43  1期生の誕生

 早朝、私は私が寝ていた近場から聞こえた物音で目が覚めた。

 それは目覚めの瞬間だった。


 私は眠い目を擦り、地面から這い出て体についた土を払う。

 そして出会った、栄えある植物衆の第一期生の私の仲間。


 ちなみにというまでもないけど、”植物衆”ってのはチーム名? 群れの名前? みたいなもので、なんかカッコイイからという気持ちで命名しただけで特に意味はないのだ。

 というか〇〇衆って名前、カッコ良すぎるでしょ?

 これ万人が思う真実。


 ようこそ、プチマンドランたち!

 私が君たちのかしらだよ。


 私は腰に手を当て胸を張って見下ろした。

 そこには以前までの私に瓜二つなワサビ、もといプチマンドランが一本土から這いあがろうとしていた。


 植物衆での最初の目覚めは目の前のプチマンドランではなくパラスティックプラントの種だったけど、やっぱり人型に近しい自立型の植物ともなればって感じがする。

 だから私は楽しみだった、プチマンドランが生まれるのが。


 目の前で地面から一生懸命這いあがろうとしているプチマンドラン。

 あれ、そういえば意思疎通というか私からの一方的な指示はできると思うけど、この子たちの声は聞こえるの?




《解:不可です》

《プチマンドランには発声器官はなく、意思疎通手段を持ち合わせていません》




 まじか。




《応:是》

《しかし、マスターの貯めているスキルポイントを消費することによってスキル【思念共有】を獲得すれば可能です》




 ……って、スキルポイント溜まってたんかい!

 いつまで経ってもスキルポイントが足りませんだの何だの言って、最初に使って以来使えなかったけど。

 ま、そりゃそうか。

 私だって成長しているしそれなりに溜まっているわな。




《応:是》




 ふー、やっとかぁ。

 これでスキルを獲得できるのか。

 でも、できれば強いスキルがいいなーなんて。

 もちろん、思念共有? も欲しいところではあるけど……。

 せっかく溜まったポイントだし。

 今、どのくらい溜まっているの?




《応:28Ptです》




 28?

 なんか、微妙な数字だけどそれって多いの?




《解:不明です》




 ……まだ「不明ですそれ」は健在だったのか。

 なんか久しぶりに聞けて安心しちゃった私がいるのはなぜ?

 私を置いて勝手に強者大人にならないでよ、森さん。




《告:あえて使わず貯める》

《そのような個人の感覚に左右される為、その数が多いか少ないかの判断ができませんでした》




 本当に私を置いて勝手に成長しないでね?




《応:仰ってる意味が理解できません》




 ……。


 普通に考えて、私は生まれてからかなりのレベルを上げている。

 種から始まって、2回の進化を経て今に至る。

 そんな私が28しかスキルポイントを持っていないっていうのは、あまり多い数字じゃないような気がするけど。


 ちなみにだけどさ、そのポイントで他にどんなスキルが取れるか見れたりする?

 ゲームとかじゃ定番というか、普通に自分が取りたいスキルを選べるし。




《解:世界*▲*に接触する為不明です》




 文字化けとノイズが酷いよー、森さん。

 なんて言ってるの?


 森さんの言葉には一部電波の悪い砂嵐音が、そして字面には文字化けが生じていた。




《解:世界*▲*に接触する為不明です》




 ……。

 え、またおんなじところでノイズが。

 まいっか。要は不明ってことだろうし。

 些細なことじゃないんだろうけど、どうせ何度聞いても答え変わらないだろうしね。


 じゃあ質問を変えて、思念共有はどのくらいポイントを消費したら獲得できるの?




《解:26Ptです》




 ほぼ全部っ!


 私は食い気味で森さんの答えにツッコんだ。

 そして頭をよぎるこの言葉。

 ”もったいない”


 私は私自身が貧乏性ということを理解している。

 ゲームをやっていても、回復薬とかいっぱい持ってるのに使わないし。

 強制的にレベルを上げる飴とか、換金用の卵を売れなかったり、どんなにゴミアイテムでも一つは何故か持っていたりetc...


 もちろん、スキルポイントも例外ではない。

 使わない、っていう選択肢はないけど使うなら貯めて強スキルを取りたい。


 でもなぁ。

 相手の言葉を聞きたいというか、森さん以外と話してみたいんだよなぁ。

 そもそも群れの仲間と会話もできないってどうよ?

 相手からならともかく、こっちからの一方通行は嫌だよ。

 ……恋愛てきな意味ではなくてね。

 悩ましい。んー。




 …——カサッ




 突然聞こえた足音。

 反応する気配察知のスキル。

 私は条件反射のように素早く音のする方へ振り向きながら立ち上がった。

 そして目の前に佇むは、顔には目口の三つの点と手足のように動く枝分かれした根。

 淡い緑色の体、葉の生え際には可愛らしい黄色の花。

 ワサビみたいな植物で、よく見慣れた植物。

 私の進化前形態であるプチマンドラン、私の群れの仲間が私を覗き込んでいた。


 あ、あっ、あっ……。


 言葉にならない。

 友好的で、私の明確な仲間という存在は初だ。

 ミギーたちはいたけど、なんというか仲間だけど仲間って感じじゃなかったし。

 いや、可愛がってはいたけどあくまでも植物というか。

 いや、目の前にいるコイツも植物なんだけど。

 ……とにかく、嬉しい。




《告:スキルポイントを消費してスキル【思念共有】をかく——…》




 はいっ! はいはいはい!

 獲得する!

 さすがに気がきくね森さん。

 悩んでいた私が馬鹿みたいだわ。

 これは取る以外の選択肢ないわ。


 こうして私はスキル【思念共有Lv.1】を獲得した。

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