26 vs蟻——①
今日の私は目覚めが悪い。
何故かって?
なんで、また、お前たちの顔を見なくちゃいけないんだ! ってことだ。
昨晩護衛用に掘っておいた二重の堀の外側と内側に計3匹のアリが引っかかっていた。
私を家から追い出した、あの憎っきアリが。
……な、何しにきやがったんだ、このヤロー。
ま、まだ私を追っていたのか、コラ。
完全にトラウマになってるわ。
だが、修行を始めてからそんなにまだ時は経過していないけど、ここで会ったが100年目。
雑魚を脱した私の錆にしてくれるわ。
私は内側の堀にいるアリに土を被せ、生き埋めにした。
案の定、埋められる瞬間に大きな顎で歯軋りさせるようなギシギシという鳴き声が聞こえてきたけど、情けは無い。
逃げ道も作らない。
落とし穴と違って、生き埋めは土を被せる範囲を広くて大変だけどそれでも、リベンジマッチだ。
アリは必死になって覆い被さる土から逃げるように頭を出すが、半身が埋まり身動きが鈍ったアリの脳天目掛けて私が飛び降り狭間に右手で一突き。
硬い外骨格も、石化した右手の前には無意味なのだ。
ギヂィーーー……。
死して償え、その業を。
よし次っ!
私は仕留めたアリを放置して、外周の堀に落ちるアリとの戦闘に移った。
こっちは二匹いるから、生き埋めは得策じゃない。
どうにかして一対一の形に持ち込む。
まずは足止めも兼ねて——
私は再び堀へと飛び込み、着地と同時に一匹のアリの腹部に右手を突き刺した。
ギシイッ!
足止めは貴様一匹だけだ。
目の前で同族が殺されていくのを見ているがいい!
ギシギシ。
あ、こういうのが外道スキルのレベル上げになっていたりして。
まぁ、いいか。
手負いのアリは本来の素早さを失っている。
だからこそ、目の前にいるアリと集中して戦闘できるのだ。
修行の成果、見せたるわ!
ギシギシと鳴き続けるアリを背に、私は目の前のアリに向かって駆け出した。
近づけば近づくほど視線が大きく強靭な顎へと下がる。
だが考えなしに突っ込んでるわけじゃないのだ!
間合いを見切り、ジャンプして私の下を潜るアリの脳天から再び一突き。
脳内シミュレーションは完璧だ。
ギシギシッ。
ここだっ!
私は高々にジャンプした。
そしてそのままアリの頭突きを全身で食らって吹き飛ばされた。
グエッ……。
堀の壁面へと激突する私。
な、何が起きたんだ。
《解:マスターの跳躍の高度が低かった為、勢い余った蟻とぶつかりました》
な、何それ!?
超アホじゃん。
自分の運動能力を過信しすぎた。
私の視線の先では、吹き飛ばした私よりも手負いの鳴き続けるアリを保護しようとするアリの姿があった。
随分と仲間思いだな。
ん?
これは……。
いや、あくまでも仮説なんだけどさ、あの歯軋り音のような鳴き声って仲間を呼ぶ効果的なものとかない?
《解:可能性はあります》
……やっぱりか。
だからホームを襲われた時も、そして今も、アリが手負いの仲間の元へと駆け寄っていたのか。
そういえば、すぐに仕留めなかったからかなり鳴かれた気が。
また集まってきたりするかな?
《解:可能性はあります》
やっぱり!
だ、だったら、その能力を逆手に取って利用するまで。
私のレベル上げに貢献させればいい。
常に一匹を瀕死の状態にさせておいて、鳴かせて、集まったアリ共を私の経験値に。
かなり惨いかもだけど、やる価値はある。
勿論危険が伴うけど、私には石化した右手もあるし。
というか、そんなことよりももう
お前達が仲間を失うよりも、私がミギー達とホームを失ったことの方が辛いに決まっているんだから……多分。
赤ゲージはさっきの衝撃で半分まで減っている。
ならやることは決まっている。
手負いのアリを咥えて運ぶ私を吹き飛ばした方のアリに私は隠密を使って背後へと回り込み、どてっぱらに風穴を開けた。
これで手元には死んだアリが一匹、手負いのアリが二匹となった。
もう何だっていい、不名誉な称号を得ようが、外道だろうが非道だろうが何だっていい。
私は私のやり方で生き抜くんだから!
手負いの内一匹に噛み付き【生命吸収Lv.3】を使い、赤ゲージ回復。
残り一匹は6本の足を気をつけながら全部もぎ取り、堀の外へと引きずり上げる。
そして私が寝ていた中心地に放置。
足を捥がれ、胴体に穴の開いたアリはギシギシと鳴き続けている。
これですぐに他のアリ達が集まってくる、はず!
蟻ホイホイの経験値トラップ完成である。
その間に、先に仕留めておいたアリを食べて黄色ゲージもわずかにでも回復させる。
生き埋めにした分の土をどかして、二重構造の堀を再設置。
準備万端だ。
どっからでもかかってこい!
ミギー達の仇、今ここで取ってやる!
ここに短いようで長い、私にとって初の長期戦が始まる。
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