お母さんに色々教わったもの」



 何言ってんだこの子、何も安心できないんだけど……どや顔をしているアリスを心配そうにみていると彼女はちょっとすねたように唇を尖らせた。



「何よ、私だって、料理くらいできるわよ……まあ……なぜか昔からお父さんやお母さんにはキッチンに立たせてもらえなかったけど……私だって高校生だもの、パンケーキくらいなら作れるわ」

「あの、質問なんだけど、その時に、アリスの両親は何て言っていたの?」

「そうね……困った顔をして『お願いだから台所には立たないで……なんでもほしいものを買ってあげるから』って言われたから、魔法少女変身セットを買ってもらったわ。ちなみに今回レシピ教わった時も、一人では作るな、絶対誰かと一緒に作れって言われたのよ、失礼だと思わない?」



 お母さんが正しいよね。それにしても、なんか、友人の封印された力みたいなのを開放してしまったのを目撃している気分である。



「アリス……料理は大丈夫だよ、宅配ピザを頼もう。もしくは俺が作ろうか?」

「なんでよ、料理なんて極論、切って焼いて煮ればできるでしょう? お母さんに習ったし大丈夫よ」

「本当に大丈夫かなぁ……」



 俺の言葉に彼女はすねたように唇を尖らせた。しばらく、様子を見ていると彼女はボールに入った小麦粉をかき回せていたが乱暴すぎたのか、中身がアリスに見事にかかってしまった。



「……」

「……」



 しばらく、沈黙が支配する。まあ、小麦粉だし、体に害はないだろう。悲しそうなアリスにはちょっと悪いけど、なんかスライムに襲われた美少女って感じで少しエッチだと思ってしまった。



「アリス……大丈夫?」

「ええ……大丈夫よ……ちょっと汚れたからお風呂入ってくるわね。私の部屋でまってて」

「うん、わかったよ。本読んでてもいいかな?」

「ええ、好きなのをどうぞ。すぐ戻るわ」



 そういうと水で溶かしていた小麦粉を体に浴びたアリスは、ちょっとテンションが下がったかのように、顔で言った。大丈夫かなぁ。へこんでそうだけど……



「刹那にうちの味をごちそうしてあげたかったのに……」



 彼女がなにかつぶやいたようだったが、小声だったせいか聞き取れなかった。俺は出されたお茶をもって彼女の部屋へと向かうのだった。まあ、彼女が気分がよくなる話でも思い出すとしよう。

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