04 人から逃げ出しました
さてと。
森さんは使えないから、自分で安全地帯を探さなきゃいけないな。
気を引き締めて行かなきゃ!
ま、だからって、無闇に森の中を歩き回るつもりはさらさらない。
いつ天敵と遭遇するかも分からないしね。
そもそも私が一日で移動できる距離そのものは、そんなに広くないから杞憂だろうね。
とりあえず、湖の近辺を散策して程よい場所があったらそこに移動しようかな。
多分だけど、私の植物の体にとって水ってかなり重要な要素だと思うから。
いやぁ、それにしてもここは森っていうよりはジャングルって感じだね。
寄生する前、まだ空を漂っていた時はぼんやりとした視界だけど見渡す限りずっと”木”だったし。
あの時、村か街か何か人工物が一つでも見つかっていたなら、私は進むべき方向を得ることができたのに。
寄生してから、私は広い範囲ではないけどいろんなところを見て回った。
下は今私が歩いている獣道。
上は木々の葉っぱと綺麗な青空。
右は木、左も木。
前は——…
私の思考が一瞬止まった。
そこには三人組の人間が口を開け、驚きと慄きの合わさったような顔で私の方を見ていたのだ。
いやいやいや、その表情は私側の顔だろ!
ここがどこだか知らんのか!?
人工物ひとつない密林、人間なんているわけがない。
いたとしても、ここから数十キロ先の森の隅っこだろうなとか、そんなことを思っていた矢先だったんだぞ!
この世界に来て初めて見る人間は、スーツ姿でもお洒落な服でもなかった。
一人は剣士スタイルな男、もう一人は斥候かな。盗賊みたいな身軽な格好をしている男だ。
そしてもう一人、それなりにお洒落には気を使っているのか可愛らしい赤色のローブを羽織っているが、しっかりと杖を装備している女だ。
魔法使い? 魔法少……魔女だな、うん。
少女ではない。
私の中で魔法少女って名乗ることを許されているのは、14歳以下の美少女で
それは譲れない問題、決して曲げられぬ——って、それどころじゃなかった!
あろうことか三人の武器は私の方を向いている。
見て見ぬ振りしてくれないかな。
というか、私から襲わなかったらそのまま見逃したりしない?
そもそも、私植物だよ?
まだ発芽したばっかの、ベビーだよ?
そんなのに剣向ける、普通?
「axi!lfo4m$;v&%l,b a16」
何言ってんのか全く分からん。
けど、敵対的なのはわかった。
あわよくば、この人たちについて行って人のいるところに行きたかったけど、無理そうかな?
一応、コンタクト取ってみるか。
「ガ……ガウ……」
いや、ガウってなんだよ!
三人組の人間さんめっちゃビビってんじゃん。
そもそも、私植物。
声帯なんて持ってないわけよ。
じゃあ、宿主の亀のやつを借りるしか無いじゃん?
その結果がこれじゃあ、喋りかけないほうがよかったやん?
あ、あの……さ。見なかったことにしない?
私はできるだけ穏やかに、敵意を感じさせないような優しい笑みを宿主の亀の顔で作りながら一歩だけ歩み寄った。
しかし——
「apo2o$idm#od!!」
三人組は思いっきり攻撃し始めた。
初撃は魔女の火の玉の攻撃が、私目掛けて弧を描くように飛来してきた。
こんなところで火を放つとか、頭の中お花畑ピーナッツか!
私は慌てて躱すが、そこに剣士の男がすかさず一撃振り下ろしてきた。
私は宿主の頭と手足を甲羅の中へとできる限り引っ込める。
慌てて躱してすぐのことだった、頭の回転が回らなかった。
私の宿主には尻尾があることに。
そして剣士の攻撃は甲羅に弾かれ、滑るように宿主の尻尾を切り落としたのだ。
《告:レッサーリトルバグタトルの尻尾の欠損を確認いたしました》
《現在、宿主の欠損率8%です》
いや、私尻尾生えた経験とかないし!
これは仕方ないじゃん!
元人間が、尻尾に気遣ってとか無理だから!
そもそも、私の本体は甲羅の上に寄生している植物やし。
ってか、報告は今じゃなくてもいいじゃない?
森さん、状況分からないかな?
今、私窮地に立たされているんだけど!?
絶体絶命なんだけど!?
《解:是》
そんだけ!?
なんか案はないのか!
くぅ……。
私は攻撃を放ってきた二人を睨みつけた。
盗賊風の斥候の姿が見えなくなってる。
理由は分かんないけど、今は、今なら1対2か。
それでも数的不利な状況は変わらない。
だったら今は逃げるが勝ち!
私は脱兎の如く宿主の亀を走らせた。
このままじゃ、私はあの人間に殺される。
こんなところでくたばってたまるか! 死んでたまるか!
撤退だ、戦力的撤退!
※
私は尻尾巻いて逃げてきた。……尻尾切られたけど。
私は尻に帆を掛けた。……尻尾切られたけど。
と、とにかく! 私はかなりの距離を走って逃げ延びた。
幸いなことに、ここまで人間たちは私を追っては来なかった。
初めから斥候は見えなかったし、剣士も魔女も追撃してきたものの、気付いたら追っかけてきてなかったし。
運が良かっただけかもだけど、とにかくよかった。
これで命拾いした。
ふぅ〜。
……
…………
………………で、ここどこ(´ཀ`*)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます