41 右腕左腕交互に見て!
あの日、母体から切り離されたその瞬間にミギーは生まれた。
毎日母体はミギーに意思疎通で話しかけてくれていた。
でも、ミギーからは意思を飛ばせなかった。
それがミギーの心残り、だったのかもしれない。
一言くらい、ミギーから何か話したかった。
そんな心残りも虚しく、アリに包囲されてしばらく経ったあと母体はミギーたち分体から離れていった。
最後の指示、最後に聞いたメッセージはアリたちの足止めだった。
あと、ごめんなさいって何度も言ってた。
ミギーにはわからない感情だったけど。
母体を、本体を守れるのであれば、分体であるミギーたちは死んでも何も思わないから。
だけど、ミギーは生き残っちゃった。
ただ運が良かっただけなのか、それとも母体との繋がりが一番近かったおかげか。
とにかく、生き残ってしまった。
ミギーはこのあとどうすればいいのか。
以前までは、指示を待ってそれをただただ遂行すればよかっただけだったけど。
今はその母体は近くにいない。
母体に会えればまた何か変わるかな……。
でも自分から移動することはできないし……。
母体みたいに自分で動けるようになれれば、探しに行けるかな。
そう思ったミギーはアリ戦で得た経験を元に、進化をした。
進化先は母体をイメージして。
そして、いつの日かまた指示をしてくれていたあの日に戻れることを願って。
ミギーはその直後進化の眠りについた。
《進化の成功をお知らせします》
《種族プチマンドランになりました》
《各種能力値が上昇しました》
《進化によりスキル【身体操作Lv.1】を獲得しました》
《熟練度が一定に達した為、スキル【再生Lv.1】を獲得しました》
《熟練度が一定に達した為、スキル【空振探知Lv.1】を獲得しました》
《母体所持Ex.スキル【食物連鎖Lv.1】の効果により、一部スキル共有化に成功しました》
長い長い眠りから覚めたミギーは自分の意思で動けるように、歩けるようになっていた。
よく覚えているミギーの母体と同じ姿。
あと、薄ぼんやりと周囲が見える。
空気の振動? 鼓動?
なんだか微弱だけど、ミギーの見えない所のこともわかる。
これでミギーは母体を探しに行ける。
ミギーは周囲に転がっている少数のアリの死骸、それと元兄弟の成れの果てを踏みつけながら母体探しの旅に出た。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
今日もウチの仕事は変わらへん。
巣の周辺警備。
でも最近疑問、というか思うことがあんねん。
それは、なんでウチがアリに協力せなあかんねんと思う反面、それは仲間なんやから当たり前やろと思うウチがおること。
要するにこの後者の意見、これが最近のウチの疑問であり悩み? 思うこと? やねん。
ウチの意思に宿主の感情っちゅうんか、思いっちゅうんかが入り混ざってる気がするんや。
正直鬱陶しい。
ウチはウチ一人やのに。
ただ、最近になってから分かったこともあんねん。
それはウチにはウチの意思があるという事。
これがさっきあげた前者にあたんねんな。
ウチはただの分体であって、ただひたすらに命令を遂行するだけの為に生まれた。
最初はそんなことばかり思っとってん。
それこそがウチの当たり前やって。
せやけど、母体の意思とは別にウチの考えもあることに気づいてん。
ウチにも自我がある。
ただそこに共通するのが、強さを求めているということ。
ウチはアリに寄生して、寄生率も直に100%に達成する。
したらばアリの意思、アリに対する仲間意識は消えるはず。
それがウチの戦闘スタートの合図やと思う。
ウチが考えて決めた結果、第一目標は今所属しているアリの群れを乗っ取ること。
ウチは機動力のあるアリの体もあるし、仲間を増やす寄生能力もある。
特に寄生能力を伸ばせばウチは強くなれるっちゅう話やな。
《アーミーアント(
《進化条件を満たした為——…》
キタ。
とにかく、ウチは強さを強さだけを。
もう、あの時母体を通して感じた苦渋を味わわない為に
誰にも奪われない屈さない強さを求めて、ウチは行動を開始した。
…—— 一方その頃の私はというと、株分けの合間に休憩しつつたくさんあるハエを食べていた。
「ゲェーッ」
やっぱりまっずいわ。
臭みと不快感しかないわ。
美味しそうな食料がいっぱいある樹海で、こんなに不味くて臭い飯を食わなきゃいけないとか。
はぁ、萎えるわ。
しかも、この不味さになれる気もしない。
私は視線をハエの山へと向けて、再びため息を吐いた。
娯楽が少ない今の生活で、唯一の楽しみが食事なのに。
何か調味料ないかな〜、
なんか一人称バグったわ。
《告:マスターは通常運転かと思います》
はいはい、常に頭バグってますもんね。
……チッ。うるさいわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます