50 種達の道
湖を見つけ、私は自分のシマの拡大作業を実行していた。
結果、楕円形からひょうたん型へと私のシマは大きくなった。
次は、広くなった自分のシマの防衛機能の再設置だ。
新しく株分けした種たちを増やして外周に植える。
でだ、元から植えていたパラスティックプラントの種8本は栄えある植物衆第一期生だし、新しく植えた種たちとは差別化したい。
ということで、昇格させようと思う。
私は種たちに思念を飛ばした。
程なくして喜びの感情が私に戻ってくる。
さて、昇格と言ってもどうしたもんかな。
とりあえず、植物衆の雰囲気に合わせた命名からだけど。
”植物衆”という名に私は明確なイメージを持っている。
それは裏から社会を操り、なおかつ実は街の人から密かに支持を集める格好いいヤクザである。
だからそんな格好いいヤーさんに恥じない名前をつけたい。
んー。
私は一つの答えを導き出し、再び思念を飛ばした。
じゃ君たち種はこれからは称して”若草”となります。
植物衆の若草、です。
新たな種たち二期生には今度名前をつけよう。
まぁ阿形吽行みたいな固有名じゃなくて組織名だけどね。
優秀な子には固有名をつけていけばいいし。
あ、そう言えば森さん。若草たちってもう進化できるんだよね?
《解:是》
だよね。
まぁレベル上限が種だと低いし、先の戦闘でもかなり活躍していたし。
組織の命名と進化で昇格したってことになるでな?
じゃ、進化候補教えて。
《解:パラスティックプラントの種の進化先の候補は複数存在します》
《パラスティックプラント》
《プチマンドラン》
《毒触蘭》
なーるほどなるほど。
毒触蘭とはなんぞ?
《解:毒触蘭》
《綺麗な蘭を咲かすが、毒とウネる蔦を生やした植物》
《毒にかかると様々な状態異常がみられるが、死には至らない》
《解毒薬で治癒可能》
んー。
私も阿吽もプチマンドランだったから、そろそろ違う種の仲間も欲しいなとは思うんだけど。
なんとも言えないな。
(若草のみんなはどんな植物に進化したい?)
((・∀・?))
ですよね。
まぁ毒蘭でいいかな。
歩くとかができなくても警備なら若草もやってたから慣れているだろうし、そのまま若草たちが二期生の司令塔になってくれれば嬉しいしね。
……いや、ちょっと待てよ。
これからも増えるであろう仲間の進化先を私がいちいち考えるのはどうなのかな。
もし、理想のヤーさんを目指すなら、自らが考えて行動できるようになってほしいし、私の指示がないと動けないような組織にはしたくない。
ちなみにだけど森さんはどこら辺どう思う?
《応:不明です》
流石にソレは答えられないか。
んー。
やっぱり若草たち本人に決めてもらおうかな。
ってことで、森さん。
そういう事だから、あの子たちの進化のサポートお願いね。
《了:植物衆一期生プチマンドランの種改め、組織名”若草”の進化を開始致します》
さてと、とりあえずこれで戦力増強とシマの拡大に成功だね。
そんじゃ阿吽の2本と一緒に戦闘訓練でもしようかな。
ここんところ最近、私自身のレベル上げがあまりできていなかった気もするし。
もう大所帯と言っても過言ではない程仲間も増えたし。
私がいつまでも弱いままなのはどうかと思うしね。
私は岩を殴り続けさせていた阿吽の元へと向かった。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
樹海の統治者である蟲師、狂喰害蟲王。
その配下であるマンティサイスは自分の
目的は手下の一匹であるクイーンフォルミーカへの尋問、それと——…
「では、先に道草を処理しましょう」
艶かしいほどに黒く輝く狂喰害蟲王がギシッと顎を動かした。
「と、言いますと?」
「クイーンフォルミーカに対する粛清作業はそんなに大変ではありませんよ。貴方がいますし。私が杞憂しているのは別ですよ」
ボスがそこまで杞憂に思うことがあるのだろうか?
ボスは、私達虫種は一昔前までは種族的にはそんなに強い部類ではなかったらしい。
そんな状況を覆したのは偏にボスが強くなり、統治者階級を得て魔王の種子と肩を並べて虫種の地位を上げたからである。
今のボスはこの樹海内でなら他の魔王種であろうと遅れを取らないどころか圧倒できるほどの実力者であり、私達ファミリーの絶対的
そんなお方が、ここ樹海内で杞憂されることなど……。
いや、そんな方だからこそ油断しないのでしょうか?
「ふふふ」
悩む私を横目にボスは笑みをこぼした。
そして回答を発表するかのように話し出した。
「私の挨拶先ですが、ここ樹海で別勢力を誕生させたらしいのですよ。それなら一度挨拶くらいしておかないとと思いましてね、ここの統治者として」
ボスから威圧混じりの覇気が微量漏れ出ていた。
しかし、未熟な私には分かりません。
なぜ統治者であるボスがわざわざ挨拶に出向くような、下手に出るような態度でいられるのか。
私にはボスの深淵なる考えがわかりません。
「……発言を許していたただけますか」
「いいですよ」
「なぜ、ボスがわざわざ」
「この世に弱者は存在しないからです」
ボスこと狂喰害蟲王は配下のマンティサイスの質問を最後まで聞かず、遮るようにして答えを放った。
「この世は弱肉強食。では強者は一生強者でいられると思いますか?」
「……」
「私は弱者である故に、強者とは違うスタンスで強くなったのです。足を捥がれても、腹を引き裂かれても、頭と胴体を切り離されても、私はしぶとく生き延びたのです。そういう存在は最初こそ論外ですけど、後々厄介でしかなくなる。今の私みたいに、ね」
言い終わるとボスはクスクスと笑っていた。
確かにボスは他の統治者たちからしたら異質かもしれませんが、そこまで卑屈にならずとも、もうボスを厄介だなんて思う存在はいないはず。
皆が尊敬を止まないはず。
「だからですよ。どんなに小さな瑣事であっても、その新たな勢力を誕生させた主とは話してみたいのです。下手に出て、いい顔をして、仲間と思わせるだけ思わせて、心からの信用を得てから私達の養分にしますよ。その時は貴方の力も借りましょう」
「……お任せください」
ボスの表情はどことなく楽しそうだった。
それに、私もどことなく興奮を抑えられていないのを自覚している。
ボスの計画、ソレは実に面白そうだ。
しかし、同時に疑問も浮かび上がっている。
後々大変になるなら、早期解決で息の根を止めればいいのに——と。
やはりボスの思考能力には、私程度では理解できませんか。
(違う違う、そうじゃないって。こうだよ、こう)
そうこう話しているうちに、前方から声が聞こえてきた。
「そろそろですかね」
「では、行きましょう」
私はボスの少し後方に立ち、そして気配を消した。
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