03  私の持ってたチートは幻想でした

 うわぁ……。


 水面に映った私の姿を見た第一印象だ。


 亀の甲羅中に張り巡らされた綿毛のような根っこ。

 綿毛って言うとなんかふわふわしていて可愛い感じに聞こえるかも知れないけど、それは違う。

 断じて否だ。


 うーん、なんて言えばいいかな。

 カビみたいな感じ? のものがいっぱいついた根っこが、とにかく甲羅に張り付いているんだよ。

 それがね、もう普通にキモい。

 確かに発芽しているみたいだけど、ちっちゃな葉っぱが数枚生えている程度。

 まだまだ赤ちゃんから。


 葉っぱはクタクタで所々齧られた跡もあるけど、今のところ支障をきたしていないから大丈夫だと思う。

 あと、多分だけど、宿主の体がやつれてきている。

 肉付きが悪いと言うか、痩せすぎと言うか。

 鱗も所々剥がれているし、脱色し始めているし、自分から根付いているとはいえ……。


 うん、見なきゃよかった。

 夢に出てきそう。


 さ、ずっとここにいるのもいろんな意味で怖いし、さっさと安全なところでも探そ。


 こんな見た目になったけど、結局のところ私は生態系ピラミッドで言うところの一番下だ。

 自由に動かせる体を得たなら、その体が壊れる前に安全地帯へと移動したい。

 それにスキルや魔法、Lv.の概念がある世界で、私はいつまでも底辺に居座るつもりはないのだ。


 きっと、多分、おそらく、私みたいな植物でも強キャラはいる……と思いたい。

 だからレベルを上げて、余裕でこの世界で暮らせるくらいには強くなりたい。

 目指せ文化的な異世界スローライフ!




 私は安全地帯を探しながら思考を巡らせる。 




 こういった異世界転生/転移モノでお約束スキルでアイテムボックス等があるが、中でも重要なのは解析鑑定能力だろう。

 右も左も分からない異世界で、アイテムボックスはともかく鑑定能力は必須と言っても過言ではない。

 アイテムボックスはあれば便利チート。

 だけど、別に無くても暮らせる。

 対して鑑定がないと毒物食って死ぬ、文字読めない、詐欺られるetc...


 要するに、寄生率がもう直100%に達する私にとっての最重要事項が、この鑑定スキルの取得だ。

 その辺は抜かりないのだよ。

 ぶっちゃけ天の声さん(仮)と会話ができるようになれば、鑑定とかしてくれるんじゃないかなとか思っているけど。


 あと自分のステータスとかスキルとかも目視できるようになりたい。

 こういった世界でHPが数値として見れないのは、正直心許ない。

 なんたって私は植物、ダメージの通りも分からないし、どんだけ欠損したら死ぬのかもわからない。

 ってことだから天の声さん(仮)、ステータス!




《……》




 ……


 …………


 ………………いや、分かってたよ?

 そもそも、天の声さん(仮)は私からの声に返事したことがないし。

 きっとツンを拗らせすぎたツンデレとかなんだよ。

 いつかはデレてくれるに違いない。

 私はそう信じてるよ。


 そういえば最初に【視覚Lv.1】を習得した時、スキルポイントなるものを消費して獲得したっけな。

 あれから、私のレベルは2上がっているからポイント溜まっているんじゃない?

 それを消費して鑑定スキルを――




《告:スキルポイントが不足しています》




 ……あ、はい。


 初めて私の質問に答えたー…んだけど、冷たさを感じる。

 いや、質問はしてない。しようとはしたけど、してない!

 それでこの塩対応か、ぺっ。しょっぺぇな。


 一瞬、デレたかもって思ったけど、それは本当に一瞬過ぎっただけで、今のはデレでも何でもないわな。

 チッ。もういいよ、どうせアイテムボックスも使えないんでしょ?




《解:是》




 だろうね。

 分かってたよ!


 はぁ、私って異世界に来たってことなんだよね。

 なんか、思ってたのと違う。

 大前提として、転生したら種でしたって何?

 いや、確かに人外に転生する話はあるし、無機物に転生する話だってある。

 でも、それは創作。物語だからいいんだよ?


