10 これは所謂ピンチというやつです
はぁ〜、よく眠れなかった〜。
お腹空きすぎて、快眠だったとはとてもじゃないけど言えない。
それはさておき、朗報でーすっ!
なんと、寝ているうちに千切れた断面から小さな右腕が復活してました!
不思議ー。
私が植物だから?
でもなんていうか、左右の鋏のバランスが悪い蟹みたいで不格好なんだよね。
私は地面から這い上がり、軽く伸びをしながら森さんにステータスの確認をお願いする。
案の定、黄色ゲージは尽きており赤ゲージは半分を過ぎた今もなおゆっくりと減少を続けている。
これ、赤ゲージ無くなったら私死ぬんじゃない?
株分けの時の減りを見て、赤はHPを意味しているはずだし。
と、とりあえず、罠の確認から行こう。
寝てる最中に何回か物音が聞こえたから、何かしらいると思う。
というか、いないと困る。
さ、気を引き締めて罠の確認と行きますよーっ!
早速、私は昨日株分けした元右腕ちゃんを植えた穴を見に行く。
近づいて分かったんだけど、元右腕ちゃんはちょっとと言うか、かなり私の進化前の姿に似ている。
たんぽぽの綿毛みたいにふわふわで、心なしかその綿毛みたいな物がモゾモゾと動いている気がする。
《解:株分けによって生成されるマスターの分体は、進化前の形態となります》
ほへー。
ってことは、これはパラスティックプラントの種ってことかな。
発芽済みみたいだけど。
私と違って、意思があるようには見えないんだけど、株分けってそういう物?
《解:不明です》
ですよね。
私の分体ってことは、私からの指示は通るのかな?
起立! 気をつけ! 礼!
私の元右腕ちゃんは私の思念と連動した。
綿毛がピシッと天井に真っ直ぐ伸びたと思ったら、中腹あたりから綺麗に90度に綿毛を曲げて礼をしている。
あっ。
そう言えばこの綿毛、根なんだったっけ。
これ、私の指示が通るなら網目状に穴を覆って土を被せば罠としては完璧なのでは!?
余裕で穴を隠せるじゃん!
ま、HPさえ減らなければの話だけどね……。
って、今はそんなことより獲物だよ獲物!
私は恐る恐る穴の中を覗き込んだ。
《告:熟練度が一定に達した為、スキル【暗視Lv.1】が【暗視Lv.2】へとレベルアップしました》
いや、うん。
嬉しいけど、今はその報告いらない。
というか、暗視なんてスキルいつ取ったっけ?
一瞬、空腹が原因でそんなことを考えてしまったが、それが間違いだとすぐに気付いた。
今まではなんとなくのシルエットしか見れなかったけど、かなり視界が良好になっている。
それだけで安心感が全然違ってくる。
流石に遠くの方はまだ全然見れないけど、手前の方はかなり見やすくなった。
私はいつからこんな便利スキル、暗視なんてものを持っていたんだろう。
視力なら持ってるけど、暗視なんて……。
進化の影響かな?
少し暗いのに目が慣れ始めていたということも相まってか、かなり見えるようになった。
見える、見えるぞ! 私には獲物が見える!
穴の中の獲物は這い上がってこようとしていたのか、穴の側面にはやたらと傷が見えるが、今はそんな素振りを見せていない。
それどころか、弱っているようにも見える。
まだ穴は隠していないのに、見事に獲物は引っかかっていたのだ。
獲物は森で何度か出会した足が異常に多い細長いネズミ。
ちなみにだけど、森さん。
これはなんて魔物?
《解:鼠です》
あ、そう。
”不明です”じゃないだけマシかな。
鼠、ネズミねー。
正直サイズがデカすぎて、ネズミって感じはしないけどネズミなんだよね。
宿主だった亀よりは小さいけど、それでも私の倍以上はある。
人と会ったことが一度だけあるから、それを目安に考えるなら人の1/2くらいかな?
まぁ、初めての獲物にしては上出来だけど、まだ罠完成してないんだよなぁ。
これ、株分けいらんかったんじゃない?
穴隠さなくても、獲物手に入ったし。
……。
いやいやいや。
そ、そんなことないよね!
これからも、こんなにうまく獲物が罠にかかるとは限らないし!
それに肉は確保できたし、そんなのは些細なことだよね。
ネズミは食べたことないけど、肉は肉だよ、うん!
と、とりあえず、弱っている今のうちに仕留めちゃおう!
私は獲物を仕留めに、穴に飛び降りた。
——この時とった行動を、後の私は酷く後悔した。
——考え無しすぎた、と。
何度も言うが、私の戦闘力はかなり低い。
いや、それどころかゼロに等しい。
そんな私が、弱っているとはいえ殺されそうにされている獲物の傍に降りたらどうなるかなんて、誰でも分かるであろう。
ネズミは最後の足掻きを見せ、私の体に牙を立て複数の足で拘束してきたのだ。
ぎゃあああああああああ!?
死ぬ、痛い、苦じい!
ちょ、ちょっ、歯が食い込んでるって!
どこにそんな力が残っていたんだ!?
やばい、千切れるって!
ってか、何か体に流し込んでない!?
痺れる……いや、痛い!
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛ーい!
な、何しやがる、離せコラ!
《告:熟練度が一定に達した為、スキル【毒耐性Lv.1】を獲得しました》
毒!?
私は齧られ拘束されながら、手足をジタバタと動かす。
しかし。
ぎゃああ!?
もっと食い込んできだぁぁああああああ!?
ただでさえHPジリ貧だってのに、このままじゃ全損だよ!
クッ……、これでも喰らえ!
私はネズミの足に噛み付いた。
《告:残り体力が3割を切りました》
ヤバい。死ぬ?
嫌だ。
抗え、生きろ!
生に執着するんだ!
私は噛み付いた。
何度も何度も暴れるネズミの足に噛み付いた。
黄色ゲージが何かわかんない。
でもこれが回復しなくちゃ、ネズミと空腹の二方面から体力を削られる。
少しでも何か腹に入れるんだ!
相手の血肉を吸い喰らえ、全てを吸い取り尽くせ!
赤と黄のゲージが激しく
《告:熟練度を一定に達した為、スキル【咬合力Lv.2】が【咬合力Lv.3】へとレベルアップしました》
《熟練度が一定に達した為、スキル【生命吸収Lv.1】が【生命吸収Lv.2】へとレベルアップしました》
《熟練度が一定に達した為、スキル【身体操作Lv.1】が【身体操作Lv.2】へとレベルアップしました》
まだだ、まだまだ!
訳も分からず、こんな世界に連れてこられて、あっけなく死ぬわけにはいかない!
死んでたまるか。
生きるのは私で、死ぬのはお前だ!
ご飯の分際で図に乗るな!
……
……………
……………………
《告:ラーロルドラットピードの生命活動の停止を確認しました》
《プチマンドランはLv.1からLv.2へとレベルアップしました》
あれからどれだけの時が経過したんだろう。
気がついたら私は力無きネズミの上で眠っていた。
どうやら生き延びたようだ。
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