31  嬉しい報せ

 怪獣ちゃん、この恩は忘れないぜっ!

 君には感謝してもしきれないよ。


 とりあえず、私は生きている。

 本当にとりあえず、満身創痍だけど。

 手は無くなっちゃったし、体中は傷だらけだし、赤ゲージはミリしか残ってないし。


 はああああぁぁぁぁぁーーーー。


 本当に死ぬかと思ったわー。

 食うか食われるか、死んだら終わりの自然界。

 その弱肉強食の世界で生き残ってさえいれば、それは戦いに勝ったと言っていい。

 私はそれをこの戦いで痛感した。


 本当に、幸運としか言えない。

 アリ戦前に私が怪獣ちゃんを見つけていなかったら、石化による武器の入手はできなかった。

 あの時戦って勝てる算段は無かったけど”もし”怪獣ちゃんを倒していたら、あそこでの登場はなかった。

 もっと遡れば、アリ達にマイホームを襲われてEx.スキル【絶体絶命】を獲得していなかったら、ここまで幸運に事が運ばれることはなかった。


 色々な幸運の積み重ねで、私は今生きている。

 生を実感できる。

 ただ生きている、それがなんだかすごく幸せだ。


 ま、今回は自分で撒いた種なんだけどね。

 えへっ。


《応:是》


 あ、はい。

 自分以外に肯定されると、なんかイラッとくるものがあるよね。


 さてさて、森さんは置いておいて、今の状況確認からしていこう。

 私はかなり奥の方まで進んで逃げた。

 逃げて逃げて逃げて逃げて、気付いたら下り坂だったけど気にせず駆けて、そして現在迷子と。


 いや、元から迷子だったよ?

 この洞窟に逃げ込んだ時からずっと迷子なんだけども。

 迷子がさらに迷子になることなんてザラでしょ?




《告:分体、個体名”ミギー”の進化を確認しました》




 ……


 …………


 ………………えっ。

 は、え、ミギー!?

 いきなりというか、は?




《マスターとの繋がり、系譜からの還元により各種能力値が上昇しました》

《還元によりスキル【再生Lv.1】を獲得しました》

《還元によりスキル【空振探知Lv.1】を獲得しました》

《その他、所持スキルの熟練度へと還元されました》

《熟練度が一定に達した為、Ex.スキル【食物連鎖Lv.1】を獲得しました》

《同時にプチマンドランはLv.9からLv.10へとレベルアップしました》

《レベルが上限に達した為、進化が可能になり——…》




 ちょ、ちょっと待って!

 勝手に話を進めないで!

 進化なんて後だよ後!

 どういうことなの、なにミギーが進化って。

 ミギーは生きてたの?

 生きてるの?




《解:是》




 ……そ、そっか。

 ミギーは生きているんだ。

 あの時、たくさんの繋がりを断たれた感覚の中にミギーのはなかったんだ。

 私はてっきりアリ共に全てを奪われたと思っていたけど、無事だったんだ。

 あのアリに囲まれた状態からどうやって生き延びたとか、今までどうやって生きてきたのかとか気になることはあるけど、とりあえず吉報ってことだよね。


 今すぐにでも会いたいけど。

 ねぇ森さん、今ミギーがどこにいるか分かる?




《解:不明です》




 ですよね。

 というか、分かってたらマッピング能力的なのが凄そうだし、迷子になってないか。

 そうか、我が子は進化をしたのか。

 感慨深いですなー。

 我が子、我が子ね……。

 はぁ。


 自分の子供を囮に生き延びる親。

 とんだ鬼畜野郎でごめんなさい。




《解:マスターと分体は親と子という関係ではありません》




 じゃあ兄弟?

 というか、そんなことは些細な違いでしょ!

 水をささないでよ。

 私の分身体だから、厳密にはもう一人の私なんだろうけどさ、そこはほら親子って関係の方がいいじゃん。




《応:仰っている意味が分かりません》




 はいはい。


 ミギーはどんな姿に進化したのかな。

 そのまま種を卒業して、寄生植物パラスティックプラントかな?

 それとも私と同じワサビかな。

 いつか再会できたらいいけど……。

 ミギーからもらったスキル再生と空振探知は有り難く使わせてもらおう。

 ちょうど私ボロボロだし、早速【再生Lv.1】を試してみようかな。




《応:スキル【再生Lv.1】を実行いたします》




 森さんのアナウンスの後すぐ、私の身体中にある大小様々な傷口が微かな淡い光を帯びた。

 流石に石化した足は対象外みたいだけど、千切られた腕等の他の傷口は光っている。

 そして、ものすごくゆっくりなスピードで再生が始まった。


 まだ使い物にはならないけど、熟練度を上げれば化けるかもしれないスキルだ。

 今回は大きな傷が多いし、完全復活するなら土に埋まって寝たほうがいいかもだけどね。

 空振探知は文字通り、空気の振動を感じ取れるって感じなんだろう。


 でだ、私はミギーのおこぼれでレベルが上がって上限に達してて、進化までできちゃうってことか。




《応:是》




 マジでか。

 嬉しいような、情けないような。

 前みたいに候補とかはあるんだよね?

 教えて。




《了:プチマンドランの進化候補は複数存在します》

《マンドラン》

《レッサーマンドレイク》

《ディオナエア》

《ドクノコカズラ》

疫茸苦巣エキノコックス




 案の定よく分かんない候補はあるんだな。

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