20  修行開始!

《告:熟練度が一定に達した為、スキル【身体操作Lv.4】が【身体操作Lv.5】へとレベルアップしました》




 何の前触れもなくスキルのレベルが上がった。

 なんとなく要因はわかっているけどね。

 運痴ウンチの私が息を切らしながらも全力ダッシュで逃げて、休みなく歩き続けて今に至るんだから。


 私はその場で足踏みをしたり、屈伸をしたりした。


 うーん。

 全然、軽快には動けないけど、動けないんだけども前世の私レベルくらいにはなったかな?

 元が悪いから何とも言えないんだけどね。

 指はないからあまり器用な動きはできないままだし。


 私は足の根を曲げて真っ直ぐ上へと跳ねた。

 そして着地。


 ジャンプ力は言わずもがなだったけど、このレベルアップの影響か着地を初めて決めたかもしれない。

 私の足は何度も言うが枝分かれしている根だ。

 そんな足もどきじゃ、今まではジャンプする度に転んでいた。

 酷い時には走るだけで転んでいた。


 それがどうやら解消されたっぽい。

 何度も、何度も飛んでみて検証した結果、10回に1回くらいは転ぶけど着地ができるようになった。


 とうとう私もジャンプができるのかー。

 今までジャンプができなくても別に困ってなかったけど、細かいことは気にしない!

 何か新しいことができることに意味があるのです!


 さてと、かなり移動したことだし、そろそろ修行を始めよう。

 蟻の大群にはもう会いたくないし、あんなのが巣食っているこんな洞窟から出ることも考えたけど、今まで逃げてきた道のりで外の空気というかそんなものを感じなかった。

 だから、私の修行場所は半ば強制的に洞窟になった。


 まず始めなくちゃいけないのは、食料の確保だ。

 腹が減っては戦ができぬ。

 私は腹ペコなのだ。

 ってことで、なんかいない森さん?




《解:不明です》




 だよね。

 でももう黄色ゲージがかなり減ってるんだよ。

 いくらご飯食べても半分しか回復しない、謎ゲージが。


 あっ、そういえば称号【生存弱者ヨワキモノ】を獲得した時に、気配察知ってスキル獲得したっけな。

 ご飯見つかるかな……。


 一度立ち止まった私は目を瞑り、周囲の気配に気を配る。

 ——が。


 わからんっ!


 まだレベル不足が原因ってならいいけど、そもそも気配察知って武道の達人とか年月をかけてようやく習得するモノじゃん。

 あー、強くなりたいけど、楽して強くなりたい。


 ご飯を狩る時に使えるスキル候補として、最近ゲットした影操作っていうのもあるんだけど。

 これがまたクセしかない。


 確かに、影は操作できるけど先っぽの形をちょっと変えたり、一回り二回り大きさを変えるくらいで、正直いつどのタイミングで使うスキルなのかわからんのだ。

 手品師とかだったら嬉しいスキルかもだけど。

 私の想像だと、影で攻撃したりとかなんかそういった強スキルだと思ったんだけどな。


 実際問題、獲物を仕留めるのに使えそうなスキルって咬合力と生命吸収くらいじゃない?

 実戦積むにも、一対一じゃなきゃ”死”しかないし。

 動けるようになったとは言え、雑魚のままだし。


 けっ。

 ライフ1でハードモードプレイとか。

 私はゲームは好きだけど、うまかったわけじゃないんだが。

 この世界に私を送り込んだ主は何を考えているんだか。


 今まで洞窟を徘徊し続けて居たのは、基本的に2〜3匹の群れを成していた。

 でも、強くなるにはやっぱそういうのにも挑んで行かなきゃいけない気もしなくもないし。

 文字通り死ぬ気で頑張るってのも、ねぇ?




《告:推奨致しかねます》




 でしょ。

 森さんが言うんだから、間違いない。


 とりあえず、生き抜くのに適している隠密と逃亡スキルのレベル上げも兼ねて、私はくノ一にでもなってみようかな。

 背後から気配を消して忍び込み、相手が私に気づく前に仕留める。

 それなら影操作にも使い道が出てくるかもしれない。


 おっ、いいかもしれない。


 穴掘って、落ちた獲物を生き埋めにするだけが私の戦い方じゃないってところを見せてあげようじゃないか!

 なんだか、やる気がみなぎってきた。

 男子じゃなくたって、忍者とかって憧れの的だし格好いいもんね。


 今までの不名誉な称号なんかじゃなくて、もっと格好いい『忍』とかもらえるかも!

 お腹かなり空いているし、今の私は感覚が研ぎ澄まされている。

 さー、群れから逸れた奴、もしくは単体でいる奴の背後から忍び込んで襲って食ってやるか!




《告:敵意を感知しました》




 突然、私の使い物にならなかったはずの気配察知に何かが引っかかった。


 数は……1、かな。

 ちょうどいい、グッドタイミング!

 気配は後ろか。


 私はさながら忍びにでもなったかのように、気配を消して隠密に気配のある背後を見た。

 そして、視界一杯に広がる灰色の毛むくじゃら。

 なんか見覚えあるな。


 ……ヒィッ。


 思わず後ずさる私。

 そこには何本も足を持つ私が初めて仕留めた獲物、名前は忘れたけど、見慣れたネズミが目と鼻の先にいた。

 長細い体にムカデみたいに何本も生える脚を持つネズミは、下品にも毒々しい色のヨダレを垂らしながら私を見ている。


 気配察知は決して使えなかったわけではないのだ。

 ちゃんと使えていた、ただレベルが低く極端に狭い範囲での気配察知という形だが。


 穴に落ちていない、弱っていないネズミって、こんなにも圧があるの!?

 というか、気配察知使えなっ!

 もう、目の前で気配に気づいても意味ないって!

 もっと、せめて10メートルくらい離れてる段階で敵意を感じてよ!




「チュピィーーーーッ!」




 ネズミは上体を起こして私を見下ろしながら、威嚇をし始めた。


 こ、光栄だね。

 こんな明らか雑魚な私に威嚇してくれるなんて、少しは警戒されるだけの実力が私から溢れちゃってるってことでしょ?

 フッ、ビビっているなら逃げてもいいよ。

 今回だけは見逃してあげるから。

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