08  罠作り始めました

 ということで、食虫植物の真似事をして食事を確保しよう。

 それができれば、一時的でもこの空腹感は紛れるだろう!


 ま、ここでもまだ問題があるんだけど。

 私は一体どうやって獲物を捕まえればいいのだろう?

 獲物を誘き寄せる甘い匂いも出ないし、獲物の動きを阻害する粘性の液体も出せない。

 でも、元人間の学生レベルの知恵はある。


 まず大前提として、私は魔物と戦って勝てるほどの戦闘力はない。

 喧嘩もしたことないヒヨっ子だし、仕方ない。

 戦わなきゃ死ぬって状況なら足掻いてみせるし、お腹が空きすぎて死にそうならこんな悩み自体無駄と思って、なり振り構わず水場なり獲物なりを探すだろう。


 でも、今の私はそこまで追い詰められていない。

 その2、3歩手前でギリ踏みとどまっている。


 ここの洞穴にどんな魔物がいるかは不明だけど、ふんが落ちてるってことは何かしら存在するんだろう。

 それを落とした奴を私は喰らいたい。

 手探りでとりあえずやってみるか、罠作り……。

 じゃ、森さん。罠作るぞー!




《解:了》




 うん、いい返事ってことにしてあげよう。


 それから私は周辺をぎこちなくだが歩き回った、罠作りについて考えながら。

 おかげでこの空間がどういう作りになっているのか大雑把だけど理解した。

 複数に枝分かれした通路。

 そんな迷路のように広がる洞窟には大小様々な空間が至る所に広がっていた。


 残念ながら水場は近くには無かったけど、ここの作りは蟻の巣に近いものを感じる。

 まぁ、もし本当に蟻の巣だとしたら、ここに住む蟻は尋常ではない大きさだけど。


 私は甲羅の上に戻り、次は罠についての案を森さんに尋ねた。




《解:スキルの行使を提案します》

《マスターの要望に有効となるのは【寄生Lv.3】【穴掘りLv.1】【身体操作Lv.1】などがあります》




 ……えっ。

 寄生ってスキルなの?

 というか、進化したのにまだ寄生できるの?

 Lv.も地味に高いし。

 あと身体操作って。

 もしかしなくても、それのおかげでこの手足の根が動くのかな?




《解:不明です》




 なんでやねん!

 有効なスキル教えてくれたじゃん!

 何がわかんないのよ!

 獲得済みのスキルが分かるんだったら全部教えて!




《解:不明です》




 いやいや……。

 え、なんですか?

 意地悪のつもりですか?

 不明なわけないじゃんか!

 さっき、有効なスキルは——…って教えてくれたじゃん!

 反抗期なの? 反抗期真っ盛りの思春期なのかい?

 教えてよ森さん!




《解:Lv.不足です》




 ……スキルの反抗期ってなんだよ。聞いたことないよ。

 はぁ、もういいよ。

 で、なんだっけ。寄生と穴掘りと身体操作だっけ?

 うーん。


 今私がいる部屋のような空間へと繋がる通路は前方に二つ、後方に一つ、右側に一つの計4つだ。

 どうせだったら護衛の意味もある罠を作りたいし、4つの通路全てに罠を仕掛けたい。

 通り道に罠があれば、獲物を引きつける匂いとかなくても自然と引っかかるでしょう。


 まずは試作罠を作ってみるかー。


 私は深さ約1メートル幅五十センチ程の縦穴を試験的に掘った。

 穴掘りスキルのおかげか、かかった時間以外は掘ることに対しての苦労は少なく済んだ。

 けどまぁ、掘ってできた土を穴の外に運ぶのは骨が折れたよ。


 作りは至ってシンプル。

 穴の入り口は狭く、中はそれなりの壺型。

 この形にすれば、そう簡単には穴からは出れまい。

 実際、私も出るのに苦労した。

 身体操作で手を穴の側面深くに突き刺しながらよじ登って、やっと出られたって感じ。


 この試作罠は獲物を捕獲するための穴であって、仕留めるための穴じゃない。

 穴の底に槍なんかを仕込めれば手っ取り早かったけど、残念ながらそんなものは無いのだよ。


 一つ作るだけでもかなりの時間と労力を有するけど、これより少し大きめにしたものを落とし穴の完成形にしてもいいかもしれない。

 ちゃんと獲物が引っかかるかどうかを確認してからだけど。


 ちなみにだけど、試作罠2つ目の穴を掘ってる最中に熟練度なるものが上がって穴掘りスキルはLv.2になりましたよー!


 次に取り掛かるは穴をどうやって隠すかである。

 そしてこれが一番厄介な問題だ。

 すぐ思いついたのは、枝を交互に軽く編んでその上から土をかぶせるという方法。

 しかし、ここに枝は落ちていない。



 ——その時、私は無意識に自分の手足を見ていた。



 っ!?

 いやいや、ないない!

 自損なんて絶対に嫌だよ!

 怖いし、痛いの嫌だし!

 だいたい何を考えていたんだ私は!

 極限状態で思考がおかしくなったのか?

 他だよ、他! 他の考えを巡らせろ!

 えーっと、えーっと。


 ……


 …………


 ………………な、なんも思いつかない。


 うぅ、お腹減った。

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