02  宿主の神経への接続

 寄生生活は早くも三日目を終えた。


 この宿主である亀の甲羅の上での生活にも慣れてきたってもんよ。

 最初、寄生するっていうのは、なんだか嫌な印象を受けたが実際どうってことはない。

 不思議なことにお腹も空かないし、亀から振り落とされることもない。

 至って平和そのもの。


 まぁ、天の声さん(仮)の反応も、初日の夜以降はないんだけどね。

 あー、誰でもいいから話したい。


 それで、この三日間でわかったことをまとめてみようと思う。

 まず、私はどういう存在なのか。

 それはこの三日間で唯一、天の声さん(仮)が反応を示した寄生した最初の日の夜に分かった。




《告:パラスティックプラントの種はLv.2からLv.3にレベルアップしました》

《レベルが上限を迎えたため、発芽を開始いたします》




 この時、私は初めてパラスなんとかの種が自分だってことを知った。

 スキルなんかじゃなかった訳だ。


 さらに自分の姿もこの目……はないけど、【視覚Lv.1】っていうスキルのおかげでざっくりと見ることができた。

 たまたまだったけど、宿主の亀が水を飲もうとした時に水面に映ったのだ。


 ま、見たといっても亀の甲羅になんかちっこい葉っぱが生えているなぁ程度の認識だけど。

 それでも自分の姿を見れたのはかなり大きい。


 そして私はどういった存在で、この世界での立ち位置はどの程度なのか。

 これを知れたのが一番大きいんじゃないだろうか。


 そう!

 なんと!

 私はこの世界で!

 食物連鎖の底辺に位置する植物だったのだ!


 フッ……。

 まったくもって笑えないな。


 初日には雑魚の代名詞のスライムみたいな粘性の生き物に5、6回消化されかけた。

 でもこの世界ではスライムが強いかもしれない。

 だから決して自分は弱いわけじゃない。

 そう考えた時期もあった。


 でも警戒し始めた二日目以降も、スライム以外にウサギ+芋虫の生き物とか異常に足が多いネズミとか、他にもたくさん。

 何より明らかに弱そうなナメクジにまで、この私の身は削られ完食されそうになったのだ。


 まぁなんていうの。

 普通に考えてみたら、分かりきったことだったのよ。

 ライオン等の肉食動物が食物連鎖の上位にいる。

 その下に来るのがシマウマ等の草食動物。

 そしてその下が植物、私がくるのだ。


 それは動物だけじゃなく、虫もそうだし魚もそうだろう。

 要は私みたいな草は食われる側の立場にいて、ここは危険が危ないってことだ。


 うん。


 まぁ、所々抵抗できないまま齧られたりしたけど、幸いなことに宿主の亀がその度に助けてくれた。

 こんな感じで、私の寄生生活は四日目の朝を迎えた。




 ふぁ~。

 よく眠た。




《告:レッサーリトルバグタトルへの寄生率が70%を超えました》

《レッサーリトルバグタトルへの神経への接続を実行しますか?》

《 YES or NO 》




 ……。


 寄生しているってことは、いつかこんな日が来るとは思っていたけど。

 とうとう来ちゃったか。


 私が勝手に寄生しておいて、とうとうとか何言っちゃってんのって思うかも知れないけど、これはまごうことなき本心である。

 多分だけど、これで神経への接続を実行すると、宿主はほとんど死んだも同然だろう。


 なんとなくだけど気付いていた。

 私が食べられそうになった時に助けてくれた宿主、亀は私が半分は操っていたということを。

 無意識だったけど、確かに操っていたんだ。

 普段は私のことなんて気にもしない宿主だけど、私の身の危険が感じた時だけ予想通りの動きをしていた。


 今まで助けてくれていたのは、亀の善意ではない。

 私の自己防衛本能が宿主を操って、私を守っていたのだ。

 しかし、残酷なことに三日も昼夜を共にすれば、いくら相手が意思疎通のできない亀でも愛着が湧く。


 でも……。


 これが生きるということ。

 生物は生物の犠牲のもとに成り立つ、仕方がないことだ。

 自分を犠牲にしてまで他者を守りたいとは、私は思えない。

 私は善人ではないのだ。

 自分が生き残るためなら、何の躊躇もなく平気で人だって殺せる。


 寄生された時点で宿主は死んだも同然で、寄生した時点で寄生者は宿主を殺したも同然なのだ。

 結局のところ、私は生きていたいのだ。


 ごめんよ。


 私は心の中で”YES”と念じた。




《告:レッサーリトルバグタトルへの神経への接続が成功しました》

《レッサーリトルバグタトルとの肉体共有に成功しました》

《レッサーリトルバグタトルとの視界共有に成功しました》

《レッサーリトルバグタトルとの能力共有に成功しました》

《【硬化Lv.2】を獲得》

《【咬合力Lv.2】を獲得》

《【地属性魔法Lv.1】を獲得》




 寄生率が7割を超え、私は宿主の能力を引き継いだ。

 もう、宿主である亀は私の意思でしかほとんど動けないだろう。


 はいっ。湿っぽいのは苦手だから、これでおしまい。

 これからは切り替えて行こう!


 まず、視野共有によって、亀の目からクリアな視界を得た。

 今までぼやけていたからシルエットしかわからなかったけど、今ならはっきりと物が見える。

 それに自由に動き回れる。

 それだけで、なんだかものすごく嬉しくなってくる。


 あと、魔法なるものを会得した。

 これもテンションが上がる要因の一つだ。


 魔法、魔法だよ、魔法!

 ザ・ファンタジー要素の魔法!

 Lv.1だから、あまり派手なのは期待はできないけど、どんなに小さな魔法でも使ってみたい。

 手のひらから土とか出せたりしちゃうのかな? 手のひらなんて、植物になっちゃった私にはないけど。

 魔法、使ってみたいなぁ。


 咬合力に関しては、植物の私には使いどころが無さそうだけど、神経接続によって得るものはたくさんあった。

 とりあえず、クリアな視界を得たことだし、ちゃんと自分の姿を見てみたい。


 ということで、私はいつも亀が水を飲みに行っていた湖へと向かった。

 道中は一応周囲を警戒しながら進んだけど、幸いなことにこれといった魔物には出会わなかった。

 そして私は水面を覗き込んだ。

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