第34話

 翌日、僕はケイトと風の妖精改めヴァーユとともに中等部の入学式に臨んだ。


 僕たち以外は皆母親と父親のどちらか、若しくはその両方と連れ立っていて、僕たちだけ親同伴ではなかった。


 普通ならば恐縮してしまうところだろうが、僕は彼らより五年は精神的には年上なのだ。全く劣等感というのを感じないというとうそになるが、ほとんど感じることはなかったし、ケイトが着いてきてくれるだけで満足だった。


 中等部といっても所詮は十歳児の集まりだから、中には親とはぐれてしまったようで泣いている子供もいた。


 その子は恐らく平民の出なのだろう、質素な服をまとっていた。


「そこのお嬢ちゃん、どうしたのですか?」


 ケイトがすぐに反応し声をかけた。お嬢ちゃんなんてジジくさい言葉を使ったことに少しばかり驚いたが、ここは目をつぶろう。


「えっとね、えっとねお母さんとはぐれちゃったの」


 なんだなんだ、やけに幼い言葉を使うではないか。それとも普通の十歳児というのは皆そういうものだろうか?


「そんな訳ないよ、どうやらこの娘はまだ精神が未発達なようだ。若しくは猫を被ってるとかかな?」


 なるほど、猫を被っているという線もあるのか。いやはや人間というのは奇想天外なことをする奴もいるらしい。わざと泣いて同情を誘ってスリでも働くのだろうか?意地汚いやつもいるものだ。


「まあスリと決まった訳じゃないけどね、普通に精神年齢が低いだけなのかもしれない。それに意地汚いなんて言ってるけど、今のところ君より意地汚い人は見たことないね。君のおっぱい発言に勝るものは未だに見てないよ。みたくもないけどね」


 中々に言ってくれるではないか。ここで言い返したいところだが、どうやら進展があったらしい。気づいたらケイトはその母親を見つけ出し、無事に再会を果たせたようだ。何より何より。


「君がいうセリフじゃないと思うけどね」


 まあそんな小さなこと気にしなくても良いではないか。終わり良ければ全て良しというではないか。


「その言葉を借りるならまだ始まってすらいないと思うけどね。まあ小さなことを気にするなというのには同意だよ。さっさと行こうか」


 ケイトが僕の方に戻って来たところで僕たちは再び入学式に向けて歩き出す。


 道中でケイトがいうには、あの娘は凛というのだということ。僕の予想通り平民の出だということ。そして僕と同様、本日学校に入学するということだ。


「思わぬところでフラグが立っちゃったね。どうやら君の彼女候補の一人かな?」


 僕が直接話したわけでもないのにフラグになるのだろうか?しかも変なトラブルに巻き込まれないようにあえて僕が行かなかったというのに。


「まあ存在しないフラグを無理に作って回収するというのがこの世界でのお家芸みたいなところがあるからね。今回は直接会話していないとはいえ君が目にしてしまったんだから、君がその娘の名前を知ってしまったんだからそれは免れないだろうよ。耳は災いの元ってね。よく言うでしょ?」


 それを言うなら口は災いの元ではないだろうか?まあ今回は心の中で言ってしまったのだから、ヴァーユが言うように学校で会うことは避けられないだろう。今までフラグを回収して来た僕だからこそわかる。


「君でなくとも分かりそうなものだけどね。まあ良いさ蓋を開けてのお楽しみってね。退屈そうだったけどどうやら楽しくなりそうで良かったよ。いやあ重畳、重畳」


 果たしてこれぐらいのフラグを回収したところで楽しくなるのかは甚だ疑問だけれど、ともかく会話相手が増えると言うならありがたい話だ。


 手のひらを返しすぎな気もするけれど、これが僕のお家芸だから仕方がない。そんなふうに言い訳をしつつ学校を目指すのだった。

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