15  初めての称号

 私の最近の一日の予定。

 起きたらまず穴の確認をした後に、整備と補強。

 獲物が引っかかっていたら、そのまま生き埋めにする。

 穴の点検が終わったら、甲羅へと戻って魔法の研究やスキルの熟練度を上げる。

 お腹が空いたら、生き埋めにしておいた獲物を食べたり、酸欠で弱体化した獲物に【生命吸収】を使ってから食べたりしている。

 そして疲れたらすぐ寝る。


 まぁ、それなりに早寝早起きなんじゃないかな。

 それが今の植物になった私の生活習慣である。


 そんな生活を続けていたある朝のこと。

 私はいつも通り穴にかかった獲物を生き埋めにしていると、突然森さんからの機械音声が聞こえてきた。




《告:条件を満たした為、称号【無慈悲者ムジヒナモノ】を獲得しました》

《称号【無慈悲者ムジヒナモノ】の効果により、Ex.スキル【外道Lv.1】スキル【精神汚染耐性Lv.1】を獲得しました》

《条件を満たした為、称号【日陰者ヒカゲモノ】を獲得しました》

《称号【日陰者ヒカゲモノ】の効果により、Ex.スキル【陰合成Lv.1】スキル【影操作Lv.1】を獲得しました》




 ……は?


 えっ、は、え、何?

 しょ、称号?

 あー…………。


 人は誰しも、予想だにしないことが起こると思考が止まる。

 なぜなら、思考を止めれば現実に向き合わなくて済むから。


 私も例外ではない。

 私はその後、何も聞かなかったかのように獲物のかかった穴に土を落とした。


 ギョエと埋める瞬間聞こえてきたけど、これは空耳だ。

 だって、私が無慈悲なワケないもん。

 思いやりの塊だよ?

 命を労って、生きるためには仕方なく、けれどもありがたーく命を頂戴しているこの私が無慈悲?


 それに何、日陰者って?

 馬鹿にしてんのか?




《応:馬鹿にした覚えはございません》




 フッ。

 よろしい、ならば戦争だ!




《応:言ってる意味が理解できません》




 じゃあどう言うことだよ!

 なんだよ、何が言いたいんだ!

 称号ってもっと、勇者とか賢者とか聖者とか王道のがあるじゃん!

 なんだよ日陰者って!

 私は決して陽側の人間ではない、それは自覚している!

 けどな、他人に言われるとムカつくんだぞ!

 それに無慈悲じゃないっ!




《応:言ってる意味が理解できません》




 ……。

 森さんに怒ってもしょうがない気がする。

 今更だけど。


 急に頭が冷やされた気分だ。

 ふぅ、まず落ち着こう。


 称号、か。

 名前はどうであれ、ますますゲームみたいになってきた。


 えと、確認だけど、私のこの称号って他人からは見えないよね?

 日陰者はまぁ、百歩譲っていいとしても無慈悲な者とか思われたくないんだけど。

 第一印象って大事し……。




《解:対峙した相手との力量の差によります》




 はぁ。

 私は最弱なんだから、もし鑑定なんてされたら一発でバレるやん。

 マジですかー。

 これからは鑑定系のスキル持ってるやつと出会うたびに、”うわコイツ無慈悲な奴なんだ”とか思われるのか。


 ……そもそも魔物になっちゃったし、どんな種族であれ友好関係は結べないか。

 ボッチは慣れてるし、別にいいけど。


 スキルを作る見知らぬ誰かに、森さんからスキル名を通してディスられたけど。

 全然納得はしないけど、スキルを4つ獲得できたから、まぁ許してあげよう。


 精神汚染耐性はそのままの意味だろう。

 生き埋めにしたりする時に心が痛まなくなる感じかな。

 影操作も字面のまま。


 気になるのは、Ex.エクストラスキルの2つだ。

 Ex.エクストラってくらいだから、普通のスキルよりも強力なんだろうけどさ。


 まず【外道Lv.1】って何?

 何そのいかにも悪そうなスキル。

 どういう効果、意味があるの?




《解:不明です》




 うん、知ってた。

 それに外道これ外道これで意味分かんないけど更に分かんないのは【陰合成Lv.1】だ。

 光合成に語呂は似てるけど……。

 森さんも分からないでしょ?




《応:是》




 ほらね?

 知ってたよ。

 森さん、何も知らないもんね。




《解:否》

《ユニークスキル【森羅万象】のレベル不足です》




 否って……。

 レベル上げしていない私のせいってか?

 よろしい、ならば戦——…




《応:言ってる意味が理解できません》




 あ、はい。

 ち、ちなみによ?

 ちなみに、称号を得たときのメリットとかは知ってる?




《解:……是》




 言い渋ったよ、森さん。

 って知ってるんだ!

 教えて欲しいなー、森さん大好きー。




《応:各称号により異なりますが、ステータスが上乗せされます》

《また、称号にあったスキルの獲得》

《進化時の選択肢増加等があります》




 お?

 いらねーとか思ったけど、案外良かったかも?

 結果論だけど。


 というか、サラッと重要そうなこと言った気がする。

 私、やっぱりまだ進化できるんだ。

 しかもスキルが増えれば手数が増えて、生存確率が増える。


 これからは称号獲得についても色々考えていこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る