21 修行一戦目
「チュピィーー!」
ネズミの威嚇に私は後ずさる。
体が震えるのは、武者震いに違いない。
だって
って、私はさらに雑魚だったんだ、テヘッ。
《……》
なんだよ、なんか言いたいことがあるなら聞いてやろうじゃないか!
冗談でも言ってられないと、やってられないんだよ!
あー、どうしよどうしよどうしよどうしよどうしよどうしよ——…
まだネズミは頭を持ち上げた状態で、私を見下ろしている。
罠はない。
一瞬で掘れる程度の穴じゃ、足止めにもならない。
せめて、奇襲って形だったなら。
修行一発目からハードすぎでしょ。
私があーだこーだと思考を巡らせている最中、とうとう痺れを切らしたのかネズミの攻撃が始まった。
持ち上げる頭から私に向かって体当たり。
それを私はギリギリのところを側方へとダイブして躱す。
しかし、間髪入れずにネズミの追撃が始まった。
地面へと激突する前に上体を起こし、方向転換して再び私の方を見るネズミは口を尖らせて、唾を飛ばしてきた。
汚っ!?
それを躱すが、唾攻撃は何発も続いた。
記憶にある、ネズミは毒持ちだ。
唾を喰らうのは普通にどんな奴であろうと嫌だけど、毒持ちとなると避けるしかない。
クソッ。
何か、何かないのか?
ペッ、ペッ、ペッと続く毒唾弾。
避けきれずに喰らって、赤ゲージの減少と毒を喰らう。
しかし、攻撃は止まらない。
防戦一方。
待って、ちょっとタンマ!
ペッ、ペッ、ペッ。
待てって言ってんだろうが!
クソ。
案が欲しい、何か私に——…
か、影操作!
とっさに脳裏をよぎったスキル名を叫びながら、私は鉱石や光るキノコによってできた自分の影を触った。
——が、先端がピョコっと曲がって終わった。
クソッ!
そして、毒唾弾直撃。
ウゲェッ。
《告:熟練度が一定に達した為、スキル【毒耐性Lv.2】が【毒耐性Lv.3】へとレベルアップしました》
レベルアップは嬉しいはずなのに、素直に喜べない。
痛みはもちろんあるけど、それ以上に。
汚い。ネチョっりしてる。
初めて見る攻撃だったけど、食事の時に感じたネズミの毒よりも強かったのかな?
ん?
私は追撃が止んだネズミの方を見ると、唾が直撃したからか、攻撃をやめて私をジッと観察していた。
私が毒で死ぬの待ってんのか?
それとも、汚いとか思ってんのか?
お前の唾液じゃ、ボケ!
一応レベルアップしたとはいえ、毒のダメージが0になったわけではない。
ただ減るスピードが遅くなったにすぎない。
けど、私を殺すにはこの毒は弱い。
ただ、死んだふりをしたところを仕留めに噛まれでもしたらポックリ逝きかねない。
うん。
修行する、強くなるって言ってなんだけど。
とりあえず、逃げよう。
私はネズミから背を向けて、脱兎の如く走り始めた。
案の定、ネズミは逃してくれるはずもなく、怒りながら追いかけてきた。
《告:熟練度が一定に達した為、スキル【逃亡Lv.1】が【逃亡Lv.2】へとレベルアップしました》
やった!
私の逃げ足は若干速くなった。
が、距離は徐々に縮まる。
このままじゃジリ貧だ。
逃げる自分が嫌になった事を忘れたわけじゃない。
走りながら前後方を確認して、ネズミの攻撃がギリギリ届きそうなところを見極めて、私は横道へと逸れた。
ネズミはそれについて来れるわけもなく、一度その脇道を通り過ぎてUターンをする。
その機会を私は待っていたのだ。
レベルが低くても何でもいいから、隠密発動。
確率を上げろ。
ネズミは体が長いのが裏目に出ている、今こそが最初にして最大のチャンス!
唾液の仕返し、反逆の時間だ!
私はネズミの背に飛びついた。
首の方へと気づかれないようゆっくりよじ登り、そして噛み付いた。
点だった口が裂けたが、気にせずに私は大口開いて噛み付いた。
その瞬間、ネズミは私が首にいることに気づいたのか、暴れだす。
が、手足も牙も首には届かないんだよ。
ざまぁみろ、害獣!
私は噛み付きながら、血肉をすすった。
生命吸収の効果で、赤ゲージが上昇していく。
それと同時に黄色ゲージも回復する。
だがやめない。
私が勝つには、このままネズミの生命を吸収して絶命させなくてはいけないのだ。
ドンッ。
暴れるネズミは、壁面に私ごと首をぶつけ始めた。
グハッ。
イッた……。
ふざけるな、お前が挑まなかったらこんなことにはなんなかったんだぞ!
私がただの雑魚にでも見えたのか?
だったら威嚇した段階で逃げるべきだったな!
チャンスをあげたってのに!
私はさらに深く噛み付いた。
皮を毟り、肉を喰らい、血を啜る。
ネズミは叫び、再び壁へと体当たりするがもう遅い。
私は喰らうダメージ以上にネズミから生命力を吸収した。
チェックメイトだ!
悔い改めろ、雑魚以下の雑魚が。
「チュギイイィィッ……」
生命吸収で赤ゲージが8割ほど回復した段階で、ネズミの息は途絶えた。
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