第33話

 結局、僕はその妖精と夜を明かして語り合った。


 語り合ったといっても、何も大言壮語という訳ではない。たわいもない話を深夜テンションでお送りしただけのことだ。お泊りにはしゃぐ学生よろしく。友達のほとんどいない僕には縁も所縁もない話なわけだけれど。


 腹を割って話せる相手がいるというのは存外楽しいもので、僕たちは時間を忘れて話し続けたという訳だ。


 再びケイトがやってきた時に僕は夜を回っていたことに気づいたのだ。ケイトは僕が沈んでいるとでも思っていたようで僕のやけに晴れやかな顔を見て困惑していたのが面白かった。


 一週間後、僕の戸籍偽装は完了した。これから何をするか決めかねてはいたけれど、とりあえずはほかの子供たちと同様に、学校に通うことにした。


 精神年齢は五歳年上ではあるけれど、他にすることもない僕にはこれ以外の選択肢はなかった。冒険者になろうにも学校を卒業しなければならないし、魔法を極めようにも学校以外では不可能に近い。そもそも僕には魔法を極めるだけの知識が備わっていないのだから、学校に行くほかにあてはなかった。


 それから数か月後の中等部の入学式まで、僕は本を読み出来る限り知識を得ることにした。数か月の間は父上とモ母上とも話すことはなく、ケイトと妖精と弟のマインハルト以外の人と接することはなかった。


 一人ほど人外が混じっている気もするが、気にしない。弟のマインハルトも約一月ぶりの登場でもあった。


 頭が煮詰まれば、空を飛びピクニックに行き、森の中でキャンプなんてこともした。


 ケイトは何故か空を飛ぶことができた。しかも、僕と同じスピードで。ますます謎は深まるばかりだ。下手したら父上よりも強いのではないだろうか?そんな疑問を抱くほどに彼女はそこが知れない。もしかしたら今の僕でも苦戦するかもしれない。


 あとは、妖精に名前をつけた。ヴァーユという名をつけた。やや重すぎる名前のような気もするが、本人曰く風の精霊のようだから、まあ適当だろう。


「その言葉が存在する世界とは異なる言語体系なんだから、重いという訳じゃないよ。ここまでメタ発言が過ぎると君の前世が気になるねぇ。君は本当にこの世界の住人なのかい?」


 僕の前世は師匠の師匠のはずだが。そもそもその発言に特に意味はない。ただ浮かんできた言葉をただ言っているだけのことだ。心行くまま、行き当たりばったりに発言しているだけだ。


「そういうことを言っているんじゃないけどね。まぁいいさ、とりあえずは言葉には気を付けた方がいいよ。君はかなりの数をコード化しているようだしね」


 そういえばそうだった。今では、ざっと百八個はコードを持っている。その忠言は有難く受け取らせてもらおう。


「それにはもう突っ込まないよ?さすがにツッコミどころが多すぎていささか僕も疲れたきた。もうちょっと当り障りのない発言をしてもらいたいね」


 そんなに疲れるならば、スルーすればいいというのに。なんとも自分の役職に律儀な奴である。尊敬の念すら抱くほどだ。合掌。


「尊敬するなら僕の願いも聞いてもらいたいものだね。学校が始まってからは、僕がいつでも突っ込めるわけじゃないから程々にしてよね。一応はついていくけど、姿はほかの人に見せないようにするからね。見えない存在と喋っていては気味悪がられるだろうからね。粋な計らいというやつだよ」


 それを言ってしまえば粋とはいかないのでは?しかしながら、孤立するのも嫌だから大人しくいこうか。今まで孤立していたやつが何を言っているんだと思うかもしれないが、何も好き好んで孤立していたわけではない。


「そうそう、そんな感じでお願いするよ。以前の君のように自己解決型でお願いね~」


 明日は、いよいよ中等部の入学式だ。

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