07  お腹すいたー

 しわくちゃブツブツに点三つ、数秒で描けそうな顔だけど進化完了っ!


 この手代わりの根と、足代わりの根はどういう原理で動いているんだろう?

 そういうものと割り切ればいいの?

 歩けるかどうかの心配は杞憂だったみたいだけど、どうも動きにくい。

 ま、進化もしたことだし、もう一度試してみるか。


 森さん、ステータス!




《種族:プチマンドラン》

《名前:なし》




 お!?

 なんか出た。


 直接分かったことは、信じられないくらい少ない。

 種族名と私には名前がないということだけ。

 これだけじゃまだ使えないけど、重要なのはその下にある三つのバーだ。


 一つは赤色。

 一つは青色。

 そして一つは黄色。

 だけどこの黄色のやつ、あと2割くらいしか残っていない。


 これ、もしかしてHP等を表しているんじゃない?

 もし、そうだとしたらかなりの収穫になるよ!

 ちなみにどれがどんな意味があるのか、森さんに聞いてみたけど相変わらずの回答でした。

 ま、生きていれば自ずと分かってくるでしょ。


 我儘を言うなれば進化したときに色々と聞き逃しちゃったから、それをもう一度聞きたいんだけどね。

 寝起きにあんないっぺんに言われたって、覚えられないよ。

 それにこれは女子としてなんだけど、もう少し肌艶が、ね?

 ブツブツでしわしわって……。


 人外だけども!

 植物だけども!

 それでも、元女子としてはちょっと……。


 ま、なんにせよ、収穫はあったから良しとするか!


 さてさて、この後どうしようかな。


 私は周囲を見渡した。

 進化前よりも明らかに見える。

 暗いのに目が慣れたのかな?

 それでも、水場は案の定無かったけど。


 あー、そんなことよりすっごくお腹すいたー。

 前世の私は寝起きは食欲が無かったタチなのに、こうもお腹すくもんなのか。

 あ、そういえば亀、宿主は?




《解:マスターの進化と同時に生命活動を停止しております》

《必要エネルギーの吸収のため、宿主の肉体の消失も確認済みです》




 ……へ?


 私は這い上がってきた自分で掘った穴を見下ろす。

 するとそこには、甲羅だけになった宿主の亡骸があった。

 というか、ちょっと待って。

 必要エネルギーの吸収って何ぞ?




《解:進化に必要なエネルギーです》

《詳細は不明です》




 それで、私はこの亀の肉体全てを吸収したの?

 それにしては、私ちっちゃくない?

 自分よりも遥かに大きな亀取り込んで、これって。

 質量無視とか流石だわ。

 どこで消化されたんだか……。


 この甲羅、使えないかな。

 簡易ハウス的な感じで。


 まぁ、それは追々考えよ。

 今の私じゃ、穴から引き揚げることなんてできないし、持ち運ぶこともできないからね。


 今はそれよりもこの空腹、飢餓感をなんとかしたい。

 でも、だからって適当に水場を探して歩き回っていたら、敵とのエンカウントで私の植物生活はジ・エンドだ。

 この洞穴では未だに魔物とエンカウントしていないけど、結局私は外とたいして変わらない立ち位置だろう。


 人間にしろ、魔物にしろ、私は搾取される側。

 喰われる側の存在。

 奴らからすれば、私は敵ですらない。


 宿主の体を失った私は、動けるとはいえ俊敏性は皆無。

 歩くのがやっと、それもぎこちないよちよち歩きだ。

 先の人間戦同様に逃げ切れる可能性はゼロ。

 だからって、ジッとしていてはお腹が空くだけ。


 最悪餓死もあり得るんじゃないかって思ってるくらいお腹が空いた。

 こっちの世界に来てから一度も空腹感なんて味わったことなかったのに……。

 なんでだろう。




《解:以前のマスターは宿主から養分の吸収をしていました》




 あ、そゆこと。

 まぁなんにせよ、腹が減っては戦ができぬ!


 植物の腹を満たすなら水を探さなきゃいけない、と思う。

 だからといって適当に動き回ると最悪死ぬし……。

 とんだジレンマだな、こりゃ。

 じゃあどうするか?

 選択肢は三つ。




① ここでジッと待機して、雨水とか地下水が湧くのを待つ。


② 危険を承知の上で水場を探す。


③ 食虫植物の真似事をして、水以外を吸収する。




 まぁ、答えはもう決まっているんだけどね。


 食虫植物は、虫を食べることで必要な栄養を補っている。

 理由はそれだけじゃないことくらいは分かるけど、現実的に考えれば③が妥当だろう。

 進化先の候補にもあくまで私の予想だけど食虫植物系統あったし、このどうしようもない空腹感は紛らわせられるんじゃないかなって思うんよ。


 そもそも、ジッと待つ忍耐力も歩き回る気力も残念ながら私は持ち合わせていないのだよ。

 バリバリのインドア派の現代っ子ですからね。

 我慢は苦手だし、宛てがあるならまだしも手探りであるかどうかも分からない水源を探すとか、できることならやりたくない。


 ということで、食虫植物の真似事をして食事を確保しよう。

 それができれば、一時的でもこの空腹感は紛れるだろう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る