雑魚の生きる道編

01  天の声さん(仮)

 体を動かすことができず、風に乗ること数十分、私はゆったりとしたスピードで下降し始めていた。


 はぁ。

 まぁ、かなりの時間ふわふわ飛んでいたから、心はなんとか落ち着いたよ。

 認めたくない、認めたくない。けど、認めざるを得ない。

 少なくとも、今の私は人間じゃなくなっていると言うことを。


 第一、人間は風に吹かれたくらいじゃ空を飛ばない。

 当然だ。

 じゃあ、私は何者なのかって?


 ……?


 そんなことは知らん!

 むしろ私が知りたいわ!


 そうこうしている間にも、刻一刻と地面が近づいてくる。

 眼下はずうっと森、森、森。


 街かなんかが見つけられればよかったんだけど、そんなものはなかった。

 あっ、ちなみにだけど、ここは地球じゃないみたいなんだよ。

 確証はないけど、多分違う。


 まず、私の知っている中で動きまわる木なんて存在しない。

 ぼやけていてよくは見えなかったけど、大きな木が動いているのを視認できた。

 植物も生き物だから、成長もするだろうし、動くものもあるだろうけど、砂埃を上げて森を爆走はしないだろう。

 植物の知識なんてほとんどない、そんな私だけど、流石にこれはなんか違うって思った。


 それに、なんかよくわかんない生き物がチラホラ見えたし、トドメとなる決定打はずっとスルーしてたけど頭に直接響いた変な声だ。

 とりあえず、天の声さん(仮)ってことにしよう。


 で、スキルポイント?

 視覚Lv.1

 なんじゃそりゃ。ゲームやってんじゃないんだよ!

 はぁ、まったくもう。

 ゲームと現実リアルの区別ははっきりさせとかないとダメって学校で習わなかったの?

 やれやれ、困った天の声さん(仮)だなぁ。

 私のゲーム脳を刺激しないでほしいよね、興奮してきちゃうじゃん。


 てっことで、ここからは私の予測なんだけど、これはいわゆる転生あれもしくは転移あれなんじゃないのかなって思ってるんだよ。


 まぁ、死んだ記憶もないし、夢を見ているだけって可能性もあるけど、それならそれでもいいかなって思ってる。

 これ以上、テンパったって悩んだって仕方ないし、すでに私はそういうものだと割り切っている。

 結局は何事も楽しんだもの勝ちなんだよ!

 ま、自分が何者かは分かんないけどね、テヘペロ☆






 さてと、そろそろ着陸かな。


 私は私の意思で動くことができない。

 全ては風の赴くまま、身を預けて私は降り立った――亀の甲羅の上に。

 ぼやけた視界じゃ、なんとなくのシルエットしかわかんないけど、周りの木々と比べると、体高1メートルくらい?

 亀にしては、でかい、のかな?




《告:発芽の条件を満たしました。根付けを開始いたします》




 ……え?

 発芽? ん、どゆこと?

 また、天の声さん(仮)が喋ってきたんだけど、これは、一体……。


 私の体? から生えている綿毛のようなものが動き出した――というよりは動かせるようになったって方が正しい。

 亀の甲羅にある小さな傷や、隙間に潜り込むように伸びる綿毛。


 これが根付くってことなんだろうか?

 根付くってなんか、植物みたいだな。

 綿毛もたんぽぽの種そっくりだし。


 いや、みたいいじゃなくて植物そのものなのかな?

 私の中のシャーロックが囁いているようだ。

 ……うん、やっぱりよく分かんないや。


 とにかく、私は亀の甲羅に根付くことになりました。


 こっから、私はどうすれば?

 人間にもど――…戻れるのだろうか?


 情報不足過ぎるよなぁ。

 こういったファンタジーな展開では、まずは酒屋やギルドなる所に行って情報収集がお約束なんだけどー。




《告:根付けに成功致しました。レッサーリトルバグタトルへの寄生を開始しますか?》

《 YES or NO 》




 ……ん?

 き、寄生!?

 なんかヤダ。なんか嫌だよ、天の声さん(仮)。

 というか、普通に馴染んでいるけど天の声さん(仮)って何者なの?

 やっぱ気になるから教えて欲しいなー、なんて。




《……》




 応答なし、ですか。

 じゃあ、質問を変えて、レッサーリトルバグタトルって何ぞ?

 ついでに、ここがどこで私が何者なのかも教えてもらいたいんだけど。




《……》




 これも応答なし。

 質疑応答はできない感じかな?

 それとも答えることができない、とか?

 よく分かんないことだらけだ。

 これ、先に進むには寄生するしかないってこと?

 うーん、やむなしだね。

 あ、あのぉー、寄生します。YESで。




《応:レッサーリトルバグタトルへの寄生を開始いたします》

《只今、寄生率1%》

《パラスティックプラントの種はLv.1からLv.2にレベルアップしました》




 お、おう……。

 これには答えてくれるんだ。

 なんか色々言ってたけど、とりあえずこれで先に進めそうだね。

 パラスなんとか? ってやつもレベルアップしたみたいだし。

 スキルなのか、なんなのか分かんないけど、レベルアップはレベルアップだ。


 次は……目標、というか今後どうするか決めるか。


 まず、天の声さん(仮)についてだけど、会話も質疑応答もできない。

 けど、寄生率なるものが100%になったら、また天の声さん(仮)が何かアクションを起こしてくれる、と思う。

 だから、当分はこの亀には悪いけど寄生に力を注ぐ。

 ま、私も生きていかなきゃいけないし、ね?

 悪く思わないで!


 そして、この世界のことと、自分がどういった存在になっているのかとかを知りたい。

 あと、視界がずっとぼやけているのは不便だから、その辺も何とかしたいんだよなぁ。

 スキル【視覚】のLv.を上げれば、私の視力はよくなるかな……。



 

 しばらくすると、宿主の亀が歩き出した。

 しっかりと根付いているおかげで、振り落とされることなく私は甲羅に張り付いたまま、着地したその場から移動をはじめた。

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