第35話

 学校につくと恐らく教員であろう人が指示を出していた。どうやらここでケイトとはお別れのようだ。


 入学式は生徒と保護者は分かれるようだ。もっとも執り行う場所は同じなようだが。


 クラス名簿を見て、僕は指定されているクラスに入る。ご丁寧に音声説明までついていた。税金の無駄遣いな気もするが、王立の学校なのだからこれぐらいは普通なのだろうか。


 先程の一件もありギリギリの時間で入室した僕は最後の一人だったようだ。僕以外の席はほとんど埋まっていた。


「おい、あいつ例のムショクやろうじゃないか?」


「死んだという話を聞いたがあれは嘘だったのか?」


「いや葬式もどきはあったようだから恐らく他人の空似というやつだろう」


 そんなひそひそ話が聞こえてきた。なるほど彼らは初等部で一緒だった者たちのようだ。しかしながら、今の僕はアーノルドではないからここは彼らが言うように他人の空似で押し通すほかはない。


 僕は動揺することもなく知らぬ存ぜぬという表情で指定された席についた。


 どうやら貴族グループと平民グループとで分かれているようだ、もっとも今まで彼らは平民と接する機会などほとんどなかっただろうからそれが正しい選択なのだろう。入学初日からギスギスしていては困るからな。


 もっとも、それを意に介さないような者が数名ほど見られるが、かなり特殊な部類だろう。そもそも彼らはまだ十歳児であり幼いのだ。この国の仕組みを完全に理解しているわけではないのだから、なんとなくほかの身分の人たちと接しづらいのはあるだろう。


 え?そんな偉そうに言う僕はどうなのかって?


 そんなの決まっているだろう。もちろん話せるわけではない。ただ漠然と接しづらいとかではなくそもそも僕が人と会話することが苦手なのだ。そんな分かりきったことを一々解説させないでほしい。


「いや、誰もそんなこと聞いてないと思うけどね、そもそも皆理解しているところだと思うよ?」


 なるほど、ただ自爆しただけか。芸術は爆発だとか言うからな、感情を手にしたことで芸術心を持つことができたことの表れだろう。何も恥ずべきことではない。


「感情を手に入れる前から自爆はしていた気がするけどね、あの恥ずかしい呪文詠唱は今でも思い出してしまうよ。あれは愉快だったね」


 いま必死に心を落ち着かせようとしているのだから、古傷を抉るのはやめてもらいたい。


「では、今から点呼を始める。名前を呼ばれたものは返事をするように」


 と、突然教卓から声がした。どうやら僕の知らぬ間に先生が入ってきたようだ。


 ふむ。僕に感づかれずに入ってくるとは中々だな。流石先生といったところだろうか。


「いやいや、そんな特殊なことはしていないよ。現にほかの皆は気づいていたようだしね。先生が入ってきた瞬間皆ビシッとしていたよ。逆に君が浮いていたぐらいだ」


「……」


「それでは点呼を始めようか。では初めは……」


「遅れてすいません!!道に迷ってしまいました!!」


 そう勢いよくドアを開いてのは何を隠そう先程出くわした凛だった。


 せっかく最後の一人なんて言って、必死に見間違いだろうと思っていたのに何のひねりもなくフラグ回収してしまった。


「まあいいんじゃない?面白くなりそうだし」

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