11  当分の目標について考えました

 私はネズミとの激戦に勝ち、生き残った。


 ハァ、ハァ……私の、勝ち。

 くそ。

 ご飯の分際で私に牙を剥くなんて、分をわきまえろ!


 とりあえず、ステータスの確認。


 赤ゲージは……うわぁ。

 ギリッギリのところで耐えているわ。

 黄色ゲージが少し回復しているのは、ネズミを少し食べたから?

 そのおかげか、赤ゲージの減少は止まっている。

 青ゲージは全く変動がない。これは本当に謎だ。


 んじゃ、早速仕留めた獲物を食しましょうかね。

 さっきまでは必死すぎて味なんて感じなかったけど、本来ならこの世界に来て初の食事。

 記念すべき初ご飯なのだ。


 本当は焼きたいけど火なんて無いし、生でネズミを食べなきゃいけないけど、こんな言葉がある。

 空腹こそ最高の調味料だと。

 今の私は空腹でHPが極限まで減るくらい腹ペコなのだよ。

 ということで、いただきます!

 グシャリグチャリムチャリ。


 ……


 …………


 ………………ウゲェ。


 くっそ不味い。

 鉄臭いし、獣臭いし、泥みたいなゴムみたいな味もする。

 とにかくすっごく不味い。


 しかも、なんか痛いんだけど。

 これネズミの毒?

 毒耐性を獲得したはずなんだけど。


 ま、命をいただいているわけだし、残さず食べるけど。

 これ以外に食べる物がないだけなんだけど……ちゃんと残さず食べる。


『人の命を粗末にしても、食べ物を粗末にするべからず』


 蛇の下半身をしたとある邪神の言葉。

 私の心に響いた数ある言葉の中の一つ。

 だから、マズかろうと痛かろうと食べるんです。






《告:熟練度が一定に達した為、スキル【毒耐性Lv.1】が【毒耐性Lv.2】へとレベルアップしました》




 ネズミを平らげると同時に、毒耐性のレベルが上がった。

 心なしか口の中のヒリヒリ感が抑えられた気がする。


 赤ゲージは変化無しだけど、黄色ゲージはおかげさまで半快。

 やっぱり黄色は空腹を現していたのかな?

 どう考えても私よりも質量が大きなネズミを食べて、半分しか回復しないのも変だとは思うけど。

 まぁ、Lv.やスキルの概念がある世界でそんな小さなことをいちいち気にしてはいられないか。


 とりあえず穴から出るか。

 いつまでもこんな所にいて、獲物が誤って落っこちてきたら今度こそ死んじゃうし。


 少し崩れた側面を修復してから穴から這い出る。

 その後私は元右腕ちゃんに網目状に穴を覆うよう指示を出し、その上から私はそっと土をかぶせた。

 元右腕ちゃんが被せた土をがっちりと綿毛のような根で掴んでくれているおかげで穴は綺麗に隠せた。

 未だに噛まれた腹部には違和感あるけど……。


 ネズミは罠の完成前に引っかかっていたけど、これは完全にたまたまだったみたいで、他4つの穴には何もかかっていなかった。

 まぁ、改良だったりは今後必要になるな。


 それに、今のHPじゃちょっとしたことで本当に死にかねない。

 それこそ生命力を使う株分けなんてできない。


 当分の目標は衣食住の確保からだよね。

 と言っても、植物の私に衣は不要だから実質食住なんだけど。

 まだ不安定だけど、一応罠のおかげで食の確保はできたと言ってもいいでしょう。


 次に住、家の建設。

 今いるこの空間全体を家と考えるなら申し分ないけど、まだ安全面がいまいちなんだよね。

 骨組みに元宿主の亀の甲羅を使えば、ある程度立派で頑丈そうなものはできそうだけど。

 今日はもう疲れたから、家作りは明日以降にしようかな。


 私は甲羅の上に横になり、洞穴の天井を見る。


 まだまだ、当分の目標には程遠いかもしれないけど、ひと段落ついたと言ってもいいよね。

 無一文の無知無能の状態から、ある程度の私のことは把握できるようになった。

 まだまだ知らないことだらけだけど、最低限生きていけるくらいには?

 多分、大丈夫。


 所有スキルは何があるか分からないけど、それなりに獲得したと思うし。

 罠も一つとはいえ完成したし、不完成とはいえ落とし穴が他に4つもある。

 だから不定期だけど食事は得られる。

 絶対安全とは言えないけど、少なくとも外よりはマシ。

 楽観的に考えれば、向こうから勝手に食事が歩いてくる睡眠し放題のニート生活と言っても過言ではないんじゃなかろうか?

 生活環境とご飯の味に目を瞑ればだけど。






 …——私は学校に通おうが、通わまいが関係ない空気みたいな人間だった。

 私以上にモブな女子高生はいないと思う。

 学校だけじゃなく、家庭内でも私の立場は変わらない。


 だからこそと言っていいのか、私は引きニートのような生活をしていた。

学校に行っていたとはいえ、出席日数を稼ぐための最低限の登校だったし。

 外でも内でも誰とも話すことなく、学校以外は基本自室。

 ヤ○ー知恵袋で質疑応答していたり、ニ○ニコで漫画や動画をあさったり等、ネットサーフィンを楽しむか、ネトゲをするか。


 別に家庭内で嫌われているとかではない、と思う。

 私の両親は共働きで帰りが遅く、一人っ子な私は自室に篭っているが故に、顔を合わす機会が少ないだけだ。

 こう言ってはなんだが、同じ家に住んでいるだけの赤の他人ってほうがしっくりくる。

 両親とシェアハウスをしているようなもの。


 こんな家族関係だったけど、私がいなくなって少しは悲しんでいるかな……。

 いや、そもそも居なくなったことに気付いていない可能性があるな。


 そんな私だけど、たまに会話する相手がいる。

 お隣に住む森さんだ。

 スキルの森さんじゃないよ?

 コンビニ帰りの私を見るや否や、話しかけお惣菜や晩ご飯を分けてくれる優しいおばさん。

 でも、言ってもその程度。


 そんな私だけど、ただ親の脛を齧っていただけじゃない。

 生活費や食費等のお金はFXやブログで稼いである程度家に入れていた。

 どちらも始めやすかったし、趣味のネットサーフィンをしながらでなんとなくコツは掴めていたと思う。

 成功したとか、すごい稼げたって訳じゃない。ここ重要。

 けど、お父さんの給料の半分くらいは稼げていたんじゃなかろうか?

 だから親の脛をかじっていただけではないのだ。


 誰にも迷惑をかけず、普通の人より自室にいる時間が長いだけ。

 だから外出は学校だけ。それ以外はもろニート。

 そんな生活をしていても文句は言われなかったし、言わせなかった。






 うん、そうだよ。

 別にニートが悪いってわけじゃないんだよ。

 今さっき死にそうにはなったけど、もしかしてこっちの世界でも安全性バッチリな家さえ完成させれば、そんな自堕落な元の生活が送れるんじゃない?

 アリよりのアリかもしれない!


 よしっ、そうと決まれば家づくり頑張ろう!

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