09  自我のあるスキル?

 ビックリするくらいなんも思いつかない。

 どうすれば穴を隠せる?

 自分には何がある?

 あー、お腹空いたー。


 気付いたら黄色のゲージがかなり減ってる。

 これ空腹ゲージだったのかな?

 もう1割切ってるんじゃないか?


 私は試作品も含めて各通路、計5個の落とし穴を掘っている。

 仕方ないっちゃ仕方ないけど、やばすやばすだよ、これ!

 森さん、なんか案ない?




《解:株分けを提案します》




 かぶわけ?

 それって、結局自損じゃない?

 何が悲しくて、自分で自分を傷付けなきゃいけないんだ。


 あ、嫌すぎて目眩してきた。

 やばい、お腹空きすぎて気持ち悪い。

 うぅ、背に腹は変えられないですかね?




《解:株分けを推奨します》




 あー、さいですか。

 なんていうか一応落とし穴は掘り終わっているから、それを隠せさえすれば罠作りは終わるんだよね。


 でもなー。

 だからって、自分で自分を傷つけるのもなー。

 うーん。


 もう代案が思い浮かばない。

 非凡な私の頭脳は今、空腹のことで頭が一杯。

 ピザ食べたい。

 ハンバーガー食べたい。

 ポテト食べたい。

 コーラ飲みたい。

 カップ麺でもいいのに……。


 背に腹は変えられなくなってきたよ。

 ち、ちなみにだけどさ、どうやって株分けってするの?




《解:マスターの本体から一部を切り離し、それを植えれば可能です》

《現状の生命力であれば、それが最善と進言します》




 生命力がなんだって? 命削るの?

 まぁ、自分の一部を切り落とすわけだし当然か。


 って、そうじゃなくて!

 今、刃物ないじゃん?

 どうやって私の一部を切り離すの?




《解:ねじり取る、ちぎり取る、もぎ取る》

《どんな方法でも可能です》




 できるかっ!!

 馬鹿なの死ぬの?

 マジで何言ってんの、森さん!

 今、そういう冗談いらないから。

 想像して見てよ。

 自分の腕を痛みを堪えてもぎ取るとか、できるわけないでしょ。

 切腹より苦行だよ。




《……》




 へ?


 ま?




《応:ねじり取る、ちぎり取る、もぎ——》




 あーっ!

 分かった、分かったから!

 それ以上言わんでよろしい!


 くそ、もう黄色ゲージが爪の先くらいしか残ってないよ。

 これ無くなったら流石にマズい気がするし。

 もう、なり振り構わずやらなくちゃいけない時期じゃん。

 クソッ、やるよ、やればいいんでしょ!

 ふん、死ぬよりマシだよ!



 私は右手代わりの根を掴んだ、が——



 ありゃ?

 鼓動が早くなるのを感じるよ。

 私、植物なのに、鼓動を感じるよ。

 これ、分かっていたけど想像以上に怖い。

 自分の深層意識が無意識にブレーキをかけて、思うように力が入らない。




《告:マスターの体の主導権を一時的にユニークスキル【森羅万象】へと移行します》




 ……えっ、ちょ、勝手に!?

 ちょま、もうそれただのスキルの暴走だから!

 自我芽生えちゃってない!?

 私の意思は無視!?

 相談くらい——…あ、なんか変な感じになってきた。


 体はあるけど自分のじゃないみたいな、すぐそこにあるのに遠くに存在しているみたいな。



 ”違和感”



 私はここにいるのに、私自身を客観視している感じ。

 私が見た私は、私以上に流暢に体を動かし、なんの躊躇いもなく右腕の根を引きちぎり、淡々とそれを一つの罠のそばに植えた。


 ぶちぶちって音が、なんとも生々しく痛々しい。

 森さんはちぎった腕を筍のように穴のすぐ傍の地面に植えて、ポンポンと土を固めている。

 しかも、分かっていたけど、株分けしたからって急成長するわけじゃないみたい。

 それに赤ゲージがガクンと減っている。


 これ、本当に最善か?




《告:熟練度が一定に達した為、スキル【株分けLv.1】を獲得しました》




 熟練度って、スキルの森さんが一回しか使ってなくない?

 その一回にどんだけ熟練したんだ森さん。

 普通にすごいな。

 感心しちゃうなー。

 ……私の体の主導権戻ってくるよね?

 不安になってきたんだけど。




《告:マスターの体の主導権の返還を開始いたします》




 は、はーい。

 お、感覚が戻った。

 んー、痛みは無いかな?

 普通に戻ってきたのはいいけど、右腕これ再生すんの?




《解:是》




 まぁ、それならいいけど。

 とりあえず私は株分けに成功した。

 罠の数は5個、そのうち1個に自分の腕を植えてある。

 成長すれば、それを網目状に編んでその上から軽く土をかぶせれば罠の完成。


 要はこれをあと4回続ければいい。

 あと、たった4回。

 左手と右足と左足と、あと何を犠牲にすればいいのかな。

 でも、あとたったの4回で罠の設置が完全に終了して、安全と食事が手に入るんだもんね。



 フッ。



 私はもう二度と、絶対に同じ用途で株分けはしないと心に誓った。

 コスパ悪すぎ。

 あとの4つは後々なんとかしよう。


 まぁ、これでなんとか罠の一つは完成したけど。

 これ以上の株分けは今はできる自信がない。

 今私ができることは、これに獲物がかかることを信じて待つしかないのだ。


 私は甲羅の上へと帰還して、部屋を見渡す。


 今できる最善? は済んだはず。

 あとは運次第

 もうやることない。

 というか動かない方が無駄なエネルギーを使わなくていい気がするから、寝ます!

 罠に獲物がかかりますように、おやすみなさい。


 私は本能的に頭頂部の葉以外の体を土に埋め、瞳を閉じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る