40 世界の異分子、バグ発生
どっこらせと。
終わったよ、森さん。
私は最後のハエを手放すと、その場に腰を下ろした。
……
…………
………………はぁ。
怒らせてはいけない人ってウチのクラスにもいたけど、まさかスキルにもいたとは。
《応:固有名称【森さん】には心、感情は存在しません》
《怒りに限らず、喜怒哀楽全て——…》
嘘だね!
うーそーだーねーっ。
誰がその言葉を信じるもんか。
私は食い気味に反論した。
否、反論せざるを得なかった。
何が感情無いだよ。
じゃあ何さ、たまに感じさせる圧力は。
何が読心術だよ、恐ろしすぎるわ。
《告:Ex.スキル【食物連鎖Lv.1】の行使を確認しました》
《【食物連鎖Lv.1】の効果により、スキル【読心術Lv.4】が固有スキル名『森さん』との共有化に成功しました》
っ!?
……い、いやいやいや。
《告:熟練度が一定に達した為、ユニークスキル【森羅万象Lv.3】は【森羅万象Lv.5】へとレベルアップしました》
はあ!?
いやいやいやいやいやいや。
なんだよそれ!
おかしいって!
共有って何さ、私がスキル欲しさに駄々こねたみたいじゃんか!
心がない?
感情がない?
それなら、なんでそんな謝罪じみた行動が取れるんだよ。
というか、まだ私が効果も意味も理解していないEx.スキルを勝手に使えちゃっているし。
行使を確認って、私は使っていないからね。
というか、使い方も知らないからね!
というか、森さんのレベルが2も上がってるし。
というか、というかというかうるさいわ!
……はぁ。情緒不安定かよ、私は。
《……スキル【読心術Lv.4】を使用し、マスターの心理状況を読み解き最適な行動を計算した結果の共有化でした》
いやいや、もういいって。
……ん、計算?
《応:是》
《暖色系列及び喜びの感情が見える為、マスターの発言には矛盾があるかと》
……。
いたたまれない。
本当にいたたまれない。
意味がわからなかったけど、実は満更でもないとか。
恥ずっ。
それでその照れを隠して森さんに怒っていたのがバレてたと。
恥ずかしすぎる。
よ、良い子のみんな〜。
読心術ができるからって勝手に人の心を読み解いちゃいけないぞっ!
私は体を捻り、後ろ後方へと振り向き手を顔にあてて片目を閉じた。
メタい、あまりにもメタすぎる。
そして痛すぎる。
《w》
はい、プッチーン。
もう怒ったわ。
これは怒だわ、案件だわ。
《マスターの記憶を読み漁り、感情と記憶の一部をインプットした結果の行動——…》
それやめてって言ったよね!?
くそっ。
今すぐにでもぐちゃぐちゃに丸めてクニャクニャにしてやりたいのに、相手はスキルだし手が出せん。
この恨みは忘れんぞ、
私の沸点は、おそらく人並み以下だったのだろう。
もしくは、怒りであまり事の重大さに気づいていないかったのだろう。
今、この世界にて
ただのスキルが感情を手に入れかけていること。
ただのスキルが別世界の情報を読み解いたこと。
ただの一個人のスキルが強すぎる力を手に入れかけていることに。
それはまさに
だが、当の私はというと、地団駄を踏んだいた。
くそくそくそくそ!
私の考えを読むな!
プライバシーを覗くな!
ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ。
ハァ……ハァ……ハァ……。
とにかくだ、もう色々と秩序がなさすぎるのが問題だわな。
ストレスで禿げそう。
こうなった原因をかなーり振り返れば、ネペンテスモルスに原因がある。
異論は認めん!
前提として人間ならまだしも、私たち植物同士が殺し合う必要はない。
そう思わない?
そもそも、ここは樹海。
植物、樹々の海。
そんな所でまで同族殺しをするなら、私たち雑魚の安全な場所がないじゃん?
それに、あのハエもそうだ。
私に一直線に飛んできた感じを見るに、弱い植物は喰われてきたはず。
私が安心して、なおかつ優雅に暮らすには。
そして強さを求めて安心して修行を続けられるには最低限の秩序、調和が必要だ。
この樹海は、以前まで私がいた洞窟の中よりも色々と危ない気がする。
私がいてもいなくても樹海は樹海だったのだろうけど、今後は違う!
植物 イズ マイ ファミリー。
自然の摂理に則って、雑魚はまとまって強者に立ち向かおうじゃないか!
あ、当然雑魚の
自分勝手結構、自己中上等だ。
自然は、樹海は私の手で管理して、私の思い描く楽園に作り替えてやればいい。
幸いにも、食料には困らなそうだし。
そもそも、今まで一人で生きていくことに固執していたけど、それが間違っていたんだよ。
よし、今後の方針は私軍を結成して樹海を制圧だ。
そして樹海=植物の楽園に。
《応:了》
そんじゃ、早速だけど避けていた株分けをしていくか。
痛いけど軍さえできれば、群れてさえしまえば、手を出しにくくなるだろうし。
非常食のハエもいるし、今なら私の根性を見せればいいだけだ。
ふぅーーーーーー。
私は長く細い息を吐き、覚悟を決めた。
そして私は目を瞑り、自分の右手に手を掛けた。
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