49  オアシス/左手の行動②

 探索を始めてかれこれ数時間。

 部下の阿形吽行には岩を殴り続けさせる謎修行をさせ、種達には無休の偵察兼バリケードをやってもらっている中私は……。




《告:熟練度が一定に達した為、スキル【心身浄化Lv.1】を獲得しました》




 私は樹海のオアシスを満喫していた。


 コバルトブルーの透き通った湖。

 湧き水か、はたまた地下ガスなのか、所々底からプクプクと少しずつ泡が昇っている。

 湖には動物の影はなく、周囲を生い茂る樹々がぐるっと囲む地形。

 更に、バナナっぽい果実を実らせている木も見える。

 まさに秘境。


 私は世界の絶景等を見るのは好きだったが、実際に行ってみたいと思ったことがない。

 ネットで、雑誌で、テレビで、世界中の絶景を見れたし、実際行ったところで”綺麗だな”以外の感想もきっと思いつかないからだ。


 でも実際来てみたらどうだろう。

 無性に飛び込みたくなるではないか。

 暖かい気候に綺麗な景色。


 童心に帰るのは必然で、私は湖のほとりに足を浸け天を仰いでいた。

 本当なら文字通り飛び込みたいところだけど、私カナヅチだから……。

 でも、気持ちがいいからなんでもいい。


 その証拠に、ほら!

 私の体からは光の粒がチラチラと旅立っていっている。

 それに何だか体がサウナ後に入る水風呂の時に感じるちょうどいいピリピリ感もあるし。

 血の巡りが良くなるんじゃないかな? なんっつってー。

 この湖の効果なのか、大地の自然の恵的なエネルギーの影響か。

 新しく獲得したスキルの字面通り、身も心も浄化されていくみたいだ。




《告:光の粒子はスキル【心身浄化Lv.1】の効果ではありません》




 ん、じゃあ何?

 光合成でもしてるっての?

 ま、私植物だし納得できるけど。




《解:否》

《称号【日陰者ヒカゲモノ】の効果によって、現在のマスターから粒子が飛び立つ現象が起こっていると推測されます》




 んー、ん?

 称号……。

 要するにどう言うこと?

 というか、その私の称号の【日陰者ヒカゲモノ】は結局なんなの?

 どういう効果があるの?

 前に称号について教えてもらった時はそんなこと言っていなかったよね?




《解:力、そして代償。それ故の現象と推測しました》




 いや、わからんて。

 だからそれが何ってことなんだけど?




《応:不明です》




 ……。

 力に代償はつきものってこと?

 だからどうしろと?

 日陰にいろってか?

 ずっと、死ぬまで?

 称号はスキルと違って直接的に効果を持つものはなかったはずだけど?

 称号【日陰者ヒカゲモノ】の詳細をもう一度教えてよ。




《応:【日陰者ヒカゲモノ】》

《陽の気や明るさを不要とする存在》

《影を操り支配し得る可能性がある者に送られる称号です》




 いや、やっぱりさっぱりわからんけど?

 植物にとって必要な陽の光が要らなくて、私が大根みたいに真っ白になった。

 それがこの称号の効果だと思っていたけど、違うってことか。


 というか、最後の文の影を操るってやつ、今となっては半信半疑だよ。

 全然スキルレベル上がらないし、使えないし。


 私は湖から足を抜き、側に生えているバナナの木へと移動した。

 実っているのは見慣れた黄色のバナナというよりは、緑と茶色が入り混じっていて店で見るものの3分の1程度の長さしかない。

 私は休憩がてら手近な所にあるバナナを捥ぎとった。


 その直後、ハッと思いとどまったかのようにバナナが私の手からスルッと抜け落ちた。

 蘇るはネペンテスモルスとの戦いの記憶。

 植物を食う植物に天誅とかほざいていた大根がいたな——と。


「ア゛、エ゛、ア゛……」


 もう、捥いでしまったんだが。

 というか、さっき湖の水飲んだし別にお腹すいてないんだが。

 やってはいけない事はしちゃった気がするんだが!?


 私はすぐさまバナナの木の下に穴を掘り、そしてそのバナナを植えた。


 まだ、間に合う。

 まだ間に合うはず!

 食べてないし、殺してないし!


 私はバナナを植えてすぐ湖へと走り、自分の頭部の方に生えている葉っぱを千切り、それをお椀がわりに水を掬って植えたバナナに撒いた。

 自傷行為だとかなんだとか言ってられなかった。

 因果応報、次は私がネペンテスモルスのように土手っ腹に風穴を開けられてしまう。


 私は膝を地面について、何度も何度も上体を伏せたり起こしたりを繰り返し、御天道様に懺悔した。




‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐




 宿主の意思や精神が完全に無くなってからしばらくが経過した頃。

 ウチは未だにこの群れに溶け込んでおった。


 まだ力が足りへんし、強くなるにはやっぱこの群れは都合がええ。

 この群れの頭はウチに気付いておらん様子やしな。


 ウチに宿る意思、強者への渇望。

 それにはこの群れを利用するんが一番やと思う。

 ウチは兵士ソルジャーでこの群れでは下っ端やけど、そんなんは関係ない。

 宿主が兵士ソルジャーやったってだけの話で、ウチはウチで強うなって群れの中枢に潜り込んで群れを乗っ取る。

 ここまでがウチの計画や。

 っと、またか……。


 元左腕は群れでの狩りの帰り道、不自然な視線を感じていた。

 そこには宿主や群れの蟻と似た姿、しかし明らかに違う種族の存在がいた。

 本体よりも長い触覚、赤黒い体色、ありえない程俊敏な足。

 しかし、こいつらは足こそ脅威だがそれ以外は敵にならないほどだった。

 左腕は群れと一瞬だけ離れ、母体との共有スキルである【隠密】を用い背後に回ってソレを仕留めた。


 最近多いなぁ。

 何体目仕留めたか、覚えとらん。

 左腕は仕留めた俊足の虫をその場で食し、吸収し、バレる前に群れへと戻っていった。

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