中層域【樹海】 攻略編
36 中層域でも開幕ピンチ
私が知っているソレといえばたくさんの都市伝説を有する富士の
私のような植物である”樹”と、生命の源でもある”母なる海”で形容した区域。
それが、それこそが【樹海】である。
我が同族の住う
今までみたいに敵にばっかり囲まれているとか、そんなこと思わないでしょ?
でだ、何が言いたいかっていうと。
「ダズゲデェ〜ッ!」
開幕ピンチとは、今まさにこの状況のことを言うに違いない。
私を囲うのはヌルヌルで高い緑黄色な壁、足のつかない深いプール。
プールの底には例のアリの……脚? と頭、かな?
今私はとある植物の壺の中に満たされた溶解液に浸かっていた。
否、溺れていた。
……いや、ちゃうねん。
ちょーっと甘い匂いに誘われたとか、飲んでみたくなったとか、そういうのじゃないねん。
《告:ネペンテスモルスの分泌する溶解液から直ちに抜け出すことを推奨します》
そんなこと言われてもっ!
というかネペンテスモルスってどちら様ですか!?
というか、私カナヅチなんですけど!?
あの勝手に森さんが私の体を操っちゃうモードで助けて欲しいんですけど!?
《応:仰っている意味が理解できません》
忘れたとは言わせないからな!
く、クソ……。
ネペンテスモルス。
溺れてから気づいたが、奴は生き物を食べる肉食系植物だったのである。
ネペンテスモルスなんて植物は知らないけど、外観には見覚えがなくもない。
憶測だけど所謂ウツボカズラの異世界版ってところだと思う。
もう説明はいらんであろう?
要するにだよ、私は同族のはずの植物に消化されかけているのだ。
あれ、共喰いって人間視点だとかなり禁忌……。
人間視点じゃ、って。
——こうなったのには、少し時間を遡る必要がある。
中層域【樹海】に到達して私が初めて取った行動は、安全の確保だった。
当たり前といえば当たり前だろう。
中層だの樹海だの言われたところで、私のやる事そのものはあまり変わらない。
第一優先事項は生存なのだから。
樹海とは言っても未知の場所。
それなら慣れ親しんでいたとまでは言わないけど、あの薄暗い洞窟の方が勝手がわかると言う意味では安全といえば安全だろうと考えたのだ。
すぐにでも元居た場所である上層? に行けるよう、そして道は分からないまでも地上に出られるように逃げ道は確保。
もう、逃げ場のないアリ戦の二の前はごめんだしね。
だから私は
自分の縄張りを主張しておけば問題はないだろうと踏んでの行動だった。
周囲に幾つかの穴を掘り、トゲのあるツタを樹と樹の間に張り巡らせて擬似的なバリケードを張って拠点作りは終わった。
次にすべきは食料の確保だった。
ぶっちゃけ腹ペコだったのだよ、私は。
でだよ、ここで聞きたいことがある。
クエスチョン!
自分は腹ペコである。
そしてここ最近どころか数ヶ月くらいまともな食事をしていない。
ご飯が不味いのは当然で、糖分のある甘味になんてもってのほか。
そんな中、蜂蜜のような焼き菓子のような甘い匂いが漂ってきました。
匂いの元を辿ると、テラテラに輝く液体を溜めたお皿状の植物がありました。
手を伸ばせばその液体には届きそうです。
さてどうしますか?
答えは簡単、一択です。
甘味にダーイブッ!
だからね、後先考えずに飛び込んだんだよ。
そしたらさ、お皿状の植物の中央部分がどんどん沈んで逆に縁はどんどん上昇して。
私を包み込むように……。
で、このザマさ。
「ワ゛ラ゛エ゛ル゛タ゛ロ゛」
《応:仰っている意味が理解できません》
……。
どうでもいいけど、もう力尽きそうなんだが?
私はジタバタと溶解液の中で暴れていたが、体力的に限界が近づいてきていた。
冗談を言えるレベルで冷静な私に私自身が一番驚いているんだけど、それを見越しても限界が近い。
困ったクマった。
《告:全身の力を抜き、全てを諦めることを推奨します》
んだと、このやろう!
生きるの諦めろっってか!
《……》
諦めない、私は絶対に諦めない!
カナヅチな私の選べる選択肢は数少ない。
とにかく今は手と足を必死に動かして水面に浮かび、そして壁面に少しでも近づく。
外に出るために!
私はバシャバシャと水を叩き、足をいっぱい動かして
しかし、近づかない。
足を動かしても、水を掻いても。
おかしい。
脳内シミュレーションでは完璧だったのに、今頃は壁を蹴破って外に出ていたのに。
もがけばもがくほど沈む。
あ、ダメだ。
——死んだ。
《告:生命活動の危機を確認しました》
《マスターの体の主導権を一時的にユニークスキル【森羅万象】へと移行します》
私の意識は途絶えた、途絶えた?
あれ?
私は私を俯瞰している。
この感覚、違和感には覚えがある。
森さんにまた私の体を乗っ取られたみたいだ。
そして、当の森さんはというと仰向けでリラックスした様子でプカプカ浮かんでいた。
《告:生命活動の危機が消失しました》
《マスターの体の主導権の返還を実行いたします》
あー、えー、はい。
私の体と意識が再び繋がった直後、なんとなくだけど森さんの呆れたようなため息が聞こえた気がした。
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