16  油断

 人を小馬鹿にするような称号を得てからしばらくが経過した。

 その間、私はマイホーム周辺の探索兼水場探しと罠の増築を進めていた。

 案の定水場は未だに見つかってはいないけど。


 それでも穴の数を増やしたことで、良い事もあった。

 というか、有益な事しか起こっていない。


 まず、スキル【株分け】の抜け道を見つけたのだ。

 本来、株分けとは私の生命力を削って行う物だ。

 一応私はスキル【生命吸収】のおかげで、HPの回復はできるようになったけど、それでも株分けは燃費が悪い、そう思っていた。


 だが違った。

 以前に罠を隠す為だけに株分けをして、それによって生まれたのがミギー。

 私の元右腕ちゃんだ。

 そのミギーを株分けしたらどうなんだろう?

 私がスキルで遊ん……、修練に励んでいた時そんな考えが過ぎった。


 それで試してみたら、あらびっくり。

 本体の私は無ダメージで増殖できるではありませんか!

 残念ながら、株分けした私の分体は生命力を削るけど。


 株分けされた分体は使用者の前形態で成長する。

 よって、分体は皆パラスティックプラントの種で発芽前状態となる。

 種を罠のそばに植え、発芽状態になってからまた株分けをする。

 分体の分体の分体の——…

 これを繰り返す。


 発芽するまで待たないといけないのと、後の個体になればなるほど生命力は低く弱体化していくデメリットはあるけど、彼らの役目は穴を隠すだけだから大した問題でもない。

 この発見によって私が掘った数多の罠は全て隠され、完璧な落とし穴として生まれ変わった。


 そして落とし穴としての機能が上昇したからか、罠に引っかかる魔物の種類も増えた。

 今まではネズミが主体で、他にはトカゲを一度だけだった。

 しかし、穴の数を増やしてからは巨大な蟻3匹や猿のような形をした珍獣1匹と得られる魔物の種類が増えた。


 巨大な蟻は罠にかかっていない個体を観察する限り、常に数匹の群れをなして行動している。

 あと、アゴが大きくて怖い。

 弱ってからも、常にギシギシ鳴いていたし。

 噛まれたら、多分一発アウトだろう。

 味は酸っぱくて苦くて硬くて、とにかくマズかった。


 猿みたいな珍獣は、顔も皮膚も白色でウーパールーパーみたいに可愛らしいのに体を形取っているのが猿で、これじゃない感が否めない、そんな魔物だった。

 こっちも味は不味い。

 まず皮がブヨブヨで弾力ありすぎて噛み切れないし、腐った牛乳みたいな匂いもするし。


 豪華なご飯じゃなくていい。

 普通のおにぎりでいい、ポテチで、カップ麺でいい。

 私はコンビニ飯が恋しいよ。


 そして、私はつい最近やり方を覚えた生命吸収を使う為に、生き埋めで瀕死にしてから残り僅かなHP吸収している。

 おかげで今や体力マックス。


 事後報告だけど、【株分け】はLv.1からLv.2へ。

 【身体操作】はLv.3からLv.4。

 【穴掘り】はLv.5へ。

 【生命吸収】はLv.3になりました。

 そして、生命吸収で直接獲物を仕留めるようになったからか、私自信のレベルも3に上がったのだ。


 マズ飯に目を瞑れば何事もなく、至って順調。

 日課をするだけでご飯は得られるし、スキルや私のレベルもたまに上がる。

 安全な寝床もある。

 なんだかんだ言っても、私は幸せなのかもしれない。


 自覚はあるけど、私には社交性が欠如している。

 もし、異世界で人間に転生なんかしていたら、私は多分死んでいただろう。

 人と話せない……、話さない。

 他人に対して無関心。

 仕事? 何それ美味しいの?

 お金がないと生きていけない人間よりは、不味くてもご飯が得られて、天敵ばかりでも誰にも何も言われない今のこの状況の方が気楽で、私にあっている。


 何度も言うが、ご飯は確かに前世の方が圧倒的に良い。

 でも、それだけなのだ。

 こっちにはネットもゲームも漫画もないけど、別に発作が起きるほど欲してはいない。

 それ以上にこっちの世界では、日々驚きと興奮に満ちている。

 クサいセリフだけど灰色の世界に色づいた、そんな感じだ。

 多分だけど前世の地球にいた頃の私よりも、今の私の方が生き生きしているだろう。


 あ、そうか。

 私は人間に生まれてしまったことが人生最大の失敗だったのか。

 過酷な環境であっても——…


 フッ。


 悟りを開くってこんな感じなのか。

 一歩どころか、十歩二十歩大人の階段を登った気分だ。

 ね、森さん?




《応:言ってる意味が理解できません》




 そればっかりだな!

 ま、いいか。

 なんたって私は天上天下唯我独尊だからね!


 ……意味知らないけど。




 この時の私は油断しきっていた。

 大自然で生存競争を繰り広げている最中に油断をしてしまった。

 そのツケが今牙を私に向けていることに、気づくのが遅れてしまったのだ。

 そして、絶体絶命へと陥れられることになるなんて、今の私は想像もしていないだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る