29  vs蟻——④

《告:分体の根付けに成功しました》

《アーミーアントへの寄生を開始しますか?》

《 YES or NO 》




 YES一択です。




《応:分体のアーミーアントへの寄生を開始致しました》

《只今、寄生率は1%です》




 これでいい。

 やられたらやり返す、倍返しだ!

 私が先にやらかしたことだろうと、関係無い!

 生きるか死ぬかの戦いに、容赦も情けもクソも無い。

 最悪の結末は私の死だ。


 寄生行為にはデメリットがある。

 それは時間がかかるのと、私自身が寄生するわけにはいかない為、生命力を削って株分けした後に寄生しないといけないということだ。

 残存生命力が少ないと、自殺行為になるから使えない。


 しかし、現状ではそれを取って補えるほどのメリットがある。

 私自身の身代わり、肉壁要員として活躍してもらえる可能性があるのだ。

 流石に寄生後すぐは無理でも、ちょっと経てばピンチの時に肉壁になってくれる。

 寄生率が10%もあれば、命の関わる程のピンチに合えば助けてくれるかもしれない。

 アリは味方想いの節があるから、無闇に宿主には攻撃できまい。

 生き残る事を勝利条件にするなら、多大な期待ができる。


 あと、さっきの戦いはちょっと無茶しすぎたかもしれない。

 何度も何度もアリの硬い外骨格にダメージを与えただけに、右腕の石にヒビが入ってる。

 とりあえず【硬化】で応急処置しておこう。


 もう、タイムリミットまで残り数分。

 どうするかなー。


 私はふと外側の堀の更に向こう、アリがやってくる通路を見た。


 何、あの白くて小っこいの。

 今まで私が相手にしていたのは、人間サイズの巨大アリだ。

 それに比べると半分以下で私と同等レベルのサイズだし、体色は綺麗な白色。

 ピョンピョンと素早く跳ねながら移動している。


 ……って、早すぎない? それに。

 それに、妙に大きくてゴツい個体が3匹と、顎がクワガタの様に長くて鋭い個体が5体。

 なんで、別種同士で共闘して私を潰しに来てんの?

 アイツらは何?




《解:蟻です》




 いやいや、そうじゃなくて!

 アリかどうかも疑わしい所だけど、もうそれはいいや。

 そうじゃなくて、私は別にあの3種の仲間には手を出していないよ?




《解:不明です》




 ……まさか。

 勘だけど、アーミーアントの進化した姿だったりして。

 所謂上位種ってやつだったりして。




《解:不明です》




 うん、それしか考えられない。

 だって、あんな如何にも強そうな相手に手を出した覚えない。


 タイムリミットまであと僅か。

 武器となる石化脚にはヒビが入り、左手は喰われた。

 逃げ道もない、上位種相手に勝機もない、打つ手なんか皆無。

 いや、そんな事言ってる場合ではない。

 無理でもやらなきゃ死ぬのは私なんだから。

 アリの特性上、鳴き声に反応しているみたいだから……っ!?


 私は振り返り、足を全て捥ぎ取った囮のアリを見た。

 そして、考えがまとまった。


 アリがここを目指してくるのは、囮がいるから。

 その囮を遠くに投げたら、自然と。


 私は囮の下から手を通し、持ち上げ……。

 持ち上げ……持ち……。

 重いわっ!


 即座に断念した私は、次に触覚を掴み引っ張った。

 これなら動かせる。

 とりあえず、コイツは内側の堀に落とす。


 ギシィッ!


 外側にいるアリはまだしも、内側は囮の鳴き声に反応して集まる。

 だから私はそことは反対方向から飛び降りて内側の堀突破!

 んでもって外側の堀の状況は……ヒィッ!?

 キモッ、というか多っ。


 もぞもぞとひしめき合う外側の堀は、軽く地獄絵図だ。

 堀の内外で数匹数十匹ってレベルじゃ無いとか、手に負えねぇ。


 堀の外、こちらを伺っているまるで別種の上位個体数匹はともかく、一つ目の堀すらも突破できないアリ程度なら、さっき戦った内側のアリよりかは弱いはず。

 っといっても、あの数を相手にしたら5秒と保たない。

 それにもう私は左手は無いし、石化した手足にも限界が近い。

 HPを示すであろう赤ゲージも、さっきの左手の件でごっそり減っている。

 何か、手は無いか?




《解:先程捕食された為、片腕は損失しています》




 知ってる!

 その手じゃない!

 方法はないか? って意味だよ。

 いや、そんなことはどうでもいいんだよ!


 堀に落ちている個体はスルーで基本問題ない。

 数は脅威だけど、そこから出られないなら。

 相手にしている時間が惜しい。


 問題なのはその堀をどうやって超えるかだ。

 一度降りたら、待っているのは死のみ。

 かといって、飛び越えられるほど柔な作りではない。


 ジャンプして、アリを踏み台に飛んで、また踏み台にして飛ぶ。

 これを繰り返して反対側まで——…ってできるかっ!?

 私は運動音痴なんだから。


 穴掘って移動も時間がかかるし、現実的じゃない。

 というか、その間に接近されたら積む。


 残る方法は、やっぱアレしかないか。

 そう、魔法!

 今ここで開花させずに、いつ使う?

 私の奥の手は地属性魔法だ。

 火事場の馬鹿力的な感じで使えるようになる、はず!

 想像するんだ、反対岸へ渡す橋を。

 顕現せよ、地属性魔法!


 ……


 …………


 ………………




《告:マスターの不具合を確認しました》




 殺意が顕現しました。

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