 はやく人間になりたい。




《解:進化の系譜において、パラスティックプラントの種が人間になることは不可能です》




 ……。


 いや、分かってるよ。言ってみたかっただけというか、なんというか。

 知らない? 妖○人間ベム。

 異形の怪物がいつか人間になる日を夢見て奮闘する話なんだけど。




《解:存じ上げません》




 そっかー、存じ上げないかー。

 私もよく知らないんだな、これが。

 ……ん? あれ?

 なんか、普通に会話してる様な気がするんだけど。

 もしかして、もしかする?

 本当に天の声さん(仮)のデレ期がきた!?




《解:否》

《ユニークスキル【森羅万象Lv.1】の魂とのリンクに成功した為、最低限の返答からスムーズな質疑応答が可能になりました》




 ほー、へー、ふーん。


 よく分かんない言葉が何個か出てきたんだけど……、デレてないってことはわかったよ。

 というか別に否定せんでも。少し傷つくわ。

 で、うーんと、まずユニークスキルって何?




《解:ユニークスキルとは所有者が二人といない、所持者固有のスキルです》

《ユニークスキル【森羅万象Lv.1】は生誕と同時に取得しています》




 うん。端的に言えばチートってことですか、分かります。

 ふっ、私の時代が来たのかも知れない。

 ちなみになんだけど、森羅万象ってどんなスキル?




《解:私です》




 お、おう、そうでしたか。

 いや、そうですよね。返答が可能になったって言ってましたもんね。

 人の話はちゃんと聞きましょうね、はい。

 じゃあ、魂とのリンクがどうたらってのは?




《解:不明です》




 ……………………な、なぜっ!?

 自分で言ってたじゃん。

「不明です」「そうですか」

 とはならないよ!?

 結構そこ大事なところだから!


 えっ、いや、そもそもだけど森羅万象って存在する全てのこと物的な意味じゃなかったっけ?

 魂、リンク、分からない?




《……》




 え、あの、その。

 なんか言ってください。




《解:現在、スキルLv.1のため不明案件が多々存在します》




 そ、そうですか。

 なんか怒ってる?

 無機質な声に、圧を感じるんだけど。




《解:否》




 そ、そうですか。

 とりあえず、ごめんなさい。


 私は宿主の亀の体で、土下座の姿勢をとった。


 ま、そんなことより!

 ほら、安全地帯探さないと!

 切り替えは早く、いつまでもウジウジしない。

 謝罪は一度で十分、何度もいらない。

 ね?




《……はあ》




 なんか、スキルらしからぬため息が聞こえたんだけど、これは気のせいってことにして。

 呼び方どうすればいい?

 いつまでも天の声さん(仮)じゃ変だよね。

 森羅万象ってスキル名も分かっていることだし。


 うーん、安直だけど森さん、なんてどう?


 近所にお惣菜をくれる優しいおばさんがいたんだよ。

 うちの親よりもよっぽど可愛がってくれた、唯一の相談相手お隣の森さん。

 雰囲気もどことなく似てる? と思うから、どうかな?




《解:了》

《マスターより、呼び名”森さん”を取得しました》




 マスター? 私が、マスター?

 なんかカッコいい響きだね。

 ムフ、気に入ったよ森さん!


 さ、そろそろ本題に入ろうかなって考えているんだけどさ、森さんはなんかいい場所知らない?

 私が強くたくましく成長できるような、でも危険な目には合わないようなそんな都合のいい場所。




《解:不明です》




 そっか、そっか。

 そりゃそうだよね、そんな都合のいいところなんて無いよね。

 知ってたよ、うん!


 まぁ、あれだ。ほんの少しだけ可能性があるかも程度だったから、うん!

 大丈夫だよ!

 じゃあさ、じゃあさ、また質問なんだけど、私の宿主の事教えて!




《解:マスターが寄生しているのはレッサーリトルバグタトルです》




 そう、それ!

 そのレッサーリトルバグタトルってどんな生き物?

 レッサーな上に、リトルだからそんなにすごい魔物じゃないでしょ?




《解:亀です》




 それは分かっているよ。

 そうじゃなくて——




《告:スキルLv.が1のため、これ以上の情報は不明です》




 ……。


 そっか、そっか。

 まぁ、亀だよね。うん。

 じゃあ、これが最後の質問なんだけど、ここはどんな場所?

 地名とか、危険度てきな——




《解:森です》




 ……。


 私はいつから、自分の時代が来たと錯覚したんだろう。

 私は、いつユニークスキル=チートだとい思い込んでいたのだろう。

 言っちゃ悪いけど現状で森さん、使えない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る