27  vs蟻——②

《告:熟練度が一定に達した為、スキル【視覚Lv.4】が【視覚Lv.5】へとレベルアップしました》

《同時に派生スキル【遠視Lv.1】を獲得しました》

《熟練度が一定に達した為、スキル【隠密Lv.2】が【隠密Lv.3】へとレベルアップしました》

《熟練度が一定に達した為、スキル【気配察知Lv.1】が【気配察知Lv.2】へとレベルアップしました》




 決戦前に色々レベル上がって良かった。

 気配察知は使ってみたところ、レベル1の時よりかは範囲が広がったけど、見た方が早いし情報量も多いからまだ使えないまんま。

 強いていうなら、半径3メートルくらいなら見えなくても分かるってとこくらい。


 それに比べて、隠密は現在進行形で役に立ってくれている。

 私の目の前には小規模なアリの群れが外側の堀からよじ登り内側の堀へと足を踏み入れていた。

 そんなアリ達を、足を捥いでおいた質の影から覗き見している。


 アリは壁をよじ登れるみたいだけど、返しのある堀には苦戦を強いられているみたい。

 まぁ、そう簡単に登ってこられていたら、護身用の罠として不合格だしね。

 この内側の堀を突破した者だけが、私との戦闘の権利を得られる。

 今のペースなら常に一対一で勝負できそう!


 私は内側の堀を突破しそうになるアリの頭を、石化した右手で殴打した。


 突き刺して抜けなくなって、堀に引きずり込まれるってオチになるのはごめんだし、鈍器で殴ればいくら硬い外骨格持ちでも無ダメージとはいかないだろう。

 長期戦を見込んだ私は、頭脳戦でまず一勝したってところかな。


 ホイッ。


 足をかけ頭を地上に出すアリを殴る私。

 ギシィと鳴き落ちるアリ。


 行ける。

 これは行ける。


 アリの数は徐々に増えてはいるものの、堀に苦戦しているし、それを抜けたとしてもヒット&アウェイの一撃離脱の私を前に堀へと叩き落とされる。

 主導権を握っていれさえすれば、この経験値稼ぎは成功する。

 そろそろ、前線組は心身共に弱ってくるはずだし、数を減らすかな。


 私は気を引き締めた。


 次に上がってくるアリは敢えて叩き落とさない。

 案の定、アリは仲間思いからか足のない人質へとまっしぐら。

 そこで、くノ一見習いの私登場である。

 おなじみの戦法で背後へ回り、腹部に右手を突き刺す。

 鳴き声が大きくなり、振り向くアリの巨大な顎の片側を石化した右足で蹴り飛ばして砕く。

 顎の使えないアリは脅威でも何でもない。

 私は生命吸収を使って、そのアリを仕留めた。




《告:アーミーアントの生命活動の停止を確認しました》




 よし、順調!

 再びもぐらたたき開始だ!

 あ、そういえば森さんはなんで魔物の名前を聞くと大雑把に”鼠”だの”蜥蜴”だのとしか教えてくれないのに、生命吸収で仕留めた時だけ名前で言うの?




《解:生命の吸収をする際に、僅かながらも個体の情報も吸収している為かと思われます》




 ふ、ふーん。

 じゃあ、私の目の前に居るのは何?




《解:蟻です》




 なんでやねん!

 アーミーアントちゃうんかい!




《解:不明です》




 また似非関西弁っぽくなっちゃったじゃないか。

 チッ。

 切羽詰まった状況じゃなかったら問い詰めていた所を。

 命拾いしたな、森さん——っと。


 私はアリの頭を強めに叩いた。

 それは別に憂さ晴らしがしたいとか、そんな理由ではない。

 ……うん、だって順調やし。




《告:マスターのキャパシティーの限度と蟻の増加率の計算結果、残り十分で限界がきます》

《その為、この場からの離脱をするための行動を推奨致します》




 ……えっ。

 なに、その今までにない反応は!?

 なんだか嬉しいな、子供の成長ってこういう——…えっ?

 10分? 離脱?

 嘘でしょ!?


 ソォイッ!

 私はアリを叩き落とした。


 アリの増加率って……。

 確かに徐々に増えてはいるけど、そんな近々で限界が来るとか。


 なら、方針転換するまでだよ!

 今までは長期戦を見込んで弱らせるためにほぼ全てを叩き落としていたけど、3回に1回くらいは間引きをしていこう。

 ということで、一匹目の犠牲者は君でーす。


 私は這い上がってきたアリの胸部と腹部の間に、石化手刀チョップを全力で叩き込むのと同時に、生命吸収のために噛み付いた。




《告:アーミーアントの生命活動の停止を確認しました》

《プチマンドランはLv.5からLv.6へとレベルアップしました》




 キター!

 レベルアーップ!

 この経験値稼ぎはやっぱり成功している。

 でも、慢心はしない。

 タイムリミットは10分、その短い間にどれだけの経験値を獲得できるかが肝になる。


 ……抵抗あるけど、さっきのアリで赤ゲージはかなり回復したし。

 やるか、自分の中で禁じ手だったスキル。寄生を。


 寄生率が低くても、私がピンチになったら盾くらいの役目は果たしてくれるかもだし。

 現に亀の時そうだったし。

 それに運が良ければ手数だって増えるかも。


 私は石化していない左手を摩る。

 直後、私は森さんの言葉が降ってきた。

 それはタイムリミットの事なんかではなく、もっと重要な方。




『離脱をするための行動を推奨致します』




 森さんはそう言った。

 離脱するための行動、と。

 私は周囲を見渡す。

 私を中心に囲う、二重の堀。

 堀の中も外周もアリだらけ。

 逃げ道?

 ナニソレオイシイノ?


 ……


 …………


 ………………あああああぁぁぁぁっ!?


 私は絶望と共に心の中で奇声を上げた。

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