K3  修練/Y1  召喚された

 ハーピーロードのピュロリアスが統治する星中核大迷宮【大空】。

 天空街の名に恥じない空に浮かぶ美しい街で反乱の兆しが見え隠れしていた。

 その原因は統治者ピュロリアスが子、ピリアとピリムにあった。

 統治者階級は世襲制でないにしても、子が未完成品ではそれは災いの元になりかねなかったのだ。


 そんなことも露知らず、ワタシは弟のピリアと共に母から修練を積んでいた。

 と言っても、ワタシ達の羽は片翼しか機能しないためまずは飛び方からだったのだが、これがまた難しい。


「ピリア、もうちょっと羽をうまく使って。ピリムは寝ないの!」

「うぅん」

「……」


 羽を使ってって言っても、ワタシ前世じゃ羽なんてなかったし飛び方なんて知らないよ。

 それに物理的に考えても、私たち人型の存在が手に羽が生えていたところで目に見える筋肉量からして飛べるのは不可能だ。

 それこそ魔法でも無い限り。


「ね、ねぇお母さん。みんなの飛行それって魔法使ってるんじゃないの?」

「魔法? こんなのには使わないわよ? あと、ピーリームー?」

「んっ」


 私が無意味と考えている飛行練習中に、弟ピリムは羽を腕枕にして丸くなって寝ていた。


「お姉ちゃんを見習いなさい」

「だって、僕たちこんなのじゃ飛べないじゃん。意味ないよ」


 ピリムは私とは逆の歪な翼をひらひらさせながらお母さんに頬を膨らませながら反論する。

 まぁ、ワタシもピリムの意見には賛成なのだけど。

 だが、そんなことを気にしない様子でお母さんは口を開く。


「ハーピーは生まれてから成長する過程で自然と飛び方を覚えるのよ。それこそ呼吸をする様にね」


 整った顔立ち、額には翡翠色の宝石みたいな物が埋まっていて豊満で妖艶、足は猛禽類のそれ。

 容姿端麗の母の羽は大きく立派で、その容姿にも負けず劣らずの美しさがある。


 対してワタシ達双子の羽は片方は異常に大きく、片方は醜く小さい。

 こんなアンバランスな羽で飛べと?

 無理無理。


「お母さん、ワタシもピリムの意見に賛成。この修練に意味を感じないよ」

「ね」


 そんなワタシ達を優しい目で見る母は諦めず、そして再びお手本になる様に飛んでみせる。


「あなた達はまだ自分を信じていないのよ。そんなんじゃいつまで経っても飛べないわよ? 私達ハーピーの武器はこの飛行能力による高速飛行と超高高度からいかなるものをも貫くスキルなのよ?」

「そんなこと言われても……」


 ワタシたちの飛行訓練はまだまだ続きそうだ。




‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐




 気がつくと俺はソコにいた。

 目の前には、純白のドレスに青いレースと少しウェーブのかかった長い金髪の美少女。

 頭の上には小さなティアラのような物を乗っけている可愛らしい少女が、涙ぐみながら両手を合わせて祈りのポーズのような体制で俺のことを見ていた。


 ……。

 思考が死んだ。

 どゆこと?

 目の前の美少女は、ナニですか?


「……こ、ここはどこなんですか?」

 小柄でビクビクとしながら周囲を窺う、場違いなブレザー姿にスクールバックを持った少女が。


「だ、大丈夫よ、マユ。貴女のことは私が守るから」

 これまた場違いなスクールバックをリュックのように背負う、ポニーテイルのスポーツ少女が。


「咲ちゃん」

「……咲、ここがどこだか知ってるの?」

 そして、同じく場違いな格好のクール系眼鏡少女が俺の後方で口を開いた。


 ……は?

 え?

 ちょっとタンマ、どゆこと?

 なんで同じクラスの前川と佐々木、それに委員長の倉瀬が?

 ってかあんま話したことないし……。

 スーパーウルトラデンジャラス嫌な予感。


「ようこそおいで下さいました、勇者様御一行方!」


 目の前の姫様が、今一番聴きたくないワードを口にした。

 嫌でも察する、この状況。

 というか、そこまで朴念仁ではない。

 急に知らない場所にいて、知らない人に囲まれて、足元に光るいかにもな魔法陣があって、挙げ句の果てには勇者だとよ。


 勇者、それは正義感を振りかざす災いの元凶の一つ。

 勇者、それは魔王と同義。

 勇者、それは人間という大きな一括りを主人とした奴隷。


 ……いや、勇者はまだ誰かとは決まってはいないな。

 流石に性格云々で、俺とは対局すぎるし。

 イケメンでもない、運動が得意でも勉強ができるわけでもない。

 友達? イマジナリーフレンドなら。

 彼女? 何それ美味しいの?


