48 ちゃんと食虫植物になります
安全第一が決まって次にやることを考えると、やっぱりとりあえずの目標は水場探しかなと思う。
というか、元を辿れば私が肉食になったのは水がなかったからなんだよ。
ここは樹海だし、こんだけ植物が生い茂っているなら絶対水場があるはずでしょ。
なにも完全に肉食生活から足を洗うんじゃない。
生き延びる為の手段を増やすだけだ。
水場を見つけたら、自分のシマの拡大だな。
と言っても、水場とその周辺を取り込む形で拡大だから、どのくらい大変になるかはわからないけどね。
ここまでできて、ようやく強さを求められるかな。
大前提として、私の狩りのやり方は従来の食虫植物とはちょっと違っている。
獲物を追っかけ回してかぶりついたり、大群を誘き寄せて物理で黙らしたり、落とし穴にかけて生き埋めにしたり。
こんなのは神秘的でクールな食虫植物じゃない。
彼らはもっとスマートだ。
そういう意味では、ネペンテスモルスはちゃんとしてたなぁ。
殺されかけたけど。
生物の授業で習った範囲、そんなポピュラーな存在は大きく分けて三つくらい。
まず、モウセンゴケ。
触手のような短い毛に粘性の液体を生成し、そこに止まったハエなどを絡め取るようにするタイプ。
所謂、粘液タイプ。
次にウツボカズラ。
これはネペンテスモルスの前世バージョンというか、奴が異世界バージョンというか。
要するに壺型で、そこに溜まった液体で獲物を消化して栄養源を吸収するという存在。
所謂、罠タイプ。
最後に最も有名なハエトリグサ。
フォルムもかっこいいし動きも早く見応えがある、そんな植物。
開いた葉を閉じることで相手を捕縛する。
所謂、所謂……、なんだ。
ロマンタイプ、かな?
この中のどれかに私達を当てはめて、ちゃんとした食虫植物集団へとパワーアップしよう。
ここまでできれば、種達のレベルアップも並行して自立型の阿吽のレベルアップもできるでしょう。
大雑把じゃない明確な当分の目標も決定したし、早速水場探しに行こうかな。
はい、じゃあ阿吽集合!
私は思念を飛ばし、阿吽の2本を呼び寄せた。
阿吽はヨタヨタと未だ慣れない様子で走り、そして私の前で正座をした。
そんな2本の動きを見て、私の頬が少し上がる感じがした。
最初に犬がお手をした感覚に近い、犬飼ったことないけど。
多分そんな感じ。
(阿形、そして吽行。これから君たち2本には試練を課します)
((゜-゜)(。。))
(君たちはこれから私が帰ってくるまで、この岩を殴り続けてください)
私は隣にある大岩をポンポンと叩きながら思念を飛ばした。
正直、水場探しだけなら阿吽の2本を連れていくのは足手まといだ。
なんの意味もないけど、何がトリガーでスキルを獲得するかわからないし。
とりあえずこの子達には岩を殴っててもらおう。
その間に私が水場を探してくれば、効率もいい。
隠密に動くつもりだから、どっちにしろ一人の方が動きやすいし。
《告:熟練度が一定に達した為、スキル【思念共有Lv.1】はスキル【思念共有Lv.2】へとレベルアップしました》
お、レベル上がった。
でも、もう2本は岩を殴り始めているし確認はあとでいいや。
私も水場を探さなきゃだし。
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「ボス、大変お待たせしました」
薄暗い部屋、樹海の統治者が住まう拠点のとある一室で光沢のない深い黒色の蟲師が声を発した。
両腕には鋭く光を吸い込むような光沢のない鎌を生やし、頭からは長い触覚をたらすカマキリ型の蟲師。
狂喰害蟲王が配下、外交官のマンティサイスが招集に答えていた。
「待っていましたよ」
そう答えると樹海の統治者は瞬間移動をするかの如く速度で跪くマンティサイスの横に並び立った。
「要件は分かっていますね?」
「はい。裏切り、謀反の可能性。クイーンフォルミーカに対する尋問、でよろしかったですよね?」
「……えぇ」
私の眷属、そして密偵の殺食。
最後の密偵からの情報は彼女の眷属によって私の眷属が殺された。
裏切り、謀反の可能性がなくとも無実では済まされません。
ギシギシと顎を動かしながらゆっくりと返事をする狂喰害蟲王。
「……もしかして、ボスもご一緒なさるのですか?」
「はい、行きますよ」
何か言いたそうな表情を見せるマンティサイスに対して、微動だにせず何もかもを見透かしているかのような目を向ける狂喰害蟲王。
跪いたまま顔を上げるマンティサイスに、狂喰害蟲王が顎を動かした。
「異論は認めませんよ。というか、戦力だけを見れば貴方だけでも過剰戦力な気がしますけどね」
「……御心のままに」
樹海の統治者、狂喰害蟲王の異名を持つ彼の配下であるマンティサイスは彼の配下の中でも5本の指には入る実力者だ。
冷静沈着で迅速に仕事をこなし、言葉遣いも丁寧な部類に入るマンティサイスは統治者間でのやりとり等での外交官を務めている。
しかし本性は非情でサディストな一面を持っており、相手が一番苦しむことを瞬時に思いつく能力を有している為尋問的な役割も担っていた。
そして今回の
久しぶりの仕事に対して楽しみだと思った矢先、ボスも一緒にくるとのこと。
あまり派手なことはできないことを瞬時に悟り、マンティサイスの肩が少し落ちた。
「そんなに落胆しないで下さい」
「申し訳ございません」
「私は同行しますが、あなたのやり方に口を挟むつもりはありませんよ。私が同行するのには理由があるのですから」
「理由、でございますか」
「えぇ。少し挨拶をしなくてはいけない存在がいるんです。貴方の仕事や実力を疑っているわけではありませんよ」
「もったいなきお言葉にございます」
「では、行きましょうか」
「はい」
マンティサイスは立ち上がり、狂喰害蟲王の斜め後方に付いて歩き出した。
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