47  再確認したこと

 私はハエの処理をしている阿吽の二人を呼び寄せ、私の前で正座させた。


 反省させるために正座をさせたというよりは、主従関係を明らかにする為に指示した感じだ。

 元々は私だったわけだし、いつフラーっとどっか行くか分からないし、というか私に反抗してくるかもしれないし。

 私の遺伝子が組み込まれているならあり得ない話ではないからね。

 分からないことだらけなら、ここでしっかりと主従関係を明らかにしたかった。


 私は正座して私を見上げる阿吽の2本を見下ろす。


 というかこれは、あれだな。ペットだ。

 ペットの、犬の躾とたいして変わらないわ。

 さて、どうやって躾……もとい教育をしていこうか。


 植物なら栄養のある土に埋まって、たっぷりの水とたっぷりの日光を浴びれば成長はする。

 素人の知識だけど、その辺は共通認識だろう。


 でも、それじゃあ強くはなれない。

 今回のような戦いを繰り返していかないと。

 私たちはただ生きていくんじゃなくて、快適に安全に生きていくことを目指している。


 なら、最低限自分の身は自分で守れないと。

 この樹海を植物の楽園にしないと、安全には暮らせない。


 あ、そういえば罠張ってたの忘れてたわ。

 とりあえず罠の確認をしてから今後の課題を決めていくか。

 食と住の提案は二の次だわ。


(えー、まず反省会の前に罠の確認に行くよ。いいね?)

((゜-゜*)(。。*))


 よし。

 私はコクッと頷いた阿吽の2本を立たせ、先の戦い用に備えていた罠の確認に赴いた。


 一番初めは木と木の間に張り巡らせた棘のある蔦の所へ。

 罠は無事健在みたいだ。

 ただ、何匹かこの棘の餌食になったのか欠けている羽の破片みたいなものとかチラホラと落ちていた。

 そしてそれをスナック感覚で拾い食いをする阿形と吽行。


 別に止めはしない。

 食べ物を粗末にするのは罪だから。

 でも、この子は私の分身で、側から見たら今までの私はこんなふうに見えていたのかなと思っただけ。

 少し引いただけだ。

 いずれにせよ、1本目の罠はハズレだった。


 次に見にいったのは、お馴染みの落とし穴だ。


 穴を塞ぐために用いた種は、阿吽の2本が株分けした個体。

 私が阿吽を使って株分けするのと、阿吽達自身が株分けを実行するのとでは全然違うらしく。

 血はかろうじて繋がっているけど、冠婚葬祭くらいでしか会わない親戚みたいな感じだ。

 ……私には兄弟も従兄弟もいなかったけど。


 要するに、私の指示で動くには動くけど優先されるのは株分けした本人で、阿吽達の方が優先順位が上みたい。

 まぁ、その阿吽の2本が私を最優先って指示すればそれも上書きされるんだけどね。


 でだよ、話を戻すけど落とし穴は見事に作動していた。

 うん、していた。

 作動はしていたんだけど、ハエは飛べます。

 穴はもぬけの殻でした。

 普通に考えれば分かるよね。

 馬鹿だねぇ。

 阿保だねぇ。

 誰が指示したんだろうねぇ。


 で、最後の種類の罠が植物衆の下っ端、種達である。

 罠ではないかもだけど。


 私たちのシマの縁に植えておいた種達は、一応罠としての機能も付いている。

 後付けだけどね。

 戦い中の指示は毒根で相手にデバフを与えることだったけど、もしかしたらその毒が効きまくってその辺に転がっているかもしれないし。

 私は阿吽を連れて阿吽のペースに合わせてゆっくりとシマの外周を歩いた。


 結果、全てが不発だった。


 まぁそんな甘くはないわな。

 一応守護してくれている種達に思念共有で労いの意思を伝え歩いたけど、本来の目的は果たせなかったわけだ。


 そして私たちは最初に正座させていた場所に戻ってきた。


 あー、どうしよ。

 私が阿吽レベルの時は敵が罠にかかるのを待っていたし、無理に敵を呼ばなくてもいいのかなぁ。

 別に急いでるわけでもないし、かなりゆっくりとレベル上げになるけど。

 まぁ、初期の私に比べればなんとかなるか。


 ……


 …………


 ………………ん?


 というか、今更だけど数の暴力とか言って仲間を増やしたのに、結局それを上回る敵を誘き寄せている私は本当に阿呆なのでは?


 あれ?


 本当に私は一体何がしたいんだ?

 生き残ることこそが第一優先事項なのに、なんで自分のテリトリーにわざわざ敵を呼んでんだ?

 確かに強くはなりたいけど、何してんだ私は。


 私は再び正座する二人に向けて思念を飛ばした。


(あー、ゴホン。植物衆結成の宣言時に言ったことだけど、少し内容を変えます!)

「「……」」

(はいそこ、ザワザワしないよ!)




《告:マスターの——…》




 うるさいです。

 雰囲気作りに口を挟むのは厳禁です。




《応:……了》




 よろしい。


(で、変更内容だけど私達は植物の楽園を作るべく勢力を拡大していくと言ったけど、そこを修正します。最終的な目標は変えず、作戦をいのち大事に変更です! わかりましたか?)

(……(゜-゜)(。。))

((°▽°)?)


 どっちも分かってなさそう。

 阿形の方はなんとなく頷いて、吽形はぽげっとしている。


(いのち、いちばん、だいじ!)


 私は簡潔に分かりやすく、脳内イメージも込みで伝え、ようやく阿吽の2本は理解してくれた。

 これからは無理に敵を誘き寄せないで、罠にかかった存在でレベルアップしていこ。

 シマの周りを散歩がてら散策して、ゆっくりゆっくり力をつけていこう。


 近道せずに危険を冒さずにね。

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