第36話
凛の飛び込み入室もあったが、それ以外のハプニングはなく、つつがなく入学式の事前説明は終わった。
もっとも当の本人は始終恐縮していたようだ。顔が真っ赤でさえあった。
しかしながら、落ち着きを取りもどすための時間を用意してくれるはずもなく、彼女は始終緊張したまま入学式に臨んだ。といっても皆緊張はしているのだが。
「それにしてもあの娘は目を引くね。まっすぐ歩けていないじゃないか。こっちがハラハラするよ」
それもそのはず、彼女はありとあらゆる置物にぶつかりながら、入場した。一つ残らずの置物にぶつかったのだ。はい、大事なことだから二回言いました。
「別段、大事なことでもないだろうに。まあ大事ではあるかもしれないけどね。あんな高そうなもの壊したとなったら大事だよ」
しかし、その心配は当たらない。何を隠そうこれらすべての置物には防御魔法がかけられているのだ。よほどの威力出ないと壊すことはおろか傷一つつかないだろう。ただの一新入生にそれができるはずもない。もっとも僕は壊すどころか粉々にすることも可能だろうが。
「力を示すことは確かにいいけど、壊すのはやめた方がいいよ。この置物はどうやら全部一級品みたいだ。下手に壊さないほうが身のためだよ?」
そんなことは分かっている。ただ言ってみただけだ。
「フーン。ならいいけどね。どうやらふ力を持て余しているみたいだから、フルパワーで暴れたいのかもと思ってね」
何処にそんな阿呆がいるのだろうか?そんな馬鹿みたいに力を誇示して何が楽しいというのか。持て余しているのは事実だがこんなところでぶっ放す僕ではない。これ見よがしに力を見せびらかす僕でもない。
「それぐらいにしておこうか。いよいよ入場だよ?拍手でお出迎えください」
そうアナウンスに合わせて冗談を言う彼女であったが、その目は真剣だった。
「どうやら今の僕でも感知できるような強者がいるようだ。少し面倒になりそうだしここでお暇するとしよう。教室で待っているよ。じゃあバイバイ」
そう軽やかに帰ってしまった。ついに話し相手がいなくなってしまったではないか。一体どうすればいいのか。
「あのー、今朝助けて頂いた凛というものですが……トリマーナ様で間違えないでしょうか?」
「ええ、そうですが?」
「あぁ良かった……これで人間違いまでしてしまってはキャラ崩壊待ったなしですからね。私は真面目ちゃんなんですからここから挽回しなければ」
迷子と飛び込み入室に酩酊までかまして真面目とな。どんなメンタルをしているのだろうか。
「あぁ……そうですね……。真面目なのはいいと思いますよ。では先を急ぎますので」
「いえ、それには及びません。貴方と私は隣同士なようですので」
「あれ?席は決まってなかったはずですが?」
そういって僕のクラスに割り当てられた席を見てみると、なんと二席以外すべて埋まっているではないか。
「お分かりになりましたか?どうやら貴方に取り付いていればいい感じになりそうですので一計謀らせて頂きました。ではいきましょうか」
なんで僕の周りにはこうとんでも発言をする人しか現れないのだろうか?僕に安住の地はやってこないということなのだろうか?
「貴方がとんでも発言をするからではないですか?奇妙奇天烈な発言をするから同類が寄ってくるのでしょう。類は友を呼ぶって奴ですよ」
なるほど。どうやら僕に安寧は許されないらしい。
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