第37話
僕が出会う人はすべて心を読むことができるのだろうか?
そう思ってしまうほどに、師匠然り、妖精然り、ケイト然り、そして凛然り。出会うすべての人に心を読まれている気がする。
「レディースアーンジェントルメーン!ウェルカムトゥーアヴァ―ラロイヤルスクール!」
とどこぞのワンダーランドを思わせる挨拶をしたのは学長だった。
以前何回かパーティーで見たことがあるから恐らくあっているはずだ。
「へえーさすがトリマーナ様、伯爵家は違いますね」
「あのー心を読むのやめてもらっていいかな?君は知らない話だと思うけど僕は心を読まれることにつかれているんだ」
「いえ存じておりますとも」
「ならいいんだけど……じゃあそっとしておいてくれるかな?心を読まれるというのは知らないだろうけど、結構きついんだよ?」
「いえ存じておりますとも」
「ならいいんだけど……じゃあそっとしておいてくれるかな?」
「いえ存じておりますとも」
「……」
「いえ存じておりますとも」
僕は彼女をまじまじと見つめる。そういえばロボットだったっけ?壊れた機械のごとく繰り返し繰り返し同じ言葉をしゃべって何がしたいのか。
いや、目的が僕を怖がらせることならばそれは彼女の勝ちといっていいのだが。
「じゃあ、この勝負は私の勝ちですね?」
「何も勝負はしてないはずだけど?」
「さっき心で仰ったではありませんか。『それは彼女の勝ちといっていいのだが』なんて言っていたではありませんか」
どうやら隠す気はなさそうだ。
「分かった分かった、君の勝ちでいいからもう心を読むのはやめてもらえないだろうか?僕は安寧を享受したいんだ」
「あれ?友達が欲しい見たいなこと仰ってませんでしたか?せっかく私みたいな美少女と友達になる機会が目の前にあるというのに。タマナシですか?」
ん?気のせいだろうか。その端正な顔立ちからは到底想像できないようなお下劣な言葉が飛び出してきた気がするが。
「気のせいじゃありませんよ?しっかりタマナシですか?と聞いたんです」
どうやら気のせいじゃないらしい。
「気のせいじゃないのか。じゃあ確かめてみるかい?僕がタマナシなのかそうではないのか。ほーれほーれ」
そういって腰を突き出し、やり返す。恐らくこれで収めることができるだろう。さすがに僕のズボンを脱がすほどの気概はないはずだ。
「いいんですか?では」
「え?何やってんの君」
完全な意識外からの魔の手にすぐさま防御を固めながらそう聞いた。
「ですからタマナシかどうか確かめるんです。確かめていいってさっき仰ったじゃないですか」
「確かに言ったけれど、え?普通しないよね?年頃の女の子ってのは初対面の男子のズボンを普通に下げれるものなのかい?」
「違うんですか?少なくとも私の生まれ故郷では皆こうしてましたよ?」
そんな故郷があってたまるか。」
しかしそんなツッコミをしている余裕はないようだ。三十六計逃げるに如かず、ここは離脱させていただこう。僕の貞操の危機である。
「貞操までは奪いませんとも。ただほんのちょっと見るだけですから。そうです、ほんの先っちょだけですから」
「……」
もう何も言うまい。僕は一目散にその場から逃げ出した。これ以上この場に留まってはどうなるか分からない。
いや、ただ一つだけ分かることがある。それは、決して僕の望む結果にはならないということだ。
先生の制止を振りほどき、僕は式場から退場する。
「お待ちになって~」
そんな間延びした声が聞こえた気がするが、無視だ無視だ。
僕はヴァーユが待つであろう教室に一目散に逃げこんだ。
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