 あ、そうか。

 これは夢、そうか夢だ。

 とりあえず、今は1秒でも早く帰ってゲームしたい。

 今日から新イベと新ステで忙しいってのに。

 それに近日中に大規模なVRMMOが発売されるってのに。

 出席日数がやばすぎて、仕方なく登校したのにこれはあんまりだ。


「勇者?」

「……どういうことですか? ここはどこなんですか? しっかりと説明してください」

「も、申し遅れました。わたくしはガブリーナ王国第一王女、スティー・ペル・サスライスと申します」


 目をうるうるとさせながら、高圧的なメガネ委員長こと倉瀬に頭を軽く下げる王女様。

 その身なりと言動で逆に王女じゃなかったらビックリだわ。


「急に呼び出してしまってごめんなさい。わたくし達の都合で勝手に呼び出して、本当に悪いとは思っているんです! でも、ま、魔王が」


 何このテンプレ。

 茶番か?

 三流以下の喜劇か何か、それとも新手のいじめだな。

 よし、早くこの夢から起きてネトゲをするか。


「おやすみなさい」

「ね、寝ないでください!」

「……」


 なんだろう。

 後ろの女子の視線が……。


「これまた失礼も承知の上なんですけど困惑しているかと思いますので、状況説明も兼ねて皆様のステータスを開示させていただきます」


 王女の発言のその刹那、俺の目の前に例のブツが表示された。




《種族:人間Lv.1》

《名前:山田胡桃》

《称号:【現住者】【引籠者ニート】【人族守護者勇者】》

《攻撃力:689》《防御力:245》《魔法力:530》

《俊敏:205》《器用:231》《知力:379》《幸運:∞》




 なんで、勇者、俺が?

 百歩譲って村人とかでしょ?

 俺、ただの半引きこもり状態のニート(笑)だよ?

 称号見てないの? ニートだよ?!

 顔も知らない他世界の他人のために命はるとか、どんな人生クソゲーだよ。

 というか、こんな思考をしている時点で勇者に向いてないでしょ!

 それに現住者って。俺はこんな所に来たことも見たことも無い!

 どっちかって言ったらよそ者だろ?

 それに幸運∞だ?

 どこが。


「咲ちゃんと夏菜子ちゃん……」

「どうしたのマユ?」

「この、称号? ってところに【聖域守護者】って書いてあるんだけど、私は無宗教だよ?」


 前川真由よ、今時の日本人はほぼ皆が無宗教だろ。

 強いていうなら神道……ってそうじゃない。


 オドオドしている小柄な少女こと、前川真由まえかわ まゆがポニテ少女佐々木咲ささき さくに話しかける。


「私は【守護者長】ってのがあるんだけど? 委員長は?」

「私は【魔導者長】ってなってる」


 委員長、倉瀬菜夏菜子くらせ ななこは目の前に映っているであろうステータスを睨みつけながら呟いた。


 なんだこれ、なんなんだこれ。

 俺はこの人たちのことなんてなんも知らないけど、流れ的にこの三人とパーティーを組んで魔王を倒せとか言うんじゃないだろうな?

 そんな俺の不安を目の前の王女は肯定するかの様に口を開いた。


「昨今魔王達の動きが怪しく、わたくし達の守護者たる勇者様方に守っていただきたく召喚させていただきました。私達の為、人族の安寧のため戦ってはくれないでしょうか?」

「……無理」


 俺は無意識のうちに口が動いた。

 王女の近くにいる護衛の兵達が眉間にシワを寄せているとも知らず。


「嫌だ、無理。家に返して。なんだこのクソゲーは! お前らが滅ぼうが俺には関係ねぇ! 命がもったいない!」


 俺は叫んだ。



 

 そして気がつくと、城の一室に俺一人だけ軟禁されていた。

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最終形態はなんですか?~生態系ピラミッド最下層な私は成長と進化を繰り返して頂点を目指す~ アユム @uminezumi

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