17  逃げ場はない

 平日の昼間からゴロゴロォゴロゴロ。

 あーあ、今の私の姿を見てスティーヴン・スピル○ーグ監督が直々にスカウトに来ないかな。




《……》 



 

 何も言われないのは、一番辛いです森さん。

 自分で説明するのもアレだけどさ、今の私ってE.T.みたいなもんじゃない?

 違う?

 いや、うん、違うな。 

 ファンの人に怒られるな。

 訂正! やめておきます。


 それにしても、今日はやけに罠に引っかかっている蟻が多くない?




《応:是》




 だよね。

 今日も私は日課の生き埋め作業をしていた。

 あ、ゴロゴロしてないよ? 私は勤勉勤労だからね!

 ちょっと休憩してただけ。


 さて、話を戻して、もうかれこれ蟻を埋め始めて4匹目だ。

 というか、いつもいるネズミの姿も痕跡もないんだよ。

 蟻ばっか。


 美味しくないんだけどな。

 全部不味いけど、不味いなりに今まで食べたご飯ランキングを付けるとワースト2位が今埋めている蟻である。

 硬い、酸っぱい、身が無い、キモい。

 はっきり言って食えたもんではない。

 ちなみに栄えある堂々のワースト第1位は猿もどきです。

 それもぶっちぎりでね。


 私はギシギシと鳴き続ける最後の蟻に土を被せた。


 ふぅ。

 拠点から一番離れた位置の罠の確認終了。

 とりあえずこれで今日の分の生き埋め作業は終わりかな。




《告:熟練度が一定に達した為スキル【暗視Lv.3】から【暗視Lv.4】へとレベルアップしました》




 うぽっ!?

 暗視のレベル上がったーっ!

 やった!

 いや、実に吉報だね。

 今日は不味い蟻ばっかだけど、食糧の確保もできて暗視のスキルもレベルアップ。

 幸先がいいわー。

 これで、もっと周囲を見れ、て……警戒……で……。


 私は暗闇の中で突然見える範囲が広がったことによって、見たくないものを見てしまい絶句した。

 目の前には軽く10匹を越え、更に増え続けている巨大蟻の大群がギシギシと顎を動かし鳴きながら蠢いていたのだ。


 蟻達はギシギシと鳴きながら、触覚を合わせたり、地面をちょいちょい突いたりと何かをしているが、その行動の意味は植物の私には理解できていない。


 というか、何匹かが連携して私が埋めたはずの蟻を掘り起こして助けてる気がする。

 気のせい?




《解:否》




 だよね。

 気のせいなわけないわな。

 そこまで私だって馬鹿ではない。

 今、救出された蟻が私の目の前にいるんだもん。


 え、何、これ。

 どう言う状況?

 私、復讐とかされないよね?




《告:速やかにこの場から離れることを推奨します》




 マジでか——…って、そりゃそうだわな。

 言われるまでもなく、私は退散を選択肢に入れてるよ。

 マズイとは言え大事な食料が奪われているけど、それでも流石にこの数を相手にできんし。

 私はただでさえ戦闘力皆無なのに、その上宿主をなくした私本来の足は極端に遅いのだ。

 後手に回れば必敗が待っている。


 でも、原因が知りたいんだよね。

 昨日まではなんともなかったのに、なんで今日になって突然こんなことになっているの?




《解:不明です》




 ですよね。

 ここは大人しく森さんの言うことを聞いておこう。


 不幸中の幸いと言えるのは、蟻達はまだ私のことを見つけていないことだ。

 このことから、今の私よりも蟻の視力の方が弱い。

 力も数も全てにおいて負け越している私にとって、唯一のアドバンテージだ。

 これを活かす以外に、生存は保証できない。


 私は急いでホームへと帰還し、甲羅の中へと体を隠した。

 狙いが私であれば、今すぐとはいかなくても何らかの方法で直にこの場所も見つかってしまう。

 落とし穴は幸いにも機能している。

 このまま身を隠しながらやり過ごす方向でいけば……。

 

 ギシギシ、ギシシッ。

 

 ……

 …………

 ………………あ゛あ゛ぁーー。




《告:速やかにこの場から離れることを推奨します》



 

 あ゛あ゛ぁぁーーーー。

 私は不幸だ。

 何が幸先いいだ!

 凶日以外の何物でもないじゃないか!

 大凶だっ!


 私の拠点となっていた空間へと続く通路、計四つ。

 その全箇所から蟻の鳴き声が聞こえてきたのだ。

 拠点で一息つこうと腰を下ろしたその瞬間に。


 クソ、どうしろってんだ!

 あの、生死をかけたネズミ戦とは状況が違うんだぞ。

 衰弱しきっている獲物を、自分の落とし穴フィールドで一対一で戦ったから、ギリギリ勝てたんだよ?

 何やら目が赤く光ってる明らかに上位個体っぽい奴もいるし。

 数も状態も、何もかもが詰み。

 打つて無しとはこのことだ。


 辞世の句を詠む気なんかはないけど、どうすりゃいいんだ。

 戦っても勝機は——…




《解:マスターが戦闘に行動を移した場合、必敗が約束されてます》




 だよね。

 1%でも勝機はない?




《解:ありません》



 これは卑怯な聞き方かもだけど、私が死んだら、森さんだっていなくなっちゃうんだよ?




《応:仰っている意味が理解できません》




 そらそうか。

 情に訴えようが、森さんはスキルだし。

 死の概念とかなさそうだし。


 そうこうしているうちに、蟻達の鳴き声や複数の足音が近づいてくる。


 ここから逃げ出す算段とか、私が生き延びる案はある?

 なんでもいいから、些細なことでも、何か。




《解:不明です》




 そりゃないよ!

 どうする、どうする、どうする。

 戦えば必敗、失敗は死を意味する。


 私には何がある? 何ができる?

 ホームとして使っている元宿主のこの甲羅。

 能力は”目”だけなら勝っている。

 スキルは……っ!?

 寄生、寄生だよ!

 私には寄生能力があるじゃん!

 蟻に寄生すれば——




《解:蟻への寄生ではマスターの目的を達成できません》




 な、なんで!?

 寄生なんて本当はしたくないけど、すれば生き延びれるじゃん!

 しのごの言ってられないよ。

 どうせ蟻達は私に仲間達への復讐、敵の排除をしにきたんでしょ?

 だったら。




《解:寄生率は瞬時に上がりません》




 ガハッ。

 寄生率、確かにそんな物あったな。

 もう、死ぬしかないの?




《解:不明です》



 わかったよ。  

 ……だったら、せめて、せめて。


 私は覚悟を決めた。


 称号を獲得したくらいだ、私は外道なんだろ。

 なら、一匹でも多く道連れにして、地獄へと落としてやる。

 手段は選ばん。

 相手が引くくらい、ムゴく残酷に殺してやる。

 運が良ければ相手の戦意を削げれるかもだし。


 蟻は私の胸中とはお構いなしにジワジワとこちらへと近づいてきている。


 その時だった、私の中での初めての感覚。

 自分と何かとの繋がりが一つ潰えるという、不思議な感覚が私の身に起こった。